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はい、もちろん大歓迎です。また会いましょう! ――なんてことは言えなかった。当たり前だ。
昼過ぎ。次また会いたいか、それともお断りするかの連絡に悩む。
少しオレンジみのあるライトのなか店の掃除をし、一つでも多く買ってもらえるように商品を整えながら悩む。
石は自らが力を持っていて、僕の少ない魔力を溜めておくことができる。だからこの微力すぎる力でおまじないをかけるのだ。悪いものから身を守るためのおまじない。少しだけ勇気が出せるおまじない。その勇気の行く末を僕は知らない。
夜が更け客層が変わり、女性にプレゼントするための酒飲みおやじたちが店に来る頃になっても悩んでいた。彼らが買うのはおまじないではなく、女性の気を引くためだけの見るからに豪華な宝石。店からすれば売れれば何でもよいので、希少性や入荷したばかりということをアピールする。
僕との会話は絶対に面白くなかったはずだ。相槌だって適当だったし、聞かれたことに答える程度で話をこちらから膨らませようともしなかった。そう、仕事でしていることをそのままお見合い相手の彼にしたのだ。
何より僕は自分の中に薄っすらと持っていた差別意識に気付いてしまったのに、どんな顔をしてまた会おうというのだ。
「こんばんは」
店のベルが鳴り、青い制服を着た男がドアを開けた。中に入れば左手に抱えた荷物を両手に持ち直す。そうしてカウンターにいつものように荷物を置き、いつものように僕がそれを確認したのを見て頭を下げた。
――身近に獣人がいないと、昨日僕は嘘を吐いたようだ。
嘘を吐くつもりはなかった。本当に意識の外にいた。毎日のように店もしくは店主宛ての荷物を運んでくる宅配便会社の制服姿は、昨日お見合いした彼と同じく獣人だった。
確かに世間話をすることはないし家族関係でも友人関係でもないけれど、ここまで毎日のように接している存在もなかなかいない。だけども全く意識していなかった。
「お疲れ様です。ありがとうございます」
お見合いした彼とは違う濃い焦げ茶色の耳。帽子をかぶっていないのは邪魔になるからかな。半袖から出る筋肉質の太い腕。うちではあまり重いものを取り扱ってはいないけれど、他ではきっと活躍するんだろう。ぺこぺことお辞儀をして去る後ろ姿に、やはり尻尾はないのだなと思う。
獣人は人間とまったく同じ社会で、法律で、生活している。
彼らの耳は僕らとは違うところから生えているが、音を聞くという役割は同じ。彼らには元々魔力がないが、僕のように例え少しだけあっても価値がない。
彼らと僕らに違いはあるか? 無いとは言えない。だけども一つ一つ見ていけば、ほんの些細なことのように思う。なのに僕はお見合いの彼を、身近にいたことにも気づいていなかった獣人を、全て知った振りして見下したのだ。
埃を掃い、敷布や値札を正し、ガラスケースを磨く。お客様の見やすいように鏡の角度を変え、蛇のように伸びるチェーンの絡みを整える。運ばれてきた荷物の内容を確認し、傷がないかチェックしてリストに照らし合わせる。レジを閉め閉店作業を行い、忘れ物の確認をした。
昨日彼が「また」と言ったのは社交辞令じゃなかろうか。一日中反省のように考えて、今更それに思い至った。だけどもあんなに真剣に――まっすぐに立つ耳を思い出すとほほえましく思う――人の話を聞く彼は、社交辞令という一種の嘘を言うだろうか。
一度しか会っていない人間を理解できるわけもない。それでなくたって今まで、勝手に決めつけていたのだし。
帰宅して、アドバイザーの彼女に向けてメッセージを送る。彼が社交辞令で言ったのならば、彼女を通じてお断りが来ているはずだ。それならば僕からも断ればよい。もし、そうでないのならば、僕は再びあの人に会おう。
夜中に送り付けた連絡に翌日返信があった。フルネームを隠さなかったバロウ・ストーンの返事は、「次を望む」だ。一晩寝ても、僕の考えにも変わりはなかった。そう言ってくれるのならば会おうじゃないか。次回からが本当の、お見合いの仕切り直しだ。
