Worldtrace

mirror

文字の大きさ
上 下
166 / 187
[2]の後日談

事後処理

しおりを挟む
俺は伯爵になると直ぐ、"あいつ"に代官を頼んだ。最初は渋っていたが魔族の為という事で何とか了承させた。
それから更に1週間程経ち1回様子を見る為、アイリスと一緒に魔族の都市に向かった。
都市に領主邸、というか代官の家を建てそこで生活と仕事をして貰っている。執務室に向かうと何人かの声がした。

リディア「ねぇ、大丈夫?疲れてない?」

ランド「大丈夫だ。と言いたいが少し疲れたかな?」

令嬢「なら少し休みましょう。お茶の用意をさせます。」

リディア「何であんたが仕切るの?」

令嬢「私はランド様の妻。当然です。」

リディア「はぁ?いきなり出て来て何言ってるの!」

ランド「お、落ち着いてくれ。もう5日も顔を合わせているんだ。少しは慣れても・・・・。」

令嬢「ありませんわ。」

リディア「無い。」

そこだけ2人の息が合う。

俺「というかあのお嬢さんは誰?」

執務室の入り口の外から覗きながら俺はアイリスに聞いた。

アイリス「ああ。彼女、元々レーヴァレス家と懇意のあった子爵家の御令嬢よ。もっと分かり易く言えばランド君の元婚約者。」

俺「それが何でここにいるの?」

アイリス「何か聞いた話だと、ランド君が廃嫡になってその弟君と婚約し直したらしいんだけど、彼女自身はランド君の事好きだったみたい。」

俺「へぇ。で?」

アイリス「そしたら今回、貴方とクリスがランド君を代官に任命して新しく"ホーク男爵"になったでしょ?だから彼女が婚約者としてまた名乗りを上げたって話。」

ついでにホークってのは俺が考えた。あいつの"鷹の目"ってあだ名から取った。

俺「だけど元々子爵家に嫁ぐ予定だったんだろ?それが男爵じゃ、本人達が良くても実家はどうなるんだ?」

アイリス「そこは強力な子爵以上の貴族と懇意になれるって事で説得したらしいわ。」

まぁ、クリスは公爵。その部下なら悪く無いか。

アイリス「当然その貴族には貴方も入ってるからね。」

俺「え!俺?」

アイリス「貴方、伯爵でしかも今は剣聖って称号も持ってるからね。身内になりたい人はいるわよ。」

マジか。それ程とは。まぁ、今更考えても仕方ない。とにかくランドには新興貴族、ホーク男爵として代官の仕事を頑張って貰おう。すると廊下をカツンカツンとスーツをビシッと着た女性が歩いて来る。
"スーツ"。実は、アイリスは公爵家の権力で色々な服も売り出していた。最初はただ自分が着たいから考えたらしい。だが気が付くと一大プロジェクトになり、仕舞いにはブランドとして国中に広まっていた。普段着からスーツまで何でもあるらしい。戦闘服はまだ開発段階らしいけど。今は関係無いか。
女性がこっちに近付いて来る。執務室に入るんだろう。俺が入り口から離れると当然彼女の近くに移動する事になる。そこでようやく顔が認識出来た。

