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[Worldtrace2]

凶行

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拘束4日目。
昨日の決闘騒ぎが影響か、村人達からの風当たりが和らいだ。族長からは武器を持たなければ外出しても構わないと、許可も貰った。
朝は住人の仕事を手伝い、昼は戦闘訓練に付き合った。相変わらず寝泊まりは牢屋だったが、今の所は気候が暖かく寝るだけなら苦では無かった。
5日目は朝から村の子供達と近くにある川で釣りをした。結果としては散々だった。子供達は慣れた物で簡単に釣り上げるが、自分は全く釣れなかった。落ち込みながら子供達を連れて村まで帰る。その帰り道でリディアが待っていた。

リディア「すっかり馴染んでるわね。」

ランド「そうかな?それにしても釣りは初めてだったよ。」

リディア「そうなの?」

子供「兄ちゃん、かなり下手くそだったよ。」

リディア「そう言う事言わないの!」

"わ~!"っと叫びながら帰って行く。

リディア「もう!」

ランド「情け無い。剣以外は全く駄目だ。」

リディア「仕方ないわよ。それより父さんが貴方を呼んでいたわよ。」

ランド「族長が?分かった。」

ランドとリディアは族長の所に向かう。一体何の話をされるのか、少し緊張してくる。ただ今後の事を考えるとそろそろ自分も帰らないと大変な事になる。どうした物か。

族長「色々と考えたがお前をこのまま拘束する事は出来ないだろう。だからこの村の事を他言しないと"約束"して貰う。それでお前を解放する。」

男「お前は力を示して仲間達と打ち解けた。それに子供達を人質にここを出て行く事も出来た筈だ。しかし今の所、何も問題は起きていない。少しはお前を信用しても良いという話になった。」

村人「フンッ!」

ずっと突っかかって来ているあの村人以外とは確かに打ち解けた。

ランド「約束か。」

族長「ああ、そうだ。」

ランド「分かった。約束するよ。」

ランドは牢屋に戻る。族長には今日は準備があるから明朝、解放すると言われた。剣も外に出る時に渡すと約束してくれた。準備というのが何か分からないがとにかく待つしかない。
そして6日目の朝。村の入り口にランドは立っていた。見送りにはリディアが来てくれた。

リディア「これ。」

ランド「ありがとう。・・・また、会えるかな?」

リディア「・・・・あのね。私達この集落を放棄するの。だからもう会えない。」

その言葉にランドは衝撃を受ける。

ランド「俺がここに来たからか?」

リディア「・・・うん。」

ランド「・・・済まない。」

リディア「謝らないでよ。これも運命よ。仕方ないじゃない。」

ランド「準備っていうのはつまり荷造りか?」

リディア「うん。」

ランド「何処に行くかは?」

リディア「まだ決まって無い。それに決まってても・・・。」

ランド「そうだな。ごめん。」

自分の所為で住み慣れた土地を離れる事になる。ランドは申し訳なかった。

ランド「じゃあ、行くよ。」

リディア「うん。」

そしてランドとリディアは別れそれぞれ歩き出す。村に来た時の事を思い出しながら都市へと戻る。今から帰れば昼には"イージス"に辿り着ける。

ランド「確か、こっちだったな。・・・・ああ、ここだ。リディアと会ったのは。」

ここからなら都市まで近い。後は団長達への言い訳だ。ランドはどうするか?と思案する。その時、爆発の様な音が聞こえる。音がしたのは、リディアの村の方角だった。
ランドは走る。来た道を戻り入り口の門まで行くと村の中から火の手が上がっている。門の状態は朝の時と同じだ。恐らく別の所から襲撃を受けたのだろう。

ランド「今は考えてる場合じゃない。リディア。」

ランドは走り出す。少し行くと村人の亡き骸を発見する。遅かったか?いや、まだ分からない。
それにしても何があったのか、ランドはもしかしたら捜索隊かも知れないと思っていた。しかし幾ら団長達が心配してくれたとしても、いきなり現れてここまでするだろうか?

リディア「きゃああ!父さん!」

ランド「リディア!」

ランドは悲鳴のした方に急ぐ。身なりの良い騎士と倒れた族長、そしてリディアを見つける。相手は騎士だ。傭兵では無い。少し安心するが、だとするとこの襲撃が何故起きたのか尚更分からない。
色々な考えが頭の中を巡る。しかし時間は待ってくれない。騎士がリディアへと剣を振り下ろす。ランドは騎士とリディアの間に身体を滑り込ませる。ガキンと音を鳴らし剣を受け止める。

リディア「ランド!」

ランド「リディア!族長を連れて逃げろ!」

リディア「・・・・うん!」

少し迷った様子だが直ぐに族長を連れその場から離れる。

ランド「お前達、何処の者だ?ここはまだゲイツ辺境伯の領土に近い。辺境伯の許可も無く戦闘行為を行うのは違反だろう?辺境伯がこの場にいるなら話は別だが・・・いないみたいだな?」

騎士「・・・・・。」

ランドは努めて冷静に話し掛ける。だが返事は無い。相手はフルアーマーでは無いから顔の確認は出来る。見ると目がなんとなく虚ろに感じる。

ランド「これは・・・?」

もしかしたらと急いで鑑定眼を発動する。この場には、リディアを襲った騎士の他に後2人騎士がいる。その3人、全員を鑑定する。いつも通りその騎士の名前と家名、年齢が元々分かっている事の様に頭に浮かぶ。そして最後に補足情報が追加される。

