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第5章…処女
18.人をうわべだけで判断しない方がいいと思うよ
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「―――あっ、し、白崎先生!? すみませんボーっとしてて……」
「あ、北条さん……私の方こそごめんね。よそ見しちゃってて……」
結衣と真里奈は行き先が同じなので一緒に1年B組の教室に向かう。歩きながら2人は会話をする。
「北条さんって提央祭で優勝したんだよね。転校早々お姫様とか言われてチヤホヤされて大変でしょ?」
「はい……そうですね。正直言ってかなり疲れます……」
「先生方まで北条さんにペコペコしたり敬語を使ったりしててそれはよくないなって思ったんだよね私は。生徒はみんな平等に扱うべきだと思うの私。そうしないと非行に走る子もいるかもしれないからね」
もともと非行に走ってる生徒ばかりだが、だからといって生徒指導を怠る気はない。真里奈は性に関してはゆるゆるだが教師の仕事は真面目にしっかりやっている。
「だから私は敬語とか使わずに他の生徒たちと同じように接したいと思ってるんだけど……」
「はい、私もその方が助かります! ありがとうございます!」
「でももし北条さんが私の態度を無礼だと感じたら私のクビが飛ぶんだよね……」
「そんな!! めっそうもないです! 無礼だなんて全く思っていません!!」
無礼どころか結衣には真里奈の対応はありがたかった。他の教師は洗脳されたかのように結衣をお姫様扱いしてくるから彼女には重圧に感じていた。
結衣を普通の生徒として扱ってくれる教師は真里奈だけ。そんな教師が1人いるだけでも結衣はかなり救われた。数少ない結衣の理解者になってくれた真里奈は、結衣からの好感度が爆上げだ。
「ところで北条さんは私に何かしてほしいこととかある? キミはお姫様なんだからなんでも命令できるよ」
「え!? い……いや、しませんよ命令なんて!」
他の生徒と同じように接するといってもお姫様はお姫様。命令があれば真里奈は従わなければならないので一応従者みたいな対応もしておく。
結局みんな結衣に対して下手に出る。結衣はまずそこをなんとかしたいと思った。
「白崎先生。どうしても言っておきたいことがあります」
「ん? なに?」
「提央祭とか王だとか、私はこの町のルールに納得していないんです! お姫様とか言われても私には関係ありません!! 人様に命令なんてする気は毛頭ないです!!」
真剣な表情を真里奈に向ける結衣。真里奈は少し意外そうな顔をした。
「……へー……せっかくお姫様になったのに命令しないなんてもったいないとか思わないの?」
「思いません!! なりたくてなったわけじゃないしそんなものに頼ってたらロクなことになりません!!」
ハッキリと言う結衣。その瞳には迷いなど一切なく曇りもない澄んだ輝きを見せていた。
真里奈は微笑む。
「あはは、いい子だね北条さんって。この町でそういうこと言う人なかなかいないよ。こうして話しているだけでキミの人柄の良さがすっごく伝わってくるね。自分より他人を優先できる優しくて素敵な女の子だよキミは」
真里奈の言葉は本心だった。結衣を褒め称えたい気持ちだった。透き通った天使のような結衣に少しだけ嫉妬の気持ちもあった。
結衣は少し照れくさそうに下を向く。
「……いえそんな、私なんて……それを言ったら白崎先生の方がよっぽど優しくて素敵な方ですよ」
結衣は謙遜した。結衣の言葉も本心だった。まだ会って間もないが、真里奈は尊敬できる人だと思い、憧れの気持ちがあった。
「―――……そう見える?」
「え?」
真里奈の声が一気に重くなったような気がする。結衣は少し驚いた表情で真里奈を見た。
「……ねぇ、北条さん。人をうわべだけで判断しない方がいいと思うよ」