俺「あれ!アンか?」

アン「ああ!シリウスさん!お久しぶりです!」

俺「え!何してんの?」

アン「えへへ。私、今はランドさんのお手伝いをしてるです。大丈夫です。私、しっかり手伝いますから。」

俺「お、おう。」

ランドの手伝い?アンが?仕事能力に問題は無い。だけど俺が気にしてるのはそこじゃない。

アン「ランドさん。資料持って来ました。」

ランド「え?あ、ああ。ありがとう。」

アン「お2人共。ランドさんが迷惑してますからあまり騒が無いで下さいね?」

リディア「はぁ?」

令嬢「貴女、何様?」

何故か3人の視線の先で火花が散っている様に見える。

アイリス「え?何?どういう事?」

少し楽しそうなアイリス。

俺「いや、あのアンって奴。傭兵の時のランドの部下でさ。で、あいつ、ランドの事が好きなんだ。」

アイリス「ちょ!それ本当?え!じゃあ何?四角関係?ランド君はアンちゃんの気持ち知ってるの?」

俺「というかランドから教えて貰った。」

アイリス「え?どういう事?」

以前ランドと話して聞いた誤って鑑定したという話をアイリスに伝える。

アイリス「え!アンちゃんはランド君が自分の気持ち知ってるって分かってるのかな?」

俺「知らないんじゃないか?」

アイリス「何でよ!」

俺「いや、そもそも知ってたら不味いだろ。ランドはアンの気持ち知っててリディアと恋に落ちた訳だろ?」

アイリス「え?うん。・・・あ!」

俺「自分の方が先に好きだったのにちゃんと始まる前に終わった上、相手が自分の気持ち知ってたって事になったら発狂しちまうよ。下手したらランドが刺される。友達が刃傷沙汰に巻き込まれるのは嫌だ。」

アイリス「ええ?でもちょっと可哀想よね?」

俺「う~ん?まぁ、そうかな?」

入り口から執務室を覗きながらアイリスは言う。

アイリス「それでランド君、誰選ぶのかな?」

俺「いや、貴族だし、角が立たない感じで第一婦人、第二婦人、第三婦人って全員娶れば良いんじゃないか?」

アイリス「は?何それ?すっごい興醒めな答え。」

だって可哀想だろ?恋愛を知らない奴の初恋の相手が、結局は3番目に知り合った女性でそこから恋愛を学んでる奴にはこの状況は酷だろう?
アイリスに睨まれ視線を逸らすと今度はランドと目が合う。ランドの目が助けてくれと言っている気がする。この状況だと仕方ないか?いや、でもな、俺に出来る事なんか無い。
この状態のランドを助けるなら、誰かを引き取るしか手段は無い。でもあの3人の誰かを好きならそれもアリだけど、リディアは顔と名前を知ってるだけだ。御令嬢に至ってはまだ挨拶もしてない。アンの事は知ってるけど、好きとかなら俺より適任がいる。でもあいつは脈無しだろうしな。仕方ないここはアレで行こう。

ランド「!」

俺は伝わるか分からないがランドに向けグーサインを送り、心の中で頑張れと思いながら笑顔を作る。
ランドが凄い速度で首を左右に振り、"違う!そうじゃない!自分の言いたい事はそんな事じゃない!"と訴えている様子だった。すると中の御令嬢が俺達に気付く。

御令嬢「あら!お客様ですか?私、この度、ホーク男爵家へ嫁ぐ事になりましたクラリス・ムスフェルと申します。以後お見知り置きを。」

リディア「誰があんたを嫁がせるって決めたのよ!」

クラリス「確かに。私の意向は入っておりますが決めたのは私ではありません。私のお父様とレーヴァレス家当主、ランド様の御義父様ですわ。」

リディア「捨てたくせに今更ね!」

ランド「いや、それに関しては俺自身が出て行ったから・・・。」

アン「でも本当に心配するなら自分で連れ戻すべきですよね?」

ここぞとばかりにリディアとアンが口撃する。ランドを追い出した側って事を強調してライバルを減らす気か?3人はそれぞれを牽制する様に睨み合う。

クラリス「あ、貴女様はアイリス・スワロウ公爵令嬢様!お久しぶりです。」

俺「何?知り合い?というか名前は知ってたから当然か?」

アイリス「え?まぁ、学園で挨拶はしてるわよ。・・・そんなに気にしなくても大丈夫よ?」

クラリス「ありがとうございます。あの、アイリス様は思っていたよりも気安い方だったんですね?」

アイリス「え?・・・・ああ、いえ、これは対外的に気を遣わせない為の処世術ですわ。」

俺「何?今更、猫被るの?」

言った瞬間、アイリスが俺の脇腹を魔力の込められた拳で穿つ。

俺「ふが!」

アイリス「ほほほほ。」

それで誤魔化せると本気で思ってるのか?

