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第2章…お姫様
8.ごく普通の平穏な学校生活を送りたかったのに
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北条結衣は提央町という町に引っ越してきたばかりなのだが、提央祭とかいううさんくさい祭りで優勝してしまった結果、この町のお姫様になってしまった。
この町は自分のものとか言われても困るし結衣はそんなこと望んでない。結衣はごく普通の平穏な学校生活を送りたかったのに。
だがしかし自分のクラスなら……1年B組なら……結衣が望む学校生活を送れるのではないかと、希望を持っていた。
結衣は恐る恐る1年B組のドアを開ける。
「おおっ来た!」
「お姫様が来たぞ!!」
結衣が入ってきた瞬間教室がざわつく。
「お姫様ーっ!!」
「おはようございまーす!!」
「ひっ……!」
そして、あっという間にクラスメイトに囲まれた。結衣の淡い希望は、無残に散っていった。
「……お、おはようございます……」
ひきつった顔で挨拶する結衣。このクラスでもお姫様扱いは変わらなかった。昨日の、1人の生徒として結衣を迎え入れてくれたクラスメイトたちはどこに行ってしまったのか。
「おはようございますお姫様! 忘れ物はございませんか? さぁ今日から頑張りましょう!」
席についた結衣に糸原美保が声をかけてきた。
昨日普通に話しかけてきてくれた美保も、今日は結衣に対してお姫様と呼び敬語で話す。それが結衣にとってすごく居心地が悪いと感じた。
「……あの……糸原さん?」
「はいっ、なんでしょうお姫様!」
「……敬語なんて使わなくていいんだよ? それにお姫様って呼ぶのやめてほしいかな……」
「そうはいきません! お姫様はお姫様ですから!」
「えぇ……」
美保との間に凄まじい距離感を感じる。隣の席なのにすごく遠い。分厚い壁が置かれているようだ。
結衣は寂しい気持ちになった。
ドアが開き、担任の先生が入ってくる。
「ホラみんな席につけー。朝のHRはじめるぞー……あ、お姫様! おはようございます」
「なんで先生まで敬語なんですか!? やめてくださいよホントに!!」
先生にまでお姫様扱いされる。
大人だろうが関係ない。この町の住民は誰1人例外なく、結衣には逆らえないのだ。たった1日でこの町で一番偉くなってしまった結衣は、全くついていけなかった。
―――
昼休み。昼食の時間でも結衣の扱いは変わらない。
「お姫様~! 一緒にお昼食べましょう~!」
チャイムが鳴ると同時に、大勢の男子生徒たちが弁当箱を持って結衣に詰め寄ってくる。
このノリも毎回やられるとしんどい。相変わらず周りから過剰な接待をされる結衣は、いいかげんうんざりしてきた。
怖い。この町の人たちが本当に怖い。みんな洗脳されてるんじゃないだろうか。それとも何かの宗教?
提央祭ってそんなに影響力の強い祭りなのか?
提央祭の王というのは冗談抜きで町そのものを支配できるのだが、まだ引っ越してきたばかりの結衣には荷が重すぎるもので、実感も湧かない。
気がついたら廊下にも生徒が集まっている。他のクラスも、他の学年も、みんな結衣目当てで寄ってくる。
視線をものすごく感じて結衣は萎縮するばかりだ。動物園のパンダってこういう気持ちなのかもしれない。
結衣はもともとかなり異性からモテる方であったが、さすがにここまで多くの人間からの注目を集めることなど人生初体験で、このものすごい視線のパワーに耐えられない。プレッシャーに押し潰されそうになる。
結衣を見に来た連中はみんな結衣について話している。他に話題はないのかというくらい学校中が結衣の話題で持ちきりだ。
「あの子が南場さんを瞬殺したんだよな……」
「すげーな……とんでもない格闘術の達人というのは間違いなさそうだな……」
結衣はただの一般人でケンカとかしたことないしメチャクチャ弱い。
廊下で話されてる噂が結衣の耳にも入り、結衣は心の中で間違いだ、違う、誤解だ!と全力否定する。
