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第4章…マネージャー2人

竜先輩について

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※美希視点



 私は青葉高校野球部マネージャーの桐生美希。

今は学校の放課後、野球部みんなで練習中。もう夏の大会まであと1週間となった。
3年生の先輩たちにとって最後の大会なので、一生懸命練習に励んでいる。


特に竜先輩は人一倍練習量が多い。今日も黙々と投球練習をしている。
竜先輩って見た目は野球部っぽくない。ていうか体育会系っぽくない。

野球部は坊主のイメージがあるけど竜先輩は髪の毛はちょっとだけ伸ばしてて、くせ毛の黒髪。
野球部なのに肌も白い。炎天下でサボらず練習してるのになぜかあまり日焼けしてない。
身体もあまり筋肉質じゃない。若干痩せ気味。背は高め。私より20cm以上高い。

失礼な言い方になるけど容姿はまあ悪くはない。すごくモテモテってわけじゃないけど女の子からの評判もまあまあだと思う。
でも野球部はかっこいい人多いし竜先輩はちょっと影が薄い感も否めない。


 最初に会った時、竜先輩は頼りなさそうな印象だった。
でも、竜先輩は決して軟弱な男ではなかった。
竜先輩は野球が大好きな方で、補欠だけど決して実力がないわけじゃない。あまり結果を出せていないけど光るものはある。私の目に狂いはない。

何よりも努力家。練習量は誰にも負けない。細めの右腕からは想像もつかないような速い球を投げる。

竜先輩は痩せ気味と言ったが、細く見えるだけで実際は筋肉質な肉体を持っている。
練習すごく頑張っているんだから貧弱ガリガリなわけがない。頼りないのは見た目だけ、本当はすごく逞しい人だって私は知ってる。


 私は練習している竜先輩に声をかけた。

「竜先輩っ、スポーツドリンク持ってきました。どうぞ」

「あ、ありがとう桐生」


竜先輩はニコッと笑う。そして、ドリンクを受け取って美味しそうにゴクゴク飲む。

その姿を見て、私はちょっとだけドキッとしてしまう。やっぱり汗をかきながら一生懸命頑張る男の子ってかっこいい。



 野球部のみんなが練習している間、雑用をやらされている1年生と一緒に、ボール拾いやボール磨きを行う。

もう1人のマネージャー、吉崎吉江ちゃんが声をかけてきた。


「ねぇ、美希」

「なに? よっしー」


よっしーというのは吉江ちゃんのアダ名。名前が吉江よしえだから、よっしー。
アダ名で呼ぶくらい吉江ちゃんとは仲良くなれた。

ざきえだから野球部員からは『ヨシヨシ』とか呼ばれてたりするが本人はあまり気に入ってないようだ。


「こないだの花島高校との試合のスコア、どこにあるか知らない?」

「ああ、私のバッグに入ってるよ」

「ありがとう美希」


よっしーは、私のバッグからスコアを取り出した。
スコアを見ながらよっしーはブツブツ喋る。


「武井先輩はケガの状態が良くなくて大会までに回復するかどうかわからないんだよね」

「そっか……」


武井先輩は今は練習できる状態じゃない。もし大会に間に合わなかったらエース不在ということになってしまう。


「監督は武井先輩が投げられなかったら滝川先輩を先発させるって言ってたけど、美希はどう思う?」

「私はいいと思うよ。監督に賛成。竜先輩はすごく努力する人だし、きっと活躍してくれるよ!」

私はグッと親指を立てた。

「確かにこの前の試合を見た感じだと現時点では滝川先輩が適役なんじゃないかと思うんだけど、滝川先輩って好不調の波が激しくてダメな時はとことんダメだからちょっと不安なんだよね。
立ち上がりがイマイチ良くないことが多いし、ランナーを出すとコントロールも乱しやすいんだよ」


