お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話

湯島二雨

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第1章…推しのヒロインがいる世界に転生

3人目のヒロイン・木虎桃香

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 「……」

「……」


睨み合うとか、バチバチしてるとか、険悪な空気とか、そういうわけではないのだが、苺と梨乃はお互いを見てお互いにしばらく無言。

原作の終盤に突入している現在、2人とも主人公・栗田柊斗に惚れている状態。つまり2人は恋のライバル。

原作ではこの2人、そんなに仲良くない。会話しているシーンも少ない。
なんか修羅場っぽくなった。俺はちょっと気まずい。

先に言葉を発したのは梨乃だった。


「……どうかしたのかい小雀さん」

「こっちのセリフよ。ずいぶんとこのバカと仲良さそうね龍崎さん」

「ああ、友達だ」

、ねぇ……ホントにそうかしら?」

「どういう意味だ?」

「別に」


俺はほったらかされて2人で微妙な距離で話している。
原作ではクライマックスまでこの2人でヒロインレースをして最終的に苺が勝利したが……では違う可能性もあるな。

俺が今存在しているこの世界、微妙に原作と違うところもあって何が起こるかわからない。このままいくとほぼ間違いなく苺エンドになるはずなんだけど、梨乃エンドになる可能性も絶対にないとは言い切れないな。どっちともくっつかないエンドになる可能性だってある。
まさかのどっちも選ぶことになる可能性もあるのか? いや俺が主人公なら絶対そうはならないはずなんだけど、俺が主人公になったからといってすべて俺の思い通りになるとは限らないからな……


とにかく俺は気まずい。いたたまれない。
原作ではこの時点でもうすでにヒロインレースの行方はこの2人に絞られているが、それはであることが前提の話だぞ。

このまま主人公でいくならの話だけど、俺はに行きたいんだ。
この世界の都合上それは無理かもしれないけど、できれば俺の願望では『武岡柚希』を選びたい。

梨乃ルートもあるかもしれないし他の子のルートもあるかもしれないし誰ともくっつかないルートもあるかもしれないしハーレムルートもあるかもしれない。
ならばたとえ1パーセント以下の確率だとしても、柚希ルートがあってもいいじゃないか。

今のところ完全に苺ルートなので願望を叶えるのはかなり厳しいのはわかってはいるが、俺の気持ちは柚希一筋です。


言えない……苺も梨乃もどっちも本命ではないとは言えない。
この状況で『俺、本当は他の女の子が好きなんだ』なんて言えるわけない。

だからすごく言い方悪いけど、この2人の争いは無駄なんだ。ヒロインを選べるならどっちエンドでもない。意味ないから今すぐやめてほしいんだ。
仲良くないなら原作以上に絡まなくていいと思う。



―――



 俺は少し2人から距離を置くことにした。
俺がいなければ争いなんて起こらないだろうと思った。

まあ正直に言うと、彼女いない歴イコール年齢のクソ童貞だったこの俺のために2人の美少女が争う光景はあまりにも新鮮でちょっと優越感あったな。ラブコメの世界ってすげーわ。


昼休みももう少し、俺は図書室に行くことにした。
原作の栗田柊斗も読書が好きでよく図書室に行っていたため、俺もある程度は原作通りに動いてみようと考えた。


さらにこの図書室、ヒロインの1人がよく現れる。
苺、梨乃に続く3人目のヒロインだ。この子もまた俺の推しではない。
推しではないが、このラブコメ世界に転生した以上ちゃんと挨拶しておくべきだと思ったので図書室に来た。


ガラガラと扉を開けて図書室に入った。
さて、3人目のヒロインは今ここにいるだろうか。ヒロインを探してキョロキョロと周りを見渡す。

探す必要はなかった。いた。すぐに見つけた。
可愛いから目立つ。ラブコメのヒロイン候補の1人なだけあって、他のモブと比べるとなんかキラキラ輝いて見えるような気がする。


「ん~……」

彼女はつま先立ちをして本棚の高いところにある本を取ろうとしていた。届きそうでギリギリ届かない絶妙の高さ。彼女の背が低めだからこうなっていた。

原作の彼女の初登場もこんな感じだった。
一生懸命本を取ろうとして届かない、でも取るのを諦めない彼女の姿は多くの読者の心を撃ち抜いたであろう。


俺は彼女の後ろに立ち、本を取ってあげた。
彼女の初登場の時も同じことをして、それがきっかけで出会って仲良くなった。


「はい、この本でいいか?」

「はわっ、く、栗田先輩!? はわわ、あ、ありがとう、ございますっ……!」


彼女は木虎きとら桃香ももか
1つ年下の後輩ヒロインだ。

茶髪の三つ編みで地味な感じだが、実はかなりスタイルが良い。着痩せして目立たないだけだ。
柚希には負けるがこの子も胸でかいんだよなぁ。でも桃香は原作ではあまりお色気描写はなかったな。入浴シーンとか水着くらいはあったけどほとんど脱がなかった。
なんというか、作者に守られてる気がした。柚希と違って読者に媚びるキャラではないって感じだ。

そして『はわわ……!』とか言っちゃうあざといヒロインだ。コミュ障なところもあってオタクには親近感が湧くかもな。

苺や梨乃と比べると彼女の方からグイグイ来るタイプではない。恋愛に関しては奥手で、柊斗に惚れるが全然アタックできなくて、最後まで告白することができずに自ら身を引いてしまったヒロインだ。
負けヒロインにすごくありがちなパターンだ。