昼過ぎ。次また会いたいか、それともお断りするかの連絡に悩む。
少しオレンジみのあるライトのなか店の掃除をし、一つでも多く買ってもらえるように商品を整えながら悩む。
石は自らが力を持っていて、僕の少ない魔力を溜めておくことができる。だからこの微力すぎる力でおまじないをかけるのだ。悪いものから身を守るためのおまじない。少しだけ勇気が出せるおまじない。その勇気の行く末を僕は知らない。
夜が更け客層が変わり、女性にプレゼントするための酒飲みおやじたちが店に来る頃になっても悩んでいた。彼らが買うのはおまじないではなく、女性の気を引くためだけの見るからに豪華な宝石。店からすれば売れれば何でもよいので、希少性や入荷したばかりということをアピールする。
僕との会話は絶対に面白くなかったはずだ。相槌だって適当だったし、聞かれたことに答える程度で話をこちらから膨らませようともしなかった。そう、仕事でしていることをそのままお見合い相手の彼にしたのだ。
何より僕は自分の中に薄っすらと持っていた差別意識に気付いてしまったのに、どんな顔をしてまた会おうというのだ。
「こんばんは」
店のベルが鳴り、青い制服を着た男がドアを開けた。中に入れば左手に抱えた荷物を両手に持ち直す。そうしてカウンターにいつものように荷物を置き、いつものように僕がそれを確認したのを見て頭を下げた。
――身近に獣人がいないと、昨日僕は嘘を吐いたようだ。
嘘を吐くつもりはなかった。本当に意識の外にいた。毎日のように店もしくは店主宛ての荷物を運んでくる宅配便会社の制服姿は、昨日お見合いした彼と同じく獣人だった。
確かに世間話をすることはないし家族関係でも友人関係でもないけれど、ここまで毎日のように接している存在もなかなかいない。だけども全く意識していなかった。
「お疲れ様です。ありがとうございます」
お見合いした彼とは違う濃い焦げ茶色の耳。帽子をかぶっていないのは邪魔になるからかな。半袖から出る筋肉質の太い腕。うちではあまり重いものを取り扱ってはいないけれど、他ではきっと活躍するんだろう。ぺこぺことお辞儀をして去る後ろ姿に、やはり尻尾はないのだなと思う。
獣人は人間とまったく同じ社会で、法律で、生活している。
彼らの耳は僕らとは違うところから生えているが、音を聞くという役割は同じ。彼らには元々魔力がないが、僕のように例え少しだけあっても価値がない。
彼らと僕らに違いはあるか? 無いとは言えない。だけども一つ一つ見ていけば、ほんの些細なことのように思う。なのに僕はお見合いの彼を、身近にいたことにも気づいていなかった獣人を、全て知った振りして見下したのだ。
埃を掃い、敷布や値札を正し、ガラスケースを磨く。お客様の見やすいように鏡の角度を変え、蛇のように伸びるチェーンの絡みを整える。運ばれてきた荷物の内容を確認し、傷がないかチェックしてリストに照らし合わせる。レジを閉め閉店作業を行い、忘れ物の確認をした。
昨日彼が「また」と言ったのは社交辞令じゃなかろうか。一日中反省のように考えて、今更それに思い至った。だけどもあんなに真剣に――まっすぐに立つ耳を思い出すとほほえましく思う――人の話を聞く彼は、社交辞令という一種の嘘を言うだろうか。
一度しか会っていない人間を理解できるわけもない。それでなくたって今まで、勝手に決めつけていたのだし。
帰宅して、アドバイザーの彼女に向けてメッセージを送る。彼が社交辞令で言ったのならば、彼女を通じてお断りが来ているはずだ。それならば僕からも断ればよい。もし、そうでないのならば、僕は再びあの人に会おう。
夜中に送り付けた連絡に翌日返信があった。フルネームを隠さなかったバロウ・ストーンの返事は、「次を望む」だ。一晩寝ても、僕の考えにも変わりはなかった。そう言ってくれるのならば会おうじゃないか。次回からが本当の、お見合いの仕切り直しだ。
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