「提央町最強の南場さんを倒すほどの圧倒的な戦闘力……彼女は一体何者なんだ?」
「……確かお姫様ってよその町から引っ越してきたんだよな……」
「……なんで引っ越してきたんだろうな?」
「そりゃあ南場さんを倒せるくらい強いんだしなんかヤバイ暴力事件とか起こしてもともといた町にいられなくなったとかじゃねーの?」
「ヤバイ暴力事件……!? ますます何者なのか気になるな……暴走族の総長とか? ヤクザのお嬢とか? それともギャング? マフィア?」
「いずれにせよ伝説級の猛者であることは確実……!」
「ええ……あんなに可愛らしい女の子がそんなにヤバイ人なの……?」
「バカお前、能ある鷹は爪を隠すんだよ。見た目だけで判断すると痛い目見るぞ? ああ見えて実は伝説の暗殺拳の継承者とかだぜきっと。逆らうと殺されるぞ……」
なんなんだよその設定は。なんかもう盛りすぎだろう。勝手にヤバイキャラにされるのは非常に困る。
まずい、このままじゃどんどんエスカレートして結衣が学校で浮いてしまう。
結衣の心の叫びが教室中に響く。結衣は全力でツッコみたかったがウワサする人数が多すぎてツッコみきれない。勝手に恐ろしい最強キャラにされた結衣は頭を抱えた。
「……何バカなこと言ってんだ。漫画の読みすぎだボケ」
ウワサする人たちの後ろに南場流星が立っていた。
「ひいいっ!? な、南場さん!?」
「邪魔だどけ野次馬ども」
廊下に群がる野次馬を一掃し、流星は結衣のクラスのドアを勢いよく開ける。
「結衣~! 一緒に昼メシ食おうぜ~!」
明るく大きな声で結衣を呼ぶ。
結衣はニコッと笑顔を作って流星の方を振り向いた。無理やり笑顔を作っているのであって、内心かなりイライラしていた。
「あの……南場さん? ちょっとツラ貸せ……あ、いや、ちょっとお話があるのでよろしいでしょうか?」
「お?」
―――
結衣は流星を連れて人気のない階段付近に来ていた。
「おいどうした結衣?」
「…………」
「もしかして誘ってんのか? お前が相手ならいつでも大歓迎だぜ?」
ヘラヘラする流星。その流星に背中を向けて黙っていた結衣が口を開いた。
「……話というか言いたいことがあります」
「お?」
「―――あなたのせいで私の学校生活がメチャクチャです!! どうしてくれるんですか!?」
流星に怒りの落雷を落とす結衣。
流星は一切動じず眉1つ動かさなかった。
「は? 何いきなりキレてんだ? オレ何か悪いことしたか?」
何の悪びれもなく答える流星に結衣は怒りでプルプル震えた。
「もとはと言えば南場さんがキスしてきたのが悪いんですよっ!! ファーストキスは奪われるわお姫様とか言われて注目を浴びるわ落ち着くヒマもないわでもう最悪ですよっ!!」
「なんだよそんな怒んなよ。もっと仲良くしようぜ。なんでそんな他人行儀なんだよ?」
「いや他人でしょうが!」
「オレはお前の騎士だぜ。お前のためならなんでもする」
「知りませんよそんなの!」
「オレのことは流星って呼べよ。あと敬語もやめろ」
「お断りします!」
「なんでだよ。オレを流星って呼んでいいのはオレが気に入った女だけだぞ光栄に思えよ」
「本当にやめてください! あなたと親しくする気は微塵もないので!」
徹底的に塩対応を崩さない結衣だったが、流星もグイグイ来る姿勢を崩さない。
「親しくする気は微塵もない……ねぇ。そんなこと言っちゃっていいのか?」
「は?」
頭をボリボリ掻く流星だったが、急に結衣にズイッと顔を近づけてきた。
結衣はビビって反射的に後ずさりするが、背中が壁にぶつかり、逃げ場がない。
「お前は提央祭の真の恐ろしさに気づいていない。このままだとお前はこの町で暮らすのに非常に苦労することになるぞ?」
「っ……!?」
「まあいいから来いよ。一緒に昼メシ食おう。オレのクラスに案内してやる」
そう言われ流星に腕を引っ張られ連れて行かれる。
流星のクラス。そんなところ結衣が行きたいわけがない。
しかし怖くて逆らえなかった。今は結衣の方が偉いはずなのに。これじゃどっちが王かわからない。
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