「―――……えっ……?」
真里奈はとても明るい女性だ。しかし今は暗かった。急に雰囲気が変わり、結衣は戸惑いの色を見せる。
「キミはいい子すぎる。それが長所でもあり短所でもある。先生ちょっと心配だな。
キミみたいな素直な子はこの町で生きていくには美しすぎるんだ。正直で真面目な人ほど辛い思いをする世界だよ」
真里奈の瞳は、濁っていた。結衣とは対照的な瞳の色だった。
うわべだけで判断しない方がいいという真里奈の言葉の意味がよくわからなくて結衣は首を傾げる。
「……? うわべ……? それってどういうことですか……?」
「先生としてのアドバイスだよ! 要は悪い人が多いから気をつけてねってこと! いい人は騙されやすいから特に!」
「あー……それは大丈夫です。身をもって経験してますので……」
真里奈の表情に明るさが戻った。暗い雰囲気はほんの一瞬だけだった。
悪い人と聞いて真っ先に思い浮かんだのは流星。結衣は消したい過去を鮮明に思い出しつつ苦笑いした。
「その悪い人っていうのは―――不良とかヤクザみたいないかにも怖そうな人だけとは限らないよ。案外……キミのすぐ近くにもいるかもね?」
「……っ!」
ギョッとした反応の結衣。この町にはまだまだ恐ろしいことがいっぱいありそうで身震いする。
「あ、ごめんね。なんか怖がらせるようなこと言って。私もこの町にまだ1年しか住んでないけどそれでもいろいろ危険な経験したからさ。北条さんにはそういう危険な目に遭ってほしくないんだよ」
「はい、気をつけます。ご忠告ありがとうございます」
白崎先生はやっぱり優しい人だ、と結衣は確信した。
好感度も信頼度もほぼ上限まで上がった。真里奈はもうすでに結衣からの信頼を勝ち取ることが達成できた。流星とは大違いだ。
しかし、真里奈に申し訳ない気持ちもあった。なぜならせっかく忠告してもらったのにもうすでに危険な目に遭っているからだ。
流星に目をつけられ、ストーカーされていることを真里奈に相談するべきかどうか悩んだ。真里奈ならどうにかしてくれそうな気がしないでもない。
だが真里奈も若くて美人な女性だ。あのスケベ野郎と関わらせたら真里奈までひどい目に遭わされるかもしれない。流星と真里奈がセフレ関係だなんて夢にも思っていない結衣は真里奈を危険に巻き込みたくないと思い言い出せなかった。
―――
授業に入っても、結衣はまだ悩んでいた。その様子をみた隣の席の糸原美保が悩む結衣に話しかける。授業中なので教師に聞こえないように小声で。
「……あのお姫様、ちょっといいですか?」
「え? どうしたの糸原さん」
結衣も小声で答える。
「なにやら浮かない顔してますね。悩み事? あたしでよければ相談に乗りますよ? 休み時間に少しお話しませんか?」
「えっ!? あ……うん。ありがとう……」
結衣は自分の心を美保に読まれてる気がして戸惑ったが、気遣ってくれてるのは素直に嬉しかった。
―――
1時間目の授業が終了。
美保はニコニコしながらガタッと椅子から立ち上がった。
「え……えっと……」
「ちょっと場所を変えましょうか。トイレ行きましょうトイレ!」
美保に言われるがまま一緒に女子トイレに向かった。
トイレで手を洗いながら2人で話す。
「で、どんなことで悩んでいるんですか? 転校してきたばかりで不安なことも多いですからね。なんでも聞いてください」
「ありがとううれしいよ。……でも私は悩んでるわけじゃ……」
美保は無関係だ。美保まで危険に巻き込むわけにはいかないと思い、結衣は悩みを話さないことにした。
「……言いにくいならあたしが当ててあげなしょうか。ズバリ南場さんのことでしょ?」
「!?」
悩みをズバリ見抜かれ、目を見開く結衣。
「あの人毎日ウチのクラスに来ますからね~。しかも毎回お姫様を誘いますし。誰がどう見てもあれはお姫様に気がありますね~。で? 南場さんと何かあったんですか? 教えてください誰にも言いませんから! ね?」