"彼等は現在洗脳されている。彼等を洗脳した者はこの世界には存在しない。"

ランド「存在しない?」

洗脳されているなら術師を倒せば止められると考えていたランドは驚愕する。"この世界に存在しない。"という状態の意味が分からない。
その時、以前シリウスと話した事を思い出す。シリウスの鑑定が出来ない原因についてだ。

"俺はこの世界に存在してないからな。"

何を言っているのか不思議だった。あの時は全く理解出来ない話だった。今回の状況、相手はもしかするとシリウスと同じく特殊な人間では無いか?と感じる。ランドは考える。なんとか術師を見つけて事態を収めればまだ挽回出来る筈だと。そんな事を考えているランドの顔に影が出来る。
ランドは我に返り、自分が何処で何をしているのかを思い出す。

ランド「くそ!」

普段から部下達に戦場で気を抜くなと言って来た。その自分が今、隙だらけだった。情け無い。ここでやられれば挽回する所じゃない。押し返すと3人の騎士達は扇状に広がる。先ずは落ち着いて冷静に行動しよう。騎士の3人の出で立ちは、全員が片手剣と盾を装備していた。洗脳された人間の剣と盾を掻い潜り、死なせずに制圧する。難易度は高い。しかしこのままだと本当に取り返しのつかない事態になる。
正面にいる騎士が突きを放つ。ランドは左に払い、直ぐに盾を弾こうと動く。だが右側から盾を構えて別の騎士が体当たりをして来る。慌てて後ろに跳び退くが、そこに3人目が待ち受けていた。振り下ろされる剣を受け流し横薙ぎに振る。このまま首を斬れば1人減らせる。そう思った所で剣が止まる。その間に近付いて来た騎士に、背中を盾で殴られ突き飛ばされる。

ランド「ぐは!」

しばらく地面を転げ回るが、直ぐに立ち上がり構え直す。

ランド「はぁ、はぁ、くそ!」

頭の中で別の自分が言う。"このままだと危険だ!1人で良い!減らせ!"と言う。しかしまた別の自分は"彼等は操られているだけだ。話す事が出来ればなんとかなる。"そう語り掛けて来る。
3人を相手に手加減して取り押さえるのは無理だ。しかし同族は簡単に斬れない。何より洗脳されてなければ説得するなり、恐怖を与えて退かせるなり他にも手はある筈。ランドは、とにかく死なせずにこの場を切り抜ける手段を考える。だが、当の3人はランドの心情に構う事無く攻めて来る。1人に集中すれば他の2人が反対側に周り込む。挟まれれば今度こそ終わる。直ぐに包囲網から脱出するが状況は変わらず、こう着状態のままだ。だがその時だった。

リディア「ランド!」

ランド「リディア!」

リディアが駆け付けた。ランドとしては複雑だった。彼女を逃す為にこの場にいるが、その彼女は危険を顧みず自分を助けに来てくれた。嬉しいがこれでは自分が残った意味が無い。

ランド「何故来たんだ!」

リディア「貴方を見捨てられない。それに・・・私は仲間を殺せない。」

その通りだった。騎士達は仲間では無い。
だが、同族である彼等を簡単には見捨てられなかった。

リディア「はぁ!」

リディアの声で我に返る。
彼女は自分の爪を伸ばし騎士に襲い掛かる。騎士は盾で弾き剣を振り下ろす。リディアは左手の爪を伸ばしその剣を受け止める。リディアが1人を引き受け、ランドは自然と2対1の状態になった。近くにいた騎士がランドに斬り掛かって来る。とにかく冷静に対処しようと考えた次の瞬間だった。

リディア「きゃあ!」

リディアの悲鳴を聞き、ランドの理性が吹き飛んだ。

ランド「邪魔だぁ!」

それが偶然なのか、狙ったのかは分からない。ランドが剣を下から振り上げると騎士の右腕を斬り飛ばす。ランドはその勢いのまま騎士の首を落とした。洗脳されている為だろうか、それを見ても怯む事なくもう1人の騎士が突きを繰り出す。ランドはそれを躱しその騎士の首も落とす。最後にリディアに襲い掛かろうとしている騎士の首を後ろから刎ねる。

ランド「はぁ、はぁ!」

ランドは肩で呼吸をしながら立ち尽くしていた。人を斬ってしまった。これは殺人、いや、間違いなく反逆罪だ。身体が震えていた。

リディア「ラ、ランド?」

ランド「え?・・・は!リディア!無事か?怪我は?」

リディア「うん。私は大丈夫。そっちは?」

ランド「あ、ああ。大丈夫さ。大丈夫。他の人は?」

リディア「分からない。」

ランド「見て来ると良い。俺は・・・大丈夫たから。」

リディア「ごめん。直ぐ戻るよ。」

リディアは皆んなの無事を確かめる為に走り出す。
まだ身体が震えている。今までに感じた事の無い恐怖だ。相手が魔族の時には感じなかった感覚、人を斬った事で初めて知った感覚だった。
ランドは思う。自分は仲間達の所へ帰れるのだろうかと。
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