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『軍神』

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クリス「シリウスさん。僕に[気]を教えて貰えますか?」

旅の途中の宿でそんな事を言われ、俺はクリスに[気]を教える事になった。とは言え大した事は教えられない。クリス本人が言うには[気]に関してアイリスにも教わったがあまりよく分からなかったらしい。
基本魔力と反対の性質らしく上手くやらないと魔力を分解するみたいだ。"イージス"の傭兵達も[気]を使えた奴はいなかった。
俺の教えで魔力の操作が上達し、魔力線も分かる様になった。お陰で魔法に対抗出来ている。というのが現状だ。それこそ、この『世界』の人間で両方使えるアイリスが特別という話なんだろう。

俺「とりあえずそこに座って目を閉じろ。」

俺はクリスの頭に手を置く。

マーク「おい!貴様!何をしている!」

俺「五月蝿いな!少し黙ってろよ!」

クリスが"まぁまぁ"と宥めて来る。俺はどっちかと言うと被害者だが?はぁ、とにかくやるか。
地球の気功を使う治療や施術と同じ様に、手の平に[気]を集めクリスの身体に流す。

俺「何か感じる?」

自分でも思うけどザックリした言い方だな。だけど俺の場合、習うより慣れろって感じで修得したから説明が難しい。

クリス「あ!感じます!何か暖かい物が身体の中を流れてきます!」

俺「まぁ、それを自分の中で見つけて身体に馴染ませる感じ・・・・かな?」

マーク「おい、それで本当に大丈夫なのか?」

俺「いや、後は感覚というかそんな感じだからなぁ。」

マークはやれやれと言い首を振る。ただどういう物か、どういう感じなのかその辺を理解出来れば何かしらの影響があると思う。アイリスは地球の知識があるからなんとなく感覚で理解出来ていた。後の事はクリス次第だろう。

俺「ん?・・・・あれ!」

マーク「おお!」

クリス「シリウスさん!感じますよ!これが[気]なんですね!」

クリスの身体が若干輝いている。明らかに全身を[気]で覆っている。というか修得している。

俺「何で?」

マーク「流石はクリス様!凡人とは格が違う!」

いや、そう言う問題じゃないだろう?
え?才能の成せる技なの?俺は何年も掛けて修得したのに、俺が誘導したとしてもこんな簡単に出来る様になるのか?

クリス「それは恐らく僕の職業が『軍神』だからだと思います。僕が必要と思う知識や技術を修得し易くする補助をしているんだと思います。」

『軍神』?・・・"神"って職業?う~ん?

クリス「それに姉上から習っていた時、魔力は身体の外、[気]は体内で使っていると言われたんです。」

俺「それで?」

クリス「あの時は[気]について修得出来ませんでしたが、魔力操作の練習を内と外というのを意識しながらしていましたから。多分その甲斐があったんじゃないかと思います。」

姉弟で特別だったのか?はぁ~、凹む。

クリス「シリウスさん!いえ、先生!」

俺「え?・・・は?先生?」

クリス「僕に戦い方を教えてくれませんか?僕には未だ戦闘経験がありません。実戦を想定した訓練がしたいんです!」

マーク「クリス様!駄目です!こんな奴を師と仰ぐのは!それに訓練なら今までにも十分しています!」

クリス「いや、あれでは駄目だ。皆、僕が公爵家の人間という事で手加減している。そんな物を訓練と言えるかい?」

マーク「う、そ、それは・・・・。」

言い負かされてる。
確かに言いたい事は分かる。けど問題がある。俺のは完全に我流だ。なんとか手持ちの札で今まで生き延びて来た。そんな俺に出来るのは1つだ。

俺「口で説明出来る事は無いぞ。俺のは全部我流だから。」

マーク「はぁ、やっぱりな。」

クリス「そんなぁ。」

俺「だからやるなら組み手だな。」

マーク「な!」

クリス「やった!今すぐやりましょう!」

マーク「いけません!怪我などされたら今後に支障が出ます!」

クリス「マーク、それくらいでないと訓練にならないだろ?」

マーク「く!」

宿の裏庭を借り組み手をする事にした。マークが俺を睨んでいる。睨んでも何も出ないっての。

クリス「さぁ!行きますよ!それと手加減は無用です!」

そうは行かないだろう。まぁ、とにかく始めるか。お互い木剣を持って向かい合う。
クリスの戦闘スタイルはアイリス同様フェンシングがメイン。宿の敷地内だから魔法は使わないが、ここに魔法攻撃も加わる事になるんだろう。ただアイリス以上に単調だ。競技とかで言えば正しい。正攻法、ルール通りにポイントを取りに来ている。そんな感じだ。
そういえばクリスが闇堕ちのきっかけは、視察先の都市で起きた事件。冒険者と諍いだ。色々あって勝負する事になったんだけど、その勝負の負け方が問題だった。普通の試合で負けたなら良いけど、いわゆる卑怯な手で負けた事だ。あっちは生きる為に色々やってるから、アレくらいは当たり前なんだろうし反則って訳じゃないけど。クリスに取っては初めての事だ。それが原因で後々心が歪む結果に繋がった。
ここは俺が悪役に徹しクリスに現実を教えるか。俺はその冒険者がした行動を取る。

俺「喰らえ砂掛け。」

クリス「うわ!」

マーク「な!貴様!何をする!」

俺は構わずクリスの肩に木剣を置く。

俺「俺の勝ちだな。」

クリス「ひ、卑怯ですよ!」

マーク「そうだ!クリス様に謝れ!」

俺「悪い悪い。確かに卑怯な手段だけど、これから行く所はそういう事をしてでも勝たなきゃ生きて行けない所だ。」

クリス「そうなんですか?」

マーク「まぁ、確かに。」

俺「それに世の中は綺麗な部分だけじゃない。そういう汚い部分もある。見えない所には影がある物さ。」

クリス「見えない部分こそ大切、と言う事ですか?」

俺「う~ん。人によってはそう言うな。」

マーク「どっちなんだ!」

俺「人は自分で見ない様にしたり、人に知られない様に隠してる所があるだろ?そういう部分は確かに重要だけど、それが人の本質じゃない。良い面と悪い面、両方あっての人間だからさ。」

マーク「貴様の様な奴が急に難しい事を言うな。」

クリス「両方。」

俺「綺麗とか汚いとか外側だけじゃなくて内側も見て、何が大事なのかしっかり見極めた方が良い。と俺は思う。」

マーク「それは貴様の感想だよな?」

俺「当たり前だろ。第一、意見を聞かれれば最終的に感想を伝える形になるのは普通の事だ。」

クリス「分かりました。僕なりに考えてみます。」

俺「うむ。でも例の都市では普通に卑怯な手段を使われるからその対策はしとこう。」

クリス「は、はぁ。」

マーク「そこはもう確定なのか?」
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