ズイッと詰め寄ってくる美保。
これは言わないと逃がしてくれないヤツだと思った結衣は観念して話すことにした。
「あ、北条さん……私の方こそごめんね。よそ見しちゃってて……」
結衣と真里奈は行き先が同じなので一緒に1年B組の教室に向かう。歩きながら2人は会話をする。
「北条さんって提央祭で優勝したんだよね。転校早々お姫様とか言われてチヤホヤされて大変でしょ?」
「はい……そうですね。正直言ってかなり疲れます……」
「先生方まで北条さんにペコペコしたり敬語を使ったりしててそれはよくないなって思ったんだよね私は。生徒はみんな平等に扱うべきだと思うの私。そうしないと非行に走る子もいるかもしれないからね」
もともと非行に走ってる生徒ばかりだが、だからといって生徒指導を怠る気はない。真里奈は性に関してはゆるゆるだが教師の仕事は真面目にしっかりやっている。
「だから私は敬語とか使わずに他の生徒たちと同じように接したいと思ってるんだけど……」
「はい、私もその方が助かります! ありがとうございます!」
「でももし北条さんが私の態度を無礼だと感じたら私のクビが飛ぶんだよね……」
「そんな!! めっそうもないです! 無礼だなんて全く思っていません!!」
無礼どころか結衣には真里奈の対応はありがたかった。他の教師は洗脳されたかのように結衣をお姫様扱いしてくるから彼女には重圧に感じていた。
結衣を普通の生徒として扱ってくれる教師は真里奈だけ。そんな教師が1人いるだけでも結衣はかなり救われた。数少ない結衣の理解者になってくれた真里奈は、結衣からの好感度が爆上げだ。
「ところで北条さんは私に何かしてほしいこととかある? キミはお姫様なんだからなんでも命令できるよ」
「え!? い……いや、しませんよ命令なんて!」
他の生徒と同じように接するといってもお姫様はお姫様。命令があれば真里奈は従わなければならないので一応従者みたいな対応もしておく。
結局みんな結衣に対して下手に出る。結衣はまずそこをなんとかしたいと思った。
「白崎先生。どうしても言っておきたいことがあります」
「ん? なに?」
「提央祭とか王だとか、私はこの町のルールに納得していないんです! お姫様とか言われても私には関係ありません!! 人様に命令なんてする気は毛頭ないです!!」
真剣な表情を真里奈に向ける結衣。真里奈は少し意外そうな顔をした。
「……へー……せっかくお姫様になったのに命令しないなんてもったいないとか思わないの?」
「思いません!! なりたくてなったわけじゃないしそんなものに頼ってたらロクなことになりません!!」
ハッキリと言う結衣。その瞳には迷いなど一切なく曇りもない澄んだ輝きを見せていた。
真里奈は微笑む。
「あはは、いい子だね北条さんって。この町でそういうこと言う人なかなかいないよ。こうして話しているだけでキミの人柄の良さがすっごく伝わってくるね。自分より他人を優先できる優しくて素敵な女の子だよキミは」
真里奈の言葉は本心だった。結衣を褒め称えたい気持ちだった。透き通った天使のような結衣に少しだけ嫉妬の気持ちもあった。
結衣は少し照れくさそうに下を向く。
「……いえそんな、私なんて……それを言ったら白崎先生の方がよっぽど優しくて素敵な方ですよ」
結衣は謙遜した。結衣の言葉も本心だった。まだ会って間もないが、真里奈は尊敬できる人だと思い、憧れの気持ちがあった。
「―――……そう見える?」
「え?」
真里奈の声が一気に重くなったような気がする。結衣は少し驚いた表情で真里奈を見た。
「……ねぇ、北条さん。人をうわべだけで判断しない方がいいと思うよ」
「―――……えっ……?」
真里奈はとても明るい女性だ。しかし今は暗かった。急に雰囲気が変わり、結衣は戸惑いの色を見せる。
