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開戦

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ここに来てランドは緊張していた。作戦を失敗すれば自軍は壊滅、最悪は犯罪奴隷だろう。
魔法で姿を隠す事は出来ても音は残る。魔物達が大人しく言う事を聞くかは心配だった。なんとか音を立てず速やかに整列し結果、奇襲は成功した。
同胞の人族と戦う事に抵抗はあった。しかしもう引けない所まで来てしまった。

ハティマス「使徒は貴様が仕留めろ。」

開戦前にそう言われ不安が募る。自分にシリウスが倒せるのか?そもそもこの国で唯一と言えるかも知れない友と戦えるのか?
しかしここで負ければ魔族・・・・いや、リディアの身に何があるかも分からない。そう考えると恐怖で足が竦みそうになる。
ランドはそんな色々な思いから、ここに来てもまだ覚悟は決まらなかった。

シリウス「よう。久しぶりだな。」

ランド「ああ。」

シリウスはランドの手にある剣を見る。普段使っていた剣は脇の鞘に納まっている。

シリウス「その剣?どうした?」

ランド「これは・・・魔族が保有していた聖剣だ。何でも神獣だか、魔獣だかを唯一倒せる剣なんだ。」

シリウス「神獣?」

ランド「何でも魔族の予言者に予言が降りんたんだ。その予言に出て来る怪物さ。」

シリウス「また予言かよ。いい加減振り回すのは止めて欲しいな。」

シリウスはうんざりした様子で文句を言った後、ランドに向き直る。

シリウス「で?この後は?どうする?」

ランド「・・・・分からない。ハティマスに・・・魔王の息子であるアレクサンダーの側近に君を倒せと言われた。」

シリウス「成程。それで?」

ランド「ここまで来たらもう後には退けない。このまま王都まで侵攻して国王を交渉の場に引っ張り出す。」

シリウス「そんな状態だと和平交渉なんて事にはならないだろ?・・・降伏しろ。これ以上、血を流すなよ。」

ランド「降伏?・・・それでは駄目だ!そんな事になったら魔族は?リディア達はどうなる?捕虜か?犯罪奴隷として有無を言わさず捕まるんじゃないのか?」

シリウス「う、う~ん。否定出来ない。だけどこのままって訳にはいかないぞ!」

ランド「駄目だ!そんな!それだけは承服出来ない!俺は彼女の事を愛している!」

シリウス「・・・・いや、それは直接、本人に言った方が良いぞ。俺に言っても仕方ないだろ?」

ランド「な!そ、そうじゃない!ただ彼女と一緒にいたい。だが降伏したらそれは叶わない。」

シリウス「まぁ、確かにな。」

ランド「だから・・・俺は退けないんだ!」

ランドは剣を構え、シリウスを見据える。

シリウス「たくっ。聞かん坊め。良いぜ。少し相手してやる。そうすりゃ、その頭もちょっとは冷えるだろ?」

ランドは突進すると真っ直ぐ剣を振り下ろす。シリウスは受ける事なく、半身になり躱す。刀を峰に返し胸元を狙う。

ランド「く!」

ランドはすかさず伏せて躱し、今度は下から突きを放つ。シリウスは気にする事無く刀で跳ね除ける。流れる様な動きで峰に返し、今度はランドのうなじをに狙う。

ランド「くそ!」

ランドは何とか剣を引き戻し攻撃を防ぐ。

シリウス「へぇ、少しは腕を上げたんだな。」

ランドは下から剣をかち上げシリウスの刀を弾き、そのまま今度は胴を狙った。だがそこまで読んでいたのか、シリウスは既に射程外に出ていた。

ランド「はぁ、はぁ!」

シリウス「息、上がってるぞ。降参したらどうだ?こっちもお前とは戦いたく無いし。」

ランド「はぁ、すぅ~。ふぅ~。」

呼吸を整え正眼の構えで立つ。やはり正面から戦うとなると一筋縄ではいかない。しかしここで終わる訳にはいかない。
自分に言い聞かせる。気持ちで負けるな!自分も遊んでいた訳では無い!傭兵になり、周りの人や色々な経験が自分を叩き上げた。今の自分なら負けはしないと。

"ゲイツ「何?戦い方を教えろ?んな事言われてもな。・・・そうだな。先ずは敵の顔面に肘鉄を入れろ。それでフラ付いた所を顔面へ更なる追い討ちの裏拳を嚙ます。んで、完璧に体勢崩したって所で鎖骨辺りに鉈をガン!と叩き込む。・・・セコい?お前な。戦場で手加減なんて出来るかよ。」"