よっしーは野球ガチ勢。野球観戦が趣味で野球にめちゃくちゃ詳しい。
私は雑用やったり試合で応援するくらいしかできないけど彼女は違う。対戦相手のデータを研究してて勝利に貢献することができる。やはりメガネは頭脳派。

よっしーの言ってることは間違ってはいないけど、竜先輩のことなら私の方がわかってる。
確かにデータ的にはあまり良くないところもあるけど、いろいろ言われて私はちょっとムッとした。


「でもそれは監督が決めることだから、私たちが考える必要ないよ」

「それはわかってるけど」


私は竜先輩を推す。彼はやってくれると思う。努力は決して裏切らない。



 ボール磨きの後、監督が行うノック練習の手伝いをする。

手伝いといっても、ボールを渡すだけ。監督にボールを渡し、監督が打球を飛ばし、山瀬先輩がその打球を処理する。


カンッ! パシッ

キィン! ポロッ


「どうした山瀬! もうへばったのか!?」

「いえ! まだまだいけます監督!!」

「よし! いくぞ!」


カァン!! パシッ

カキィン!! パシッ


山瀬先輩がノック練習を一生懸命行う。


ノックすごくキツそう……でも、内野の守備を強化するためには必須。
ノックの他にもトスバッティングやフリー打撃など、様々な練習をサポートする。



―――



 そして、4時間近くにも及ぶ練習が終了した。

練習が終わったあとも練習器具の片付け、汚れたユニフォームの洗濯、部室の掃除など、マネージャーはやることが多い。

私たちはまず部室を掃除することにした。
部室は部員たちの着替え、カバン、マンガ、ゲーム、教科書、ノートなどが散らかっていた。


「いつ来ても部室って汗臭い」

よっしーはすごくイヤそうな顔をしていた。

「……そうだね。でもそれはみんながいつもすごく練習頑張ってるって証でもあると思うんだ」

「うーん……でもやっぱりあたしは無理だわ。臭いものは臭い」


私たちは部員のみんなが来る前に急いで部室の掃除を始める。散らかってる物を片付け、ぞうきんで床や壁を拭く。

ふと、私はあるものを見つけた。


「―――キャッ! 何これ!?」

「何? どうした美希」


よっしーは私が見つけた物を見る。
私が見つけたのはエッチな本だ。エッチなDVD、エッチなマンガもある。なんかいっぱいある。


「なんだエロ本か。場所変えたりしたら怒られるからそのままにしといて」

「反応薄いね……なんでそんなに冷静なのよっしー」

私的にはけっこう衝撃的だったんだけどよっしーの『なんだ』の一言で片づけられてしまった。

「美希が驚きすぎなんだよ。思春期の男の子なんだからそーゆーの1つや2つ持ってるのが普通でしょ」

「ま、まあそれはわかるんだけど……1つや2つどころじゃないよこれ。なんでこんなにあるの……?」

「まー確かにこれは引くかもね。いつもならもっとちゃんと隠してるくせになんで今日はこんなわかりやすいところに置いてあるんだよまったくもー……」

よっしーは呆れたようにため息をついた。


「あはは、すごいねよっしー……すごく慣れっこって感じだね」

「最初は苦手で嫌悪感すら感じるほどだったけど、1年以上も暑苦しい男だらけの集団に所属してるんだからイヤでも慣れるわこのくらい。
美希もいいかげん慣れろって。あんただって1年以上この野球部でマネージャーやってるんだからさ」

あはは、何も言い返せない。私だって野球部のみんなとそれなりに仲良くやってるしマッサージだってしてるくらいなんだから自分では慣れたつもりだったんだけどな。

でもやっぱり……エッチなことはちょっと苦手なんだ、私。
別に嫌悪感とかはないけど……あまり思い出したくないことを思い出してしまいそうなので。


よっしーはブツブツ文句言いながらもエッチな本を手にとって、ペラペラとページをめくり読み始めた。

いや、読むんかい。よっしー超がつくほど真面目なのに意外とエッチ系イケる感じ? 私友達なのに知らなかったよ。
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