キスとパンチの流星群

湯島二雨

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第5章…処女

17.ファーストキス

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―――



 翌日、朝になった。
結衣は学校に行かなくてはならない。しかし流星や菅原に会いたくない。彼女は真面目なので家に引きこもって学校をサボるという選択肢はない。なんとか彼らに会わないように学校に行きたい。

慎重に、そーっとドアを開ける。少しだけ開けてそこから顔を出してキョロキョロ周りを見渡し、家の敷地内に流星らがいないことを確認する。


「大丈夫か? あの変態野郎来てないか?」

哲也も一緒にいる。兄妹で警戒していた。

「うん大丈夫! 行ってきます兄さん!」

モタモタしてたら流星が来るかもしれない。今のうちにさっさと行こうと思い、結衣は出発した。

家の門をくぐる。
くぐった瞬間。


「おはよう結衣」

「わああああああ!?」


家の塀に背中をつけながら流星が待ち伏せしていた。
敷地内にはいなかったが、敷地から一歩出てすぐのところにいた。さすがに敷地に勝手に入るのはまずいと思った流星は、ギリギリ敷地内じゃない場所で待っていた。昨日は先に学校に行かれてたので昨日より1時間も早く来てずっと待っていた。


「ちょっと南場さん!? ビックリさせないでくださいよ!!」

急に流星とエンカウントするのは心臓に悪い。バクバクする心臓を押さえながら結衣は怒った。
怒った結衣も可愛いと思い、ポッと顔を赤くする流星。

この男は毎日結衣の家に来る気か? 昨日も来てたって哲也が言ってたしこれでもう3日連続で来てる。
もう来るなってハッキリ言った方がいいだろうか。しかし言うのが怖い。

怖がりながらも警戒を最大に強める結衣。流星はいつも通りだった。


「昨日はごめんな、一緒に帰れなくて。放課後ちょっと用事があってな」

「いえ全然大丈夫ですから気にしないでください」

昨日の放課後は真里奈と×××ピーしていたがそんなことは口が裂けても言えず用事でごまかす。

流星の用事がどうとかは結衣には死ぬほどどうでもよく、一緒に帰らなくて済んだのでむしろ彼に用事があったことに感謝したいくらいだった。


「まあいいです早く学校に行きましょう」

不本意だがこの変態と登校しなければならなくなったようなので、諦めてスタスタと歩き出す。

「あ、待て。オレが前を歩くよ」

「え?」

流星が結衣を追い越し前を歩く。

「オレが前を歩けばこの前みたいにスカートめくれたりしてもオレにパンツ見られなくて済むだろ?」

「……はぁ……」


そもそも一緒に登下校しなきゃいいだけの話ではないのか。まあ一応気遣いはできる人なのか?
結衣は複雑な表情をしながら流星の後ろを歩く。一定の距離を空け、結衣の歩幅に合わせて歩いてくれている。ただのスケベ野郎のくせに無駄に紳士っぽい行動してて結衣は少しイラッとしつつ疑問に感じた。

この男は一体何がしたいのか結衣にはわからない。一目惚れしたとか守ってやるとか言ってるけど結衣はどうしてもそれを信じることができない。胡散臭さしか感じない。
なぜならこの男は不良のトップ。そんな男が結衣みたいなぽっと出の転校生の相手なんてするわけない。都合のいい女の子なら他にいくらでもいるはず……なのになんで結衣に構うのか。お金か? 結衣の家は別に金持ちじゃないのに……

得体の知れない男に警戒心MAXな結衣。背中を向けてて顔が見えないはずだが結衣が不安そうにしていることに流星は気づいていた。


「……そう警戒するなよ。セクハラとかは二度としないって言ったはずだぞ」

「っ……」

真剣な声のトーンにやや気圧される結衣。
流星は歩を止め、ゆっくり振り向く。

「……お前にはウソをつきたくないから正直に白状するが、オレは提央町の王であることをいいことに毎日女をとっかえひっかえして遊びまくってきたロクでもない男だ。―――だが、お前には手を出さない」

