Worldtrace

［Worldtrace２］

クリス

相変わらず痛くて目を開けられない。血の臭いがしない事から、血は出て無い様だ。洗えば大丈夫だろう。先ずはこの状況を切り抜けよう。
先生の言う通り一筋縄では行かないな。この騒動の発端は僕自身だけど。
集中して意識を身体全体に広げる。先生に習った５感の内、視覚を除外した４つを全開にする。

男１「くたばれぇ！」

男性の声がすると直ぐに風切り音がする。そこで先生から習った事を思い出す。
風切り音のした位置から、拳で僕を殴るつもりだと分かる。僕は咄嗟に左腕を動かし、相手の殴打を防ぐ。左腕に相手の骨が当たった感触から相手の腕も左腕と分かる。僕は踏み込みの脚音と腕の位置から脇腹の場所を推測し、相手の左脇腹を殴打する。

男１「げは！」

今度はその声から首の場所を把握、そして相手の左脚を払うのと同時に喉笛に掌底を打ち込み男を地面に叩き付けた。
後ろからタッタッタッと脚音が聞こえて来る。
僕は屈んだ体勢のまま機を待ち、近付いて来た所で相手の腹部に蹴りを入れる。

男２「がは！・・・ぶふ！」

素早く立ち上がり左の回し蹴りで薙ぎ倒す。
目が見えない状態は続いている。だが、先生から得た知識と自分で獲得した情報、その全てを『軍神』が精査し纏め上げる。それにより僕は達人の様に状況を把握、対応出来る様になっていた。
僕は振り返り、迫る攻撃を今一度左腕で防ぐ。今回は骨では無く筋肉だった事から相手の腕は右腕だと分かる。相手が反応するより先に踏み込み、鳩尾に拳を打ち込む。顎が突き出された所で膝蹴りを入れた。そして次は掴みに来た相手の腕を逆に掴み投げる。
先生は心臓に強い衝撃を受けると人は一瞬止まると言っていた。それを思い出し、僕は次に襲って来た相手の心臓を拳で打ち抜く。そして動きが止まった男を蹴り飛ばした。
そこでやっと周りが静かになる。

クリス「ふぅ、これで終わりかな？」

マーク「クリス様、お疲れ様です。」

マークが僕の目を洗う為、水を持ってきてくれた。目を洗い、姉上が考案した"たおる"で顔を拭く。マークは出来た男でそこまで用意してくれている。
僕はようやく目を開けられる様になった。

クリス「助かったよ。」

マーク「いえ。それよりも流石ですね。クリス様。」

クリス「先生と修行に付き合ってくれたマークのお陰さ。」

メリア「あ！危ない！」

ガルマン「きゃ～！止めてぇ～！」

マーク「な！」

全く意識していなかった。その男は短剣を取り出し僕の方に向かって来る。完全に失敗だ。そう思った瞬間、男は蹴り飛ばされた。

シリウス「全く。これ以上は容認出来ないぞ。大体、次期公爵様に喧嘩売るなよ。」

フッ、流石は先生。

シリウス「油断するなよ。」

クリス「済みません。」

シリウス「まぁ、最後以外は及第点だな。」

クリス「ありがとうございます。」

マーク「貴様、何様だ！」