お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話

湯島二雨

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第3章…俺の推しはお色気要員

推しの家でお風呂タイム①

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 俺は脱衣所に来た。
柚希の家の、バスルームが目の前にある。扉を開けて、中を見る。

柚希が……推しが、いつもここで身体を洗っている……妄想が捗りまくる。
興奮するなと言われても無理がありすぎる。こんなんどうあがいても柚希が裸で入浴している姿を想像せずにはいられない。

いや待て、妄想してムラムラしてる場合か。俺はシャワーを借りるためにここに来たんだよ。いいかげん濡れた服を脱がないと風邪を引いてしまう。

俺はまず上着を脱ぐ。水を含んで重くなっている。
これをどこに置けばいいだろうか……洗濯カゴがあるしそこに入れればいいか……?


「!!!!!!」

柚希の洗濯物がいっぱい入っていて、その中にブラジャーがあるのを見つけてしまった。またしてもブラジャーの誘惑が俺を襲う。
今度は黒のブラジャーだ。オトナっぽい雰囲気のブラジャーだ。さすがお色気要員、本人がいないところでも油断もスキもない。

よく見たらパンツもある……いや、よく見てんじゃねぇよ。さっさと全部脱いで風呂に入れ。


シャアアア……

俺はシャワーを浴びながら、なんとか煩悩を取り除こうと瞑想する。
しかしここは推しヒロインがいつも使っている風呂場。いい匂いがするし、彼女が普段使っているであろうシャンプーも意識してしまい、煩悩をなくすなど限りなく不可能に近かった。

ダメだ、ムラムラする……そして緊張と動揺もかなり大きい。
柚希の家のお風呂に入るという展開、原作にはなかった。アニオリでもなかった。俺が知らない未知の展開だから、余計緊張が走る。

しかし、前世でいろんなラブコメを読んできた俺としては、この後の展開が全く予想できないというわけではないが……いや、でもまさかな……いくら積極的な柚希でもさすがにそこまでは……


―――ガララッ

「柊斗くん……」

「!!!!!! ゆ、柚希さんっ!?」


俺の予想は当たってしまった。お色気ラブコメとしてはお約束な展開が来た。

裸にバスタオル1枚巻いた姿の柚希が、扉を開けてバスルームに入ってきた。


「柊斗くん、お背中流してあげるよ」

「なっ、な……えっ……ちょっ……!!」


お約束な展開のはずだが、俺は興奮と動揺でおかしくなってうまく言語を話せない。
下着姿でも十分すぎるほど刺激が強かったってのに、バスタオル姿だぞ!?
柚希の魅惑の女体を守るのがバスタオル1枚しかないんだぞ。簡単にハラリとはだけてしまいそうで気が気じゃない。
万が一柚希の素っ裸を見たりでもしたら俺の理性は即死する。艶かしい豊満な膨らみと谷間だけでもうビンビンのギンギンだってのに。俺を悩殺するにはあまりにもオーバーキルなスタイルの良さだ。


「えっと、柚希さん……そこまでしてもらわなくても俺、大丈夫ですから……」

「でももう服脱いじゃったし。早くあったまらないと風邪引いちゃうなぁ」

「うっ……」

そう言われたら出ていけなんて言えるはずもない。というか俺の本能が本音がメチャクチャ喜んでいるし拒否できるわけがない。
煩悩まみれの俺は柚希に身体を洗ってもらうことになった。



 俺は腰にタオルをしっかり巻いてイスに座り、その背後に柚希が膝をついて座る。

「いっぱい洗ってキレイにしてあげるからね!」

「は、はい……」

俺の穢れきった魂もキレイに浄化させてくれないかな……なんて思いながら俺は激しい心臓の動きでエラーが起こった機械みたいになっていた。
柚希の方は酔ってるからかいつもよりテンションが高いように感じる。

ボディソープをプッシュして出す音、スポンジで泡立てる音がバスルームで無駄に大きく響く。


「はーい、じゃあゴシゴシするよ、柊斗くん」

「は、はい……!」

ゴシゴシ、ゴシゴシ

ドキッ

「……ッ!!!!!!」

泡まみれのスポンジが俺の背中を撫でるように動く。柚希のしなやかな手もそっと俺の背中に置かれる。
ドクンドクンと心臓が暴れ狂う。ここまで動きが速く強く脈打つ心臓を感じるのは初めてで、破裂するんじゃないかとハラハラする。