「キミはいい子すぎる。それが長所でもあり短所でもある。先生ちょっと心配だな。
キミみたいな素直な子はこの町で生きていくには美しすぎるんだ。正直で真面目な人ほど辛い思いをする世界だよ」
真里奈の瞳は、濁っていた。結衣とは対照的な瞳の色だった。
うわべだけで判断しない方がいいという真里奈の言葉の意味がよくわからなくて結衣は首を傾げる。
「……? うわべ……? それってどういうことですか……?」
「先生としてのアドバイスだよ! 要は悪い人が多いから気をつけてねってこと! いい人は騙されやすいから特に!」
「あー……それは大丈夫です。身をもって経験してますので……」
真里奈の表情に明るさが戻った。暗い雰囲気はほんの一瞬だけだった。
悪い人と聞いて真っ先に思い浮かんだのは流星。結衣は消したい過去を鮮明に思い出しつつ苦笑いした。
「その悪い人っていうのは―――不良とかヤクザみたいないかにも怖そうな人だけとは限らないよ。案外……キミのすぐ近くにもいるかもね?」
「……っ!」
ギョッとした反応の結衣。この町にはまだまだ恐ろしいことがいっぱいありそうで身震いする。
「あ、ごめんね。なんか怖がらせるようなこと言って。私もこの町にまだ1年しか住んでないけどそれでもいろいろ危険な経験したからさ。北条さんにはそういう危険な目に遭ってほしくないんだよ」
「はい、気をつけます。ご忠告ありがとうございます」
白崎先生はやっぱり優しい人だ、と結衣は確信した。
好感度も信頼度もほぼ上限まで上がった。真里奈はもうすでに結衣からの信頼を勝ち取ることが達成できた。流星とは大違いだ。
しかし、真里奈に申し訳ない気持ちもあった。なぜならせっかく忠告してもらったのにもうすでに危険な目に遭っているからだ。
流星に目をつけられ、ストーカーされていることを真里奈に相談するべきかどうか悩んだ。真里奈ならどうにかしてくれそうな気がしないでもない。
だが真里奈も若くて美人な女性だ。あのスケベ野郎と関わらせたら真里奈までひどい目に遭わされるかもしれない。流星と真里奈がセフレ関係だなんて夢にも思っていない結衣は真里奈を危険に巻き込みたくないと思い言い出せなかった。
―――
授業に入っても、結衣はまだ悩んでいた。その様子をみた隣の席の糸原美保が悩む結衣に話しかける。授業中なので教師に聞こえないように小声で。
「……あのお姫様、ちょっといいですか?」
「え? どうしたの糸原さん」
結衣も小声で答える。
「なにやら浮かない顔してますね。悩み事? あたしでよければ相談に乗りますよ? 休み時間に少しお話しませんか?」
「えっ!? あ……うん。ありがとう……」
結衣は自分の心を美保に読まれてる気がして戸惑ったが、気遣ってくれてるのは素直に嬉しかった。
―――
1時間目の授業が終了。
美保はニコニコしながらガタッと椅子から立ち上がった。
「え……えっと……」
「ちょっと場所を変えましょうか。トイレ行きましょうトイレ!」
美保に言われるがまま一緒に女子トイレに向かった。
トイレで手を洗いながら2人で話す。
「で、どんなことで悩んでいるんですか? 転校してきたばかりで不安なことも多いですからね。なんでも聞いてください」
「ありがとううれしいよ。……でも私は悩んでるわけじゃ……」
美保は無関係だ。美保まで危険に巻き込むわけにはいかないと思い、結衣は悩みを話さないことにした。
「……言いにくいならあたしが当ててあげなしょうか。ズバリ南場さんのことでしょ?」
「!?」
悩みをズバリ見抜かれ、目を見開く結衣。
「あの人毎日ウチのクラスに来ますからね~。しかも毎回お姫様を誘いますし。誰がどう見てもあれはお姫様に気がありますね~。で? 南場さんと何かあったんですか? 教えてください誰にも言いませんから! ね?」
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