「……? まあ……そりゃそうでしょうね。女の子を選び放題なんだから私のような女なんて相手にするわけが―――」

「ちげーよ逆だ」

流星の語気が強くなる。結衣はドキッとした。ただ黙って見つめ合う。


「信じてもらえないかもしれねーが前にお前に言ったこと全部本当だからな。お前に一目惚れしたこともお前を守ると言ったことも―――」

一度捉えられたら目が離せなくなるくらい流星の眼光は鋭かった。結衣の顔が少しずつ赤く染まっていく。

「遊びじゃねーから。ガチのマジで本気だから。お前だけは本気だから。好きだからこそ、安易に手を出さない。
本当は結衣とヤりたくてヤりたくてたまらないんだが結衣を傷つけたくないから必死に欲望を抑え込んでいるんだよ。マジでギリギリのギリギリのところで我慢してんだよ。お前にわかるか!? 男の苦悩ってヤツを!!」

結衣の顔はもう茹でダコのように真っ赤だった。
本人の前でなんて恥ずかしいこと言ってるんだこの男は。しかも外で、そんな大声で。

結衣はあたふたしている。頭の中がグルグルで混乱してきた。


「……それと……お前のファーストキスを奪ってしまったことを悪かったと思っていることも本当だ。こう見えても反省してんだオレは」

「……!」

消したい過去を掘り返され、結衣は表情が険しくなる。謝罪なんていらないから忘れさせてほしかった。


「49ヶ月もの間ずっと王だったから調子に乗ってた。女なんてちょっと強引に押してやればコロッと落ちると思ってた。
許してくれとは言わねえ。ほんの少しずつでもいいから結衣の力になりたい。どれだけ時間がかかっても罪を償いたい。それだけファーストキスを奪った罪は大きいと思っているんだ」

「……南場さん……」


結衣の心は揺れた。この人は本当はすごくいい人なんじゃないかという想いが心をよぎる。
だがそれは錯覚だった。

ものすごく真剣な表情で、真摯な謝罪をしている流星だったが、その視線が結衣の胸に行ってることが結衣にバレバレだった。しかもチラ見とかじゃなくてガン見だ。じっくり舐め回すように正々堂々と乳を視姦している。

胸を見ながら謝罪するヤツがあるか。目を見ろ目を。どんだけ見てんだよ少しは遠慮しろ。調子に乗ってるのか反省してるのかどっちなんだ。

手は出さないが、目は出す。触らなければセーフと開き直り、形の整った豊満な乳房を1秒でも長く目に焼きつける流星だった。



―――



 学校に到着。教室までついてこようとする流星をなんとか振り切り1年校舎を歩く。
結衣は内心イライラだった。原因はもちろん流星。

一体なんなんだあのエロ魔人は。結衣を辱めるようなことばかり言う。あの男と関わるとロクなことがない。

だが、流星のあの目、ウソをついているようには見えなかった。
流星は本当に結衣のことが好きなのか。結衣には受け入れがたくてウソだと思いたい。

二度も面と向かってハッキリと告白されたらイヤでも意識してしまう。やめてよもう!!、と結衣は頭を抱えた。

怖くて本人には言えないが結衣は流星なんて嫌いだ。照れ隠しとかじゃなくて本当だ。別に第一印象は決して悪くなかったんだが。
変な人たちに絡まれているところを助けてくれたし、たくさんいた不良を1人で倒しちゃったのを見てちょっとかっこいいかも……なんて思ったりもした。

しかしいきなりキスしたのは最悪だ。あれだけはないマジでない。たぶん一生忘れられないトラウマになる。
背が高いとか容姿はいい方だとかケンカが強いとかそういったプラス要素をすべて台無しにしちゃうくらい悪い意味でインパクトがあった。

『好き』って言われたことは素直に嬉しい。だが結衣が流星を好きになることは絶対にない。結衣の中ではそれだけは確実だった。
百歩譲ってキスされたことを許したとしても、彼のことが嫌いなことに変わりはない。

結衣の中で流星は好感度も信頼度もマイナスに振り切れてしまった。一度落ちてしまった好感度を上げるのは至難の業。流星の恋は茨の道だ。


なんだか朝から疲れてしまった結衣はため息をつく。

角を曲がろうとしたとき、人とぶつかってしまった。


「きゃっ!?」

「わぁっ!?」

ぶつかった相手は、新米女教師の真里奈だった。
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