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勝負

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ランド「はぁ、参った。」

村人「フンッ。今更後悔しても遅い。1人で来た勇気だけは褒めてやる。だが蛮勇だったな。まぁ、貴様が暴れても俺が取り押さえてやるがな。」

ランド「君は腕に覚えがあるのか?」

村人「フッ、俺は村1番の戦士だ。そしてリディアは俺の嫁だ!手を出すなよ!」

ランド「え!そうなのか。」

昨日知り合ったばかりの人を意識するのは変かも知れないが、ランドは何故か気分が落ち込んだ。

村人「まだ式は挙げてないが、族長の許可は得ている。後は・・・・。」

リディア「私は受けて無いよ。」

ランド「え!」

村人「な!リディア!・・・俺の何が不満なんだ!」

リディア「強さだけ言えば文句は無いけど。」

村人「けど、何だよ!」

リディア「優しさが無いのよね。」

村人「優しさ?」

リディア「強さも必要だけど、私の窮地に颯爽と現れて助けてくれる人が良いな。その上私の態度が悪くても嫌な顔しないで助けてくれる人が良いの。」

そう言いうと牢屋のランドと目が合う。昨日の事を思い出し、今言った話は全て昨日起きた事だと気が付く。途端に恥ずかしくなる。

ランド「?」

リディアは咳払いをする。

リディア「とにかくあんたは対象外。」

村人「何だと!族長は認めたぞ!」

リディア「父さんは、私が了承したら良いって言ったの!」

村人「なら!お前はこいつの方が良いって言うのか!」

リディア「そ、そう言う話じゃないでしょ!」

2人がどういう関係か、いまいち分からないがとにかく恋仲では無い様子だ。ランドはそれを知り安堵する。ふと、何故自分が安堵しているのかと不思議に思う。ランドは理由について自問自答していたが、不意に2人の会話が耳に入る。

村人「ならば俺とこいつ、どっちが強いか勝負して決めてやる。」

リディア「だから何でそんな話になるの?彼はそもそも関係ないんだから巻き込まないで!」

ランド「え?何の話だ?」

村人がランドの手を縛り牢屋の外に連れ出す。

リディア「ちょっと!」

村人「族長は拘束と監視があれば、一時的に外に出しても構わないと言っていた。」

リディア「そう言う意味じゃないでしょ!」

村人「五月蝿い!とにかくついて来い!」

ランド「何処に行くんだ?」

訳の分からないまま村の中を歩く。洗濯等、仕事をする村人達。走り回って遊ぶ子供。水準は低いが、しっかりと人間らしい生活をしている魔族達。それを眺めながら付いて行くと何人かの魔族が柵で囲われた円の中で何かをしていた。

リディア「訓練所?」

村人「これからお前と1対1で勝負する。」

訓練所の魔族達と何か会話をした後ランドの所に戻って来る。

村人「さぁ、行くぞ!」

ランド「え?あ、ああ。」

訓練所にいる他の魔族がランドを睨む。訓練所とは言われていたが、見た目は野良試合をしている簡素な闘技場だった。
ランドがそのリングに入ると、村人は拘束を外し木剣を渡す。

ランド「良いのか?」

村人「フン!どうせ全員を倒さないと、ここからは逃げられない。それに木の棒一本で森は抜けられない。」

確かに森の魔物に木の棒で勝てる訳が無い。ここは大人しく決闘に応じる事にする。訓練所にいる魔族達は人族に負けるな、叩きのめせと叫ぶ。祭りの様に声を上げる。どんな種族でも野次馬は同じらしい。

ランド「シリウスが決闘に巻き込まれた時も皆んなこんな風に叫んでいたな。」

村人「何か言ったか。」

ランド「いや、何でも無い。」

村人「始めるぞ!」

村人は距離を詰め木剣を振り被る。ランドも打ち合いそこから鍔迫り合いなる。村人を押し退け、木剣を横薙ぎに振る。村人が攻撃を躱し今度は突きを放つ。ランドは突きを払い真上から振り下ろす。

村人「く!」

寸前で半身になり躱す。体勢を崩しているが追撃を防ぐ為、直ぐに木剣を振る。ランドはそれを防ぐと押し返す。

村人「うお!」

お陰で距離を取る事が出来き、体勢を立て直せた。しかしここからどう攻めるか。対するランドは余裕を見せる。村人は呼吸を整え再び距離を詰める。
突きを繰り出す動きをし、それにランドが反応する。だが突きを放つ前に軌道が変わる。フェイントだ。

ランド「むっ!」

別の方向から来た突きに対し、首を傾けて躱す。下から跳ね上げ、胴を狙い木剣を振る。村人は跳ね上がった木剣をそのまま上から振り下ろす。
そこから2度、打ち合い鍔迫り合いになる。
押し合いから同時に離れ距離を取る。村人が再び振り被るが、ランドは木剣を打ち落としすかさず突きを放つ。

村人「くそ!」

村人は堪らず木剣の刃の部分を左手で掴むと奪い取る。

ランド「な!」

リディア「ちょっと!何してんの!」

村人「これで終わりだ!」

そして村人は今一度、振り被る。ランドはその時、シリウスの言葉を思い出す。

"手首から肘、肩まで腕を真っ直ぐ伸ばして繰り出すんだ。変な角度にすると手首とか骨折するから、力を一直線に伝えるんだ。"

ランドは腕を真っ直ぐにし、掌底で木剣の柄を打ち抜いた。右手に握られた木剣が抜け、飛んで行く。

村人「ぐぁ!」

続けて左脚の親指に力を入れ腰を回転させる。左の拳で鳩尾に一撃を当てる。

村人「がふ!」

ランドは足下の木剣を広い、倒れた村人の首に当てる。

ランド「終わりにしよう。」

村人「く!」

その場にいた魔族達は騒ぎ出す。勝つと思っていた男が負けた事で動揺していた。

族長「そこまでだ!」

リディア「あ!・・・父さん。」

族長は娘を見ると溜め息を吐き、周りの魔族達を一瞥し語る。

族長「分かったか?その男には手を出すな。」

村人「はぁ、はぁ、何でだ!」

ランド「良い勝負だった。また今度、稽古しよう。」

村人「フンッ!」

ランドは握手を求めたが、その手を弾き何処かへ行く。

リディア「あ!あんたねぇ!」

ランド「いや、良いよ。今はそんな気分じゃないのさ。」

この後、強さを認めたのか他の魔族達からの風当たりが少し柔らかくなった。
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