ランド「シリウス。頼む。ちょっと来てくれ。」

腹を摩りながらランドに連れられ廊下に出る。

ランド「単刀直入に言う!助けてくれ!」

俺「無理だ。じゃ。」

ランド「早っ!いや、待ってくれ!このまま
では俺の身体が持たない!どうすれば良い?」

俺「分からん。」

ランド「そんな!今までどんな窮地だろうと潜り抜けて来たじゃないか!そのシリウスが諦めるなんてらしくないぞ!」

俺の問題か?

俺「というか3人共娶れば?」

ランド「そんな簡単な話じゃないんだ!最初はリディアと楽しく話しているんだけど、いつの間にかクラリスが来て急に話が繋がらなくなるんだ!そこから空気が冷たく重くなる。そうこうしてる内にアンが来て今度は身体中に汗が吹き出すんだ。どうすれば良いのか、もう分からないんだよ。」

何か面倒臭いな。こうなったら最後の手段だ。

俺「おい!アレは何だ?」

ランド「アレって何だ?」

俺はランドの後ろを指差しその先をランドが見る。

俺「あそこの壁だよ。」

ランド「えぇ?」

ランドは首を傾げながらゆっくり壁に近付く。ランドが離れた所で俺は音を立てずに執務室に戻る。

俺「アイリス。帰ろう。もう話終わったし。」

アイリス「え?大丈夫なの?」

俺「おう。それじゃあランドの事、よろしくお願いします。」

クラリス「ええ。分かりましたわ。」

リディア「何であんたが返事すんの?任せて。」

アン「しっかりやりますから大丈夫ですよ。」

俺はそのまま音を出さずにアイリスを連れて脱出する。

ランド「シリウス。何も無かったぞ。あれ?シリウスは?」

アン「え?私にランドさんの事を頼んで帰りましたよ?」

クラリス「違いますわ!」

リディア「頼まれたのは私!」

クラリス「だ、か、ら!違います!」

ランド「た、た、助けてくれぇ~!」

アイリス「ねぇ?ランド君叫んでるわよ?」

帰り道、代官邸から離れたがランドの叫びが聞こえた。

俺「気の所為だよ。大丈夫。アレだけ思ってくれる人が3人もいるんだから。何とかなるよ。」

現実逃避な感じはあるけど、とにかく今回の騒動の事後処理は全て片付いた。後、残ってるのは結婚式かな?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

王女殿下の死神

三笠 陣
ファンタジー
 アウルガシア大陸の大国、ロンダリア連合王国。  産業革命を成し遂げ、海洋発展の道を進もうとするこの王国には、一人の王女がいた。  エルフリード・ティリエル・ラ・ベイリオル、御年十六歳の少女は陸軍騎兵中尉として陸軍大学校に籍を置く「可憐」とはほど遠い、少年のような王族。  そんな彼女の隣には、いつも一人の少年の影があった。  リュシアン・エスタークス。  魔導貴族エスタークス伯爵家を継いだ魔術師にして、エルフリード王女と同い年の婚約者。  そんな彼に付けられた二つ名は「黒の死神」。  そんな王女の側に控える死神はある日、王都を揺るがす陰謀に遭遇する。  友好国の宰相が来訪している最中を狙って、王政打倒を唱える共和主義者たちが動き出したのである。  そして、その背後には海洋覇権を巡って対立するヴェナリア共和国の影があった。  魔術師と諜報官と反逆者が渦巻く王都で、リュシアンとエルフリードは駆ける。 (本作は、「小説家になろう」様にて掲載した同名の小説を加筆修正したものとなります。)

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

令和の俺と昭和の私

廣瀬純一
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

男女比1/100の世界で《悪男》は大海を知る

イコ
ファンタジー
男女貞操逆転世界を舞台にして。 《悪男》としてのレッテルを貼られたマクシム・ブラックウッド。 彼は己が運命を嘆きながら、処刑されてしまう。 だが、彼が次に目覚めた時。 そこは十三歳の自分だった。 処刑されたことで、自分の行いを悔い改めて、人生をやり直す。 これは、本物の《悪男》として生きる決意をして女性が多い世界で生きる男の話である。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

処理中です...