まあ、梨乃や柚希と違って直接柊斗にフラれるシーンはなかったからまだマシ……なのかもしれない。

彼女は負けヒロインではあるが最終回で夢を叶えて幸せに生きる描写があったし、ヒロインの中じゃ恵まれてる方だと思う。
少なくとも俺の推し、柚希よりは。


さて、せっかくだから桃香と何か会話しようと思うのだが何を話そうか……無難に原作と同じ会話でいくか。


「木虎さんは本当に本が好きだね」

「はい、大好きですっ……!」

原作と同じ反応が返ってきた。大好きって話だけど『大好きですっ』ってセリフは多くのオタクを悶絶させた。


「そっか、木虎さんは小説家を目指してるんだもんな。頑張れ」

「はい、頑張りますっ!」


桃香は笑顔を見せた。
桃香の夢は小説家。原作では数年後に飛んだ最終回で見事に受賞して小説家デビューを果たすことを俺は知っている。下手に未来のことは言えないけどな。

でもこの世界は原作通りになるとは限らないので彼女の夢が叶わない可能性もあるのか……? いや、そんなこと考えても仕方ないか。


「それで……あの……栗田先輩に、お願いがあるんですけど……」

「え?」

頬を赤らめてモジモジする桃香。
キモオタ童貞の俺はエロいことしか考えられなかった。


「私、小説書いたんですけど、栗田先輩に読んでもらいたいんです!」


うん、まあ、知ってた。
原作でもあった展開だし。

読書が好きという共通点で仲良くなった柊斗と桃香は、こうやって小説について真剣に向き合っていた。
小説家を目指す桃香の作品を柊斗が読んで、感想を言ってそれを桃香が参考にする……みたいな。
柊斗の協力を活かし、桃香はどんどん文章力や構成力を成長させていくというストーリーだ。


ここで大きな問題がある。
読書が好きなのはだ。別に読書が好きなわけじゃない。
っていうか本とかほとんど読んだことない。漫画は読書のうちに入らないよな。
あ、ラノベならけっこう読んでたけど……しかし桃香はもっと年齢層高めの人向けの小説を書いている。ラノベじゃちょっとジャンル違うよなぁ。

でも確か、原作じゃ桃香は恋愛小説を書いていた。
恋愛なら何とか俺でも……恋愛経験皆無な俺だけど自称ラブコメ百戦錬磨の俺なら何かアドバイスできるかもしれない……

そう思って桃香の小説を読み始めた俺だったが、何か違うことに気づいた。


あれ……これって……
ミステリー……推理小説じゃねぇか!!


そんなバカな……桃香は恋愛小説を書いていたはずだ。何度も原作を読み込んだ俺が言うんだから間違いない。

……いや、そうか。この世界は微妙に原作と違ってる部分があるんだった。
まさか桃香が推理小説を書いているとは……すげぇじゃん。すげぇ頭良いんだな。


感心すると同時に不安も大きい。
どうしよう、俺、推理小説読んだことない……!!

探偵漫画なら読んだことあるけど……俺推理とか全然できぬ。トリックとか全然わからぬ。
見た目は大人、頭脳は子供のこの俺に、推理モノのアドバイスなんてできるのか!?


「ど……どうですか……?」

期待と不安が混じったような表情で桃香は俺を見てくる。

「……あ、ああ……おもしろい、な……」

小学生並の感想しか言えない。

うおぉ……すげぇ難しい……アホで素人な俺にはわからん……
よくわからんがとにかくすごいのはわかる。最終回まで待たなくても今すぐにでも小説家デビューできるんじゃないか? と思う。


「今どこまで読んでますか?」

「旅館で殺人事件が起こったところあたり……」

「犯人誰だと思いますか?」

「うっ……」


俺推理はできないので、探偵漫画で得た知識でなんとなく予想するしかない。

こういうの第一発見者が怪しいってよく言われるよな……
でもあからさまに怪しい奴いるな。第一印象から最悪でガラが悪くていかにもチンピラって感じの……

いや、そういう奴は意外と犯人じゃないパターンが多い。ミスリードだと思う。
おとなしそうな奴、いい人そうな奴が犯人なんじゃないかって思うけど、その心理を逆手に取るかも……いい人と見せかけてなんか怪しくて、でも本当にいい人だった、みたいな……

……そんなこと考えててももうキリがねぇな。どうせ推理できねぇんだし直感で予想しよう。


「……犯人は……被害者の兄、かな……?」

「残念、ハズレです」

外した。桃香は嬉しそうだ。
推理小説家なら読者の予想を外せるのは嬉しいだろう。ちょっとだけ悔しい。



―――



 犯人はガラの悪いチンピラだった。
ミスリードかと思ったけど違った。トリックもすごくて俺には絶対に書けないと思った。

「読んでくれてありがとうございました栗田先輩……とても参考になりました」

ホントか……? 俺全然大したこと言えてなかったと思うんだが。アドバイスどころか桃香の作品に驚かされてばかりだったが。
まあ、桃香が満足ならそれでいいけど。


はぁ、疲れた……ラブコメの主人公って思ったより大変だな。
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