ファーストフラッシュ

紺色橙

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第一章 3か月

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 日差しが温かい。
 今まで洗われたことのないカーテンが洗われ、風に揺れる。
 嗅ぎ慣れた柔軟剤の匂い。

「なぁ、春祭りとか行くか?」
 おつかい以外は出かけない雪に声をかける。
 家のことは全て任せているが、おそらくこいつは自分の用事では出かけていない。
 俺がバイトに行っている間にどう過ごしているのかは知らないが、四角い部屋は四角く掃除されている。

 鉛筆が止まる。
 1か月以上経って、坊主頭は伸びてきた。
 それでもまだまだ、見苦しいから切れというほどでもない。
 手を伸ばしてその頭に触れる。
 とげとげして、でも柔らかい毛。
 なんでこいつは坊主なんだろうか。
 似合わないのに。
 手間が省けるから?
「ここら辺は別に桜だの何だのの名所でもないから、花が咲いてるとかはねーけど」
 市のイベントだ。
 子供向けのSLなんかが走り、そこらの商店街から出てきた店や一般的な露店が川沿いの広場に集まる。
「何となく春だからやってるってだけの祭り。露店は出るよ」
「オレは、いいです」
「やだ?」
「あの、オレなんかが一緒だと良くないと思うから……」
「良くないって何が」
 ただの言葉を、そのまま返した。
 何も考えずに、ただ返した。
 止まっていた指先が、ぎゅうっと握りこまれる。
 視線が落ちる。
「あんまり出歩いてねーから言っただけ。今度散歩でもしような。今日はカーテン干してるし、窓開けたままだから家に居よう」

 暖かくなり、また寒くなり、また暖かくなり、そのうち寒さが消え雪も消える。

「なぁ、お前何で雪っていうの?」
 うちに来てから買った服は安物だが、まだよれてはいないし薄汚れてもいない。
 ごく普通の地味な恰好。
 あいつが自分を"なんか"というのはもはや見た目の話ではないだろう。
「雪の日に生まれたから」
 単純な名づけ。
「親の名前は?」
「お父さんは秋人で、お母さんは桜さん」
「へぇ。もし父親が秋生まれで、母親が桜咲いてたからだったら、お前の名前の単純さはもう家系だな」
 沈んでいた目が開かれる。
「今年は雪降らなかったけど、来年は降ると良いな」

 こいつが父親から離れおっさんのもとで生きていくのなら、髪は伸び骨に肉もつくだろう。
 雪の日の約束をするのは俺じゃない。
 でももし雪が今後降るのなら、こいつを思い出すこともあるのだろうか。
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