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同性愛者なので女性と結婚しても子供は99%発生しない、ということを言わなかった。濁した言葉をアドバイザーの人はきっと、『子供はそこまで強く望んでいない』と受け取っただろう。なので紹介された女性たちも『そこまで子供を望んではいないけれど』くらいの人だった。仕方なしに結婚相手を探しているような。
登録してから二週間ほどして一人目に会い、当然のように振られた。相手が女性であり恋愛対象外であるという事実は全く慰めにはならず、ただ自分が受け入れられなかったという事実は結構くるものがある。
二人目には少し慣れ、話は一人目より弾んだ気がするけれどやはり振られた。お相手の本名は教えてもらっていないが、振られる痛みで逆恨みする人がいてもおかしくはなさそうだ。
二人連続して振られた時点で気が沈み「この活動を続ける意味はあるのか、いや、無い」と自問自答しつつアドバイザーへの返答を伸ばす。売りのない僕に会ってくれるだけでもありがたいことなんだろうけど、前向きに受け止めるのは困難だ。
少し間の空いた三人目。失礼だがおしゃれの苦手そうな女性に会う。身に着けられるアクセサリーは全部つけてみたという感じで、気合を入れてきてくれたことだけは伝わって嬉しかった。皆同じように周りの目を気にし結婚相手を探していて、仲間のようだと親近感も沸く。実際これからの人生を共闘するのだと考えれば、同じような立場の人と出会える相談所は適している。でもまぁ、振られた。
僕はやはり女性だというだけで透明の壁を感じていた。この人を強く求めることは無いし、愛情を持つといっても精一杯のものではないだろうと自分でわかってしまう。もしかしたらお相手にも同じような人はいるかもしれないけれど、心の内は分からない。本当に共闘関係を認めてくれる人が出てくるかもしれないけれど、それならば、僕も素直に告白しておくべきだろう。
あの、という無意味な言葉で隠していたものを引っ張り出す。
「実は……僕、同性愛者で」
アドバイザーは固定なのだろう。前回と同じお見合いおばさんのアネルに会い告げた今更の大事なことに、彼女は丸い目をいっそう丸くした。そうしてこれまた丸く開いた口をにっこりと形作る。
「そうでしたの。では少しご紹介相手を変えた方がよろしいですね?」
彼女はこちらを不安にさせないよう、見事に対応してみせた。
「すみません」
彼女にも、そして会ってくれた人たちにも申し訳ないことだ。白状した今となっては本当に、無駄な時間を使わせてしまったと思う。こんなんだから振られるんだろうなぁなんて、理由が更に一つ判明してしまった。
「ご希望はありますか?」
「希望? は、ないです。……恥ずかしながらお付き合いをしたことが無いので、そんな」
好みのタイプとかあるのか? うーん思い浮かばない。素敵だと思う人がいても、イコール恋人になりたいとはならない。体格のいいひと? 男性的な人に惹かれはするけど、必須事項がある気はしない。片思いの相手でもいたらその幻影を追い求めたかもしれないが、あいにく、端から諦めていた気がする。諦めるようにしてきた、というか。
「お相手に求める飲酒習慣にも変化はないですか?」
「ああ、ないです。楽しんで少し飲むくらいならいいってのは、別に変わらないです」
男性の方が飲酒率が高いのかな。だとしたらそれでなくても少ない紹介がなくなるかもしれない。
酒飲み全員を嫌いなわけではないけれど、うちの店に来る女性に伴っている酒飲みたちは好きじゃない。だから条件は『少し飲むくらいなら』だ。
「それでは、獣人の方でも可というのもお変わりないですか?」
「はい」
今まで会うに至らずとも紹介されたのは全て人間の女性だったけれど、獣人も登録してるのか。
「お一人、すぐにご紹介できる方がいらっしゃいます。獣人の男性です」
獣人かぁ。何も見ずにそんなことを言うくらいだから、彼女にとって印象深い人なんだろうか。
「素直で可愛らしい方なんですよ」
獣人かぁ……。
「お話しするときにお耳をこちらに向けて真剣に聞いてくださるのが本当に可愛らしくて。体の大きい方ですけど、威圧感なんかも感じなくて」
やたらと勧められる。アドバイザーの彼女は毎度お相手の良い所を述べてくれるけれど、本当によくまぁ一人一人のことを把握しているもんだなと関心する。
