キスとパンチの流星群

湯島二雨

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第9章…ライバル

31.北条結衣さんを楽しませる会

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 流星はムカついた。ほんの少しだけとはいえ結衣と菅原の距離が縮まったような空気が許せなくて、嫉妬心から空気をぶち壊したくなった。

菅原の身体を乱暴に退かし、結衣の前に立つ。


「……結衣ちゃん」


流星も呼び方を真似た。ちょっと照れたけどハッキリと言った。


「いやちょっとやめてくださいその呼び方……本当に無理です背筋が凍りました」


流星が『結衣ちゃん』と呼んだ結果、結衣にめちゃくちゃ嫌がられた。流星はショックを受けると同時に納得がいかなかった。


「おいなんでだよ!! なんで菅原はよくてオレはダメなんだよ!!」

「すいません無理なものは無理なんです……」

結衣に抗議するが死体蹴りされ撃沈した。


「ははは、これが好感度の差ってヤツですかね」

菅原の勝ち誇った声が聞こえ、流星はキレた。強者の余裕というものはどこかへ消え去った。

流星は菅原の胸ぐらを掴んだ。


「てめえ調子に乗んなよ!?」

「ひっ!?」

流星の拳が振り下ろされ、菅原は殴られそうになる。


「やめてください!!」


結衣が大声で止めた。流星の拳はビタッと止まった。


「無理とか言ったのは謝りますから! すいません! だからケンカはやめてください! 暴力的な人はキライです!!」

「!!!!!!」

『暴力的な人はキライ』という結衣の言葉が、流星の心にグサッと突き刺さる。結衣に嫌われたらもう一生立ち直れない流星は、そう言われたらもう殴れない。


「ぐっ……!」

怒りを堪えるしかない流星は拳をブルブル震わせて悔しがった。胸ぐらを掴まれたままの菅原はニヤリと笑った。

流星がキレて暴れてもも結衣が止めてくれるのと流星は結衣に逆らえないのを計算済みだった菅原は、流星に殴られる心配をする必要はもうないと確信した。



―――



 学校に到着。
教室に入った結衣はすぐに美保に声をかけられた。


「おはようございますお姫様!」

「おはよう糸原さん……」

「見ましたよお姫様! 今朝南場さんと菅原さんと一緒に登校してましたよね!?」

「……う……うん……」

できれば見られたくなかったが、見られた以上は仕方ない。結衣は頷く。


「南場さんは毎朝ウチに来るからもう驚かないけど……今朝は菅原さんまで迎えに来たからびっくりしちゃったよ……」

机に鞄を置きながら苦笑いする結衣。

「ほほーう……」

美保は何やら考え事をしてニヤニヤし始めた。


「それって菅原さんもお姫様に気があるのではないですか?」

「えぇ!? 菅原さんが!? ま……まさかぁ……」

とんでもないことを言われた結衣は恥ずかしそうに顔を赤くするが、ないないと手をブンブン振る。


「でも考えてもみてください。女たらしの南場さんはともかく真面目な菅原さんが用があるわけでもないのに女の子の家に行くなんて妙だとは思いませんか? 菅原さんは女性関係とか浮ついたウワサは全然聞かない人なのに……」

「う……う~ん……」

「いや~もうモテモテですねぇお姫様! 2人の男から取り合いされるなんて! まるで少女漫画のヒロインです!!」

「や……やめてよもう……!」

美保に茶化され、結衣は恥ずかしくて顔が真っ赤だった。しかし美保はやめるどころか追及を加速する。


「……で? お姫様は南場さんと菅原さんどっちの方が好みのタイプなんですか?」

「いきなり何!?」

爆弾を投げつけられ結衣は軽くパニックに陥る。

「前にも言いましたけど南場さんだけはやめといた方がいいです。菅原さんは容姿はパッとしないし提央祭運営会長なんて胡散臭い仕事やってるけど優秀で誠実な人だし南場さんよりはマシなんじゃないですか?」

「は……はぁ……」

結衣は返答に困り適当に相槌を打つだけだった。

席についた後、美保に言われたことについて真面目に考える。


どっちがタイプとか言われてもそんな風に考えたこと一度もないので困る。とりあえず恋愛とかそういうことは置いといて。
結衣は引っ越してきたばかりでまだ友達が少ないから仲良くなりたいと言ってくれたことは素直に嬉しかった。