ランドは剣を最上段で振り被る。

ランド「うおぉぉ!」

シリウスは振り下ろされるより前にランドの脇へ移動し、そこから一気に後ろへと回り込む。だが、それは想定内だった。ランドはシリウスを回り込ませる為に、声を張り上げ大振りをした。これで自然な流れのまま攻撃を仕掛けられる。
ランドは振り向くと同時に左の肘鉄をシリウスへと放つ。

シリウス「ムッ!」

シリウスは当然ながら肘の届かない丁度の位置で躱す。ランドは狙い通り2撃目を放つ。

シリウス「あ!ヤベ!これオッサンの!」

シリウスはすかさず伏せて躱す。だが、安心は出来ない。この攻撃は本来3連撃だ。肘鉄と裏拳、肩への斬撃。ランドも続けて剣を振り被る。ただし狙いは別の所だった。

"ティム「戦い方?そんなの俺の場合は脚を狙うね。斧か戦鎚かはその時で違うけど、相手の脚をガッ!っと狙って前に倒れた所で頭にドン!だな。」"

シリウス「ん?・・・な!それはティムのやり方だろ!」

警戒していた剣の軌道は肩を狙った物では無く、脚を狙った物だった。裏拳を躱し上から来る攻撃を想定していたシリウスは姿勢を低くしていた。躱しはしたが流石にいきなり狙いを変えられ体勢を崩す。ランドは更に続けて仕掛ける。

"ダン「どう戦うか?そんなの俺は槍だからな。近付かせないし、近付かない。遠距離から狙う。距離を詰めて来たら、柄でぶん殴って突き離し無理やり空間を作る。・・・え?更に近付かれたら?・・・う~ん。蹴るな。蹴りを入れる。」"

ランドは一連の動きで出来た勢いを利用する。踏み込んだ脚を軸に身体を回転させ、そのまま回し蹴りをシリウスへと放った。

シリウス「ぬお!」

シリウスを蹴り飛ばし距離が空く。

シリウス「今のはダンの蹴りか!たくっ!正攻法で戦うのがお前の良さだろう!オッサン共め、碌な事教えないな!」

ランドは続けて記憶を呼び起こす。

"ジーク「戦い方?簡単だ。剣の届く距離で思い切り振れば良い。」

ジークは得意げにフフンッと鼻を鳴らす。

ランド「・・・・・。」

ダン「・・・・・。」

ティム「・・・・あのさ。それこの都市だと出来るの、お前とシリウスくらいだから。」

ジーク「何!」

ダン「いや、"何!"じゃなくて。お前は良いよ。その体格に大剣を持ってりゃ、大体の奴は勝手に畏縮するからさ。普通はその敵との距離をどうするかって事を考えるんだよ。」

ジーク「ならば、シリウスは?」

ダン「あいつは敵の攻撃を掻い潜って無理矢理に距離を詰めるから。」

ティム「それにあいつの持ってる剣。革鎧くらい簡単に両断するし。それにあいつ自身だって、あの速度で動いてるのに鎧の繋ぎ目を見つけて腕や首を普通に切断するからな。」

ダン「ああ、あいつは参考に出来ないよ。」

ジーク「う、う~む。じゃあ、相手が速くて倒すのが大変だった時の話だ。俺は"返し"を使う。」

ティム「返し?」

ジーク「防御で構え向かって来た敵の動きに合わせ、弾いて斬る。空振りさせて斬る。というのを使う。」

ダン「割と普通だな。ただしっかりはしてる。」"

ランドは"返し"。カウンターを狙い構える。

シリウス「・・・・。」

ランド「・・・・。」

シリウス「・・・なぁ、そろそろ落ち着いて話し合おうぜ?」

ランド「な!何故仕掛けて来ない!」

シリウス「いや、明らかに何か狙ってるのに正面から仕掛ける気は無いよ。」

ランド「えぇ!」

シリウス「距離も空いてるし。状況がな。乱戦状態というか、戦ってる流れでいきなり切り替われば使えるかも知れないけど。今は流石に。」

ランド「な、成程。もう少し考えないと駄目か。」

傭兵達から色々な戦い方を学んで来た。しかしそれでもまだ届かない。
ランドは残った記憶の引き出しを開ける。それは自分と最も長く過ごしたある友との記憶でもあった。
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