「じゃあ、はい。お願いします」
こちらが会うと決めても相手次第だ。断られるかもしれない。
登録してから二週間ほどして一人目に会い、当然のように振られた。相手が女性であり恋愛対象外であるという事実は全く慰めにはならず、ただ自分が受け入れられなかったという事実は結構くるものがある。
二人目には少し慣れ、話は一人目より弾んだ気がするけれどやはり振られた。お相手の本名は教えてもらっていないが、振られる痛みで逆恨みする人がいてもおかしくはなさそうだ。
二人連続して振られた時点で気が沈み「この活動を続ける意味はあるのか、いや、無い」と自問自答しつつアドバイザーへの返答を伸ばす。売りのない僕に会ってくれるだけでもありがたいことなんだろうけど、前向きに受け止めるのは困難だ。
少し間の空いた三人目。失礼だがおしゃれの苦手そうな女性に会う。身に着けられるアクセサリーは全部つけてみたという感じで、気合を入れてきてくれたことだけは伝わって嬉しかった。皆同じように周りの目を気にし結婚相手を探していて、仲間のようだと親近感も沸く。実際これからの人生を共闘するのだと考えれば、同じような立場の人と出会える相談所は適している。でもまぁ、振られた。
僕はやはり女性だというだけで透明の壁を感じていた。この人を強く求めることは無いし、愛情を持つといっても精一杯のものではないだろうと自分でわかってしまう。もしかしたらお相手にも同じような人はいるかもしれないけれど、心の内は分からない。本当に共闘関係を認めてくれる人が出てくるかもしれないけれど、それならば、僕も素直に告白しておくべきだろう。
あの、という無意味な言葉で隠していたものを引っ張り出す。
「実は……僕、同性愛者で」
アドバイザーは固定なのだろう。前回と同じお見合いおばさんのアネルに会い告げた今更の大事なことに、彼女は丸い目をいっそう丸くした。そうしてこれまた丸く開いた口をにっこりと形作る。
「そうでしたの。では少しご紹介相手を変えた方がよろしいですね?」
彼女はこちらを不安にさせないよう、見事に対応してみせた。
「すみません」
彼女にも、そして会ってくれた人たちにも申し訳ないことだ。白状した今となっては本当に、無駄な時間を使わせてしまったと思う。こんなんだから振られるんだろうなぁなんて、理由が更に一つ判明してしまった。
「ご希望はありますか?」
「希望? は、ないです。……恥ずかしながらお付き合いをしたことが無いので、そんな」
好みのタイプとかあるのか? うーん思い浮かばない。素敵だと思う人がいても、イコール恋人になりたいとはならない。体格のいいひと? 男性的な人に惹かれはするけど、必須事項がある気はしない。片思いの相手でもいたらその幻影を追い求めたかもしれないが、あいにく、端から諦めていた気がする。諦めるようにしてきた、というか。
「お相手に求める飲酒習慣にも変化はないですか?」
「ああ、ないです。楽しんで少し飲むくらいならいいってのは、別に変わらないです」
男性の方が飲酒率が高いのかな。だとしたらそれでなくても少ない紹介がなくなるかもしれない。
酒飲み全員を嫌いなわけではないけれど、うちの店に来る女性に伴っている酒飲みたちは好きじゃない。だから条件は『少し飲むくらいなら』だ。
「それでは、獣人の方でも可というのもお変わりないですか?」
「はい」
今まで会うに至らずとも紹介されたのは全て人間の女性だったけれど、獣人も登録してるのか。
「お一人、すぐにご紹介できる方がいらっしゃいます。獣人の男性です」
獣人かぁ。何も見ずにそんなことを言うくらいだから、彼女にとって印象深い人なんだろうか。
「素直で可愛らしい方なんですよ」
獣人かぁ……。
「お話しするときにお耳をこちらに向けて真剣に聞いてくださるのが本当に可愛らしくて。体の大きい方ですけど、威圧感なんかも感じなくて」
やたらと勧められる。アドバイザーの彼女は毎度お相手の良い所を述べてくれるけれど、本当によくまぁ一人一人のことを把握しているもんだなと関心する。
「じゃあ、はい。お願いします」
こちらが会うと決めても相手次第だ。断られるかもしれない。
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