流星は、正直に言うと友達になるのもちょっとイヤなレベルだ。いやしかし、自分は友達を選べる立場じゃないのではないだろうかと思った。

結衣はお姫様。友達を厳選するくらい造作もない。しかし彼女は一般人の目線にしか立たないのでそういうことは頭になかった。


 朝のチャイムが鳴り、担任の田沼先生が教室に入ってきた。生徒たちは席につく。


「では朝のHRを始める。明日から宿泊研修が始まる。今からみんなに宿泊研修のしおりを配ろうと思う」

そう言った田沼はしおりを全員に配り始める。

「しおりは全員に行き渡ったかな? ではページを開いて内容を確認してくれ」

先生に言われた通りに生徒たちがしおりを見る。
結衣は宿泊研修を楽しみにしている。内心ウキウキになりながらしおりのページをめくる。


……ところが。
クラスの名簿が書いてあるページを見て、結衣は少し違和感を覚える。なぜか結衣の名前が書いてあるところだけ二重丸がついていた。

これは一体何なのか。なぜ結衣のところに印が?結衣は転校生だからわかりやすいように目印をつけたのだろうか。

そう思った結衣はあまり気にせずにまたページをめくった。


しかし、今度は違和感どころか明らかにおかしい箇所があり、結衣は自分の目を疑った。

宿泊研修1日目の日程が書いてあるページ。
20時から『北条結衣さんを楽しませる会』と書いてあった。

『北条結衣さんを楽しませる会』というのが何なのか結衣にはさっぱりわからない。
これを見た結衣はさすがにこれはスルーできないと思った。


「ではしおりについて何か質問とかあれば……」

「ハイ!! 先生質問です!!」

結衣はすぐに手を上げた。

「おお、お姫様早いですね。なんですか?」

「1日目の20時に北条結衣さんを楽しませる会なんて書いてあるんですが、これってなんなんですか!?」

しおりのページを指さし抗議する結衣。田沼の表情は特に変わることはなかった。


「その名の通りお姫様を楽しませる会ですよ。お姫様なんだから当然のことです」

「何が当然なんですか!?」

平然と答える田沼にツッコまずにはいられなかった。

「いやいらないですよこんなの! 私なんかのために宿泊研修の貴重な時間を割くなんておかしいです! それにクラスのみなさんにも迷惑です!!」

机に手をつき立ち上がりながら結衣は言った。そう言った瞬間、クラスの生徒たちもなぜか全員立ち上がり、一斉に結衣を見た。結衣は死ぬほどビビる。


「何をおっしゃるのですお姫様!! 迷惑だなんて1ミリたりとも思っていません!!」

「そうですよお姫様!! むしろ我々はとても楽しんでおります!!」

「少しでもお姫様の力になれればありがたき幸せでございます!!」


クラスメイト全員が結衣を楽しませる会にノリノリで、熱い気持ちを結衣にぶつけてくる。

「……そ……そう……ですか……」

クラスメイトの圧力に屈し、結衣はもう反対できない。

お姫様なのに全然意見が通らないとはこれいかに。結衣は命令とかはしたくない。みんながいいって言うなら何も言えない。
押し切られる形になり結衣を楽しませる会は行われることが決定した。


田沼がオホンと咳払いし生徒たちを落ち着かせ座らせる。

「……まあそういうことです。この会はクラスどころか学年生徒全員が強く希望してやることが決まった会です」

1年生全員でやると聞き結衣はまた衝撃を受ける。

「どんな内容かはお楽しみということで」

田沼はそう言って結衣に微笑んだ。朝のHRもまとめに入る。


「というわけで明日から宿泊研修。高校生活初めての行事ということで楽しみな人も多いだろうけど、あくまでこれは授業なのでハメを外しすぎないように」

「はーい!」

生徒たちは元気に返事した。結衣だけが少し曇った表情をしていた。


「楽しみですね~お姫様!」

「う……うん……そうだね……」

ウキウキで声をかけてきた美保に、結衣は困惑気味に返事した。


結衣だって宿泊研修は楽しみなのだが、自分のための時間が用意されていると思うと申し訳ないやら不安やら戸惑いやらで複雑な気持ちだった。
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