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第9章…推しの家に住む
柚希に食べさせてもらう
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入浴を終えてスッキリサッパリした俺たちは、座って向かい合った。
すごく真剣な空気が流れる。俺の表情もビシッと引き締めざるを得ない。
「……柊斗くん、大きな事情があるみたいだけど一体何があったの?
よかったら私にも教えてほしい」
「は、はい」
あとで話すって言っちゃったし約束は守る。
さて……ちょっと整理しよう。
柚希の視点では、柊斗は裕福な家のお坊ちゃんで、苺も梨乃も桃香も柊斗に惚れてて、ヒロインレースをしてて、自分がダントツでレース最下位と思っている……
柚希が知ってるのはここまで。
俺と苺が許嫁だったっていうのは知らない。ていうか小雀家と栗田家以外はみんな知らない。企業秘密だ。
しかし俺はもう勘当されたので、一般人の柚希に話してもいいよな別に。
「……実は俺、苺と婚約してたんですよ。親が決めた政略結婚という形で」
「―――えっ……!?」
柚希は衝撃を受けた表情をした。まあ柚希からしてみればこの時点で十分ビックリするか。しかしまだまだ話すことはある。話すと決めたからには休まずにどんどん話すぞ。
「でも俺はもう苺をフりました」
「えぇっ!?」
「それで実家の怒りを買って、親に勘当されて家を追い出されたんです」
「―――ッ……!?」
「で、家を失った俺は野宿生活を繰り返し、1人で生きていく強さを得るために山で修業してました。それで台風が来て山から逃げて腹が減って倒れたというわけです」
「ちょ、ちょっと待って!」
一気に話しすぎたな。柚希を置いてけぼりにしてしまった。
これは俺の大きな罪だからな、ちょっと早口で一気に話した。ゆっくり話すと決心が鈍って言葉が出てこなくなるかもしれないと思ったからだ。
でも柚希に待ってって言われたらもちろん待つよ。
「家を失ったって、どういうこと……!?」
「そのまんまの意味ですよ。俺は家を裏切り、家に捨てられました」
柚希的には苺をフったの部分がかなり気にすると思うんだが、それよりまず家を失った俺の心配をしてくれた。優しい。好き。
「家に捨てられたっていつ!? いつから野宿生活してるの!?」
「えーっと……1ヶ月くらい前ですかね……」
「1ヶ月!? 1ヶ月も家なしで暮らしてたの!?」
「まあ、そうですね」
スマホ持ってたし金もそこそこあったしそこまで辛いってほどでもなかったから大丈夫。
「1ヶ月って……動物園でデートした日よりも前から家なしだったってこと……!?」
「……はい、そうです」
デートの日だけは清潔感に超気を遣ってたから大丈夫。
ガシッ
「!?」
柚希に肩をガシッと掴まれて俺はドキッとした。
「どうして……どうしてもっと早く言ってくれなかったの……?
追い出されてすぐに私に言ってくれてれば、私の家に住まわせてあげたのに! 野宿なんてしないで済んだのに……!」
「なっ……!?」
柚希の家に住む、だと……!?
俺が……!?
いや、いやいやいや……
「いやそんな、ダメですよ! 柚希さんに迷惑かけるようなことできるわけないじゃないですか!」
これは俺の問題だ。
自分で勝手にこうなった自業自得なのに、柚希の家に住まわせてもらうとか図々しすぎるし都合が良すぎるだろう。ていうか人としてどうなんだ。
「迷惑なんかじゃないよ、柊斗くんなら大歓迎だよ。私の家古いアパートだけど1人くらい増えても全然問題ないくらいの広さはあるし」
「住めるかどうかの話はしてません。柚希さんに甘えるわけにはいかないということです」
前世で子供部屋おじさんだった俺にはわかる。柚希の優しさに甘えたら間違いなく迷惑をかける。
「でも柊斗くん、どこにもいくあてがないんでしょ?」
「……まあ、それはそうなんですが……」
「話を聞いちゃったからにはほっとけないよ。遠慮しなくていいから」
「うっ……」
柚希の表情は至って真剣で、俺は言葉に詰まって何も言えなくなる。
何よりも凛とした視線なのに、何よりも甘い視線。この甘い視線に俺の股間が揺さぶられる。
そりゃあ俺だって本音を言えば柚希の家に住みたいよ。
好きな女の子とひとつ屋根の下で、あんなことやこんなことが起きるドキドキライフ送りたいよ。
しかし、甘えられないというのもあるが、一緒に暮らしたりしたら何より理性が絶対に耐えられないというのが最大の問題だ。
俺たちは一応両想いということになっているが、中身は俺なんだ。柚希の家に長く住んだら醜い俺の部分が露呈して嫌われるということも十分考えられる。
ああ、考えるだけでも恐ろしい。柚希に嫌われたら生きていけない。
このままじゃ間違いなく柚希の優しさに絆される。少しでも早くこの場を立ち去らなくてはならない。
「あのっ、すいません柚希さん……!」
そう言ってガタッと立ち上がった瞬間。
ぐぅ~
盛大に腹の音が鳴った。
そうだった、俺は腹が減って倒れたんだった。
柚希がクスッと微笑んで、俺は穴があったら入りたかった。いや穴がなくても掘って穴を作りたかった。
「柊斗くん、おなか空いてるんだね。私がごはん作ってあげるよ」
「いえ、大丈夫ですから……!」
「むっ、私のことすごく料理下手だと思ってないかい?」
「思ってません! そうではなくてですね……」
「お忘れかな柊斗くん、私はメイドやってるんだよ? こう見えてもいつも料理してるんだからね」
忘れてねぇしついさっきまでメイド服着てたんだからちゃんとわかってるよ。この俺が柚希に関することで忘れるなんてあろうはずがないんだよ。ここだけは自信を持って断言できる。
でもそうじゃなくて俺なんかのためにそこまでする必要なんかないって話をだな……
ああああああ!!!!!!
ヤバイ、私服にエプロンを着けてキッチンで料理をする推しの姿があまりにも尊すぎて眩しすぎて、限界オタクの俺にそれを止めることなんてできるわけがない。
ああ、この姿を眺めているだけでも何もかも満たされる……まるで新婚さんみたい、なんて考えてしまう俺は罪深すぎる。
―――
柚希は料理を完成させたようだ。可愛すぎて時間の流れが光のようにあっという間に過ぎ去った。
「お待たせ柊斗くん!」
柚希はチャーハンを作ってくれた。おいしそうでついヨダレを垂らしそうになっちまうほどだ。
柚希に迷惑かけたくないのに、チャーハン作ってもらってしまった。ここまで来たからにはちゃんと食べないと失礼だ。どの道腹の虫が限界で食べない選択肢はなかった。
「食べさせてあげるね。はい、あ~ん」
「!!!!!!」
料理作ってくれたってだけでも恐れ多すぎるっていうのにさらに好きな女の子に『はい、あ~ん』までしてもらえるというのか!?
ああ、幸せの究極だ。俺の罪は重すぎる。代償として手足の1本くらいは持っていかれてもいいくらいの至福。
天使の笑顔でスプーンに乗せたチャーハンを俺の口元に運んでくれる柚希の姿は俺を絶対殺す最強の存在。甘えるわけにはいかないと言っていた俺は一体どこに行ったというのか、俺はそのまま素直に食べた。
「おいしい?」
「おいしい、です」
「よかった。どんどん食べてね」
ああ、いくらでも食える。米粒一つたりとも残してたまるか。柚希が作ってくれたんだぞ、死んでも残すなよ。
たとえ今怪獣が攻めてきたとしてもちゃんと食うからな。
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