「どう? 柊斗くん。気持ちいい?」

「ッ……!! 気持ち、いいです……」

それはまずいですよ柚希さん……
バスルームで、2人っきりで、ほとんど裸で、『気持ちいい?』なんて聞かれたらどうあがいてもいかがわしい思考回路になって性的興奮が煽られる。洗われてるのは背中なのになんで股間が反応するんだよ自重しろ。


「柊斗くん」

「な、なんですか……?」

「呼んだだけ。ふふっ」

「そ、そうですか……」

名前を呼ばれただけでこんなに幸せな気持ちになれる俺は単純すぎやしないか。酔ってる柚希が常に楽しそうで何よりだ。


「柊斗くん」

「今度はなんですか?」

また呼んだだけって言うんだろうか。柚希になら何回言われても一向に構わんが……


「……好きだよ」


「……!!!!!!」

ちょっ、不意打ちすぎる。
ついさっきまで明るく楽しそうだった柚希の声が、急に切なく消え入りそうな声になった。
しかしそんな小さな声でも、ガチ柚希ラブの俺が聞き逃すはずもない。間違いなく『好きだよ』という言葉が俺の心と股間に響いた。

俺も好きだ。キミが好きだって言いたい。叫びたい。
しかしヘタレ童貞な俺は震えて言えない。柚希を幸せにする覚悟を決めたはずなのにいざ彼女と対面したらこのザマだ。柚希はちゃんと言ってるというのに情けなさすぎる。ここでちゃんと好きって言えるようなら、俺は前世で1人くらい彼女ができたんだろうか、なんて考えてしまう。


「好き……私にはキミしかいないの。好きだよ、柊斗くん」

「っ……柚希、さん……」


酔ってるからかいつもよりももっと球速が速いストレートで俺のストライクゾーンど真ん中に愛の言葉が投げつけられる。
最初から俺の心臓には柚希の矢が突き刺さっているが、そこからさらに何本も何本も矢が貫いていく。一度刺さった矢は永遠に抜けることはない。

勘違いするなよ、俺……彼女が好きなのはであってじゃない。俺なんかただのスケベで無能で童貞で、彼女に好かれるわけがない。
彼女を騙してるような気分になって罪悪感が湧いてくる。それでも彼女の愛は今確かに俺に向けられていて、俺は細胞から沸騰して煙が出てくる。


「……でも知ってるんだ、私。柊斗くんは学校でいろんな女の子にモテてること。私には恋のライバルがいっぱいいること」


ズキッ……
心に痛みが走った。

ヒロイン候補の他の3人、苺、梨乃、桃香のこと、柚希は知っている。3人とも柊斗に惚れていて、3人とも柚希よりも距離が近いこと、柚希は知っている。
自分がヒロインレースで最下位で、おそらく自分は柊斗に選ばれない、報われない、負けヒロインになる未来が来るであろうこと、柚希はうすうす気づいている。

あくまで原作通りならの話だけどな。でも柚希の切なそうな話し方から見て、柚希もわかっているんだろう。女のカンは鋭いので好きな人のことはだいたいわかってしまうのだ。


「恋のライバルみんなすごく強くて魅力的で、私なんかじゃ敵わないってわかってる……でも私、諦めたくない……」


桃香のように自ら身を引いてしまう負けヒロインもいるが柚希はそうではない。自分がどれだけ勝ち目なくても最後まで諦めずに積極的にアタックし続けた。本気で好きで本気で恋愛に立ち向かったからこそ、負けた時のショックもダメージも大きい……原作ではそう描かれた。

柚希はすごいよ本当に。俺なんて本当はキミが好きなのに何も言えない勇気も度胸もないカスだから。
自分の気持ちを素直に伝えられる強さ、絶対に諦めない強さ。心の底から尊敬する、憧れる。そんなキミに俺は惹かれた。


「……ねぇ柊斗くん。スポンジ固くない?」

「……えっ? いや、そんなことないですけど……」

なんだ? 恋愛の話をしてたはずなのになんで急にスポンジの話に? 身体を洗ってもらってて何の問題もない。柚希に洗ってもらっといて文句などあるはずもない。


「もっと柔らかいもので洗ってあげるよ」


柚希はそう言ってスポンジを床に置いた。
柚希の言ってることが俺にはよくわからなかった。

スポンジの他に何かが床に置かれた。
それをチラッと見ると、柚希が身に着けてたはずのバスタオル1枚だった。
俺はピシッと石化した。
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