Worldtrace

［Worldtrace］

光の勇者

シリウスは大丈夫だろう。とにかくこのジャガーって奴と戦わないと。ワーグってのが常に力を送ってるから普通に考えるとワーグを倒してからジャガーって事になるけど俺も考えるの苦手だからな。どうしようか？

ジャガー「喰らえ！」

ジャガーが右の鉤爪で襲い掛かって来る。考えてる場合じゃない。ジャガーの攻撃を左に受け流し、今度は俺が剣を振り下ろす。ジャガーは左腕で防御体勢に入る。俺は当たる瞬間に手前に引き剣の軌道を変える。ジャガーの左腕の下から突きを繰り出すが、ジャガーも直ぐに反応する。
身体を半身にして俺の剣を躱す。その勢いを利用して一回転、振り向きながら今度は右の鉤爪で攻撃して来る。俺はそれを伏せて躱し、すかさず下から剣を振り上げる。ただ流石は敵の将軍、それを後ろに退がり躱す。俺は今一度前に出て剣を振り下ろすけど、ジャガーは腕を交互に合わせて受け止める。

ジャガー「フッ、やるじゃないか。」

ジン「あんたもな。」

ガリガリと音を立てながら睨み合う。２人で押し合うが途端にジャガーの力が抜ける。

ジン「うぉ！」

俺は体勢を崩し倒れそうになる。次の瞬間、ジャガーが体当たりで俺を突き飛ばす。更にジャガーは距離を詰めて来る。俺は素早く立ち上がりジャガーの攻撃に備える。右、左と突きが来る。それを躱し今度は俺が距離を詰め横薙ぎに剣を振る。奴は飛び退き左脚で回し蹴りをして来る。
俺はそれを躱して前へ出るが、ジャガーは蹴りの勢いを利用して回転していた様でそのまま次の攻撃をするつもりの様だ。俺は裏拳を警戒したけどその裏拳は来なかった。代わりに２度目の左脚の回し蹴りが来る。俺は当たる寸前で躱す。後少し判断が遅れていたら頭が無くなっていたかも。危なかった。地面を転がりながら距離を取る。

ジン「はぁ、はぁ、ヤバかった。」

ジャガー「ふぅ、ふぅ、まさかここまでとは思わなかったぞ。」

正に一進一退、際どい勝負が続いている。それにしても剣の斬れ味が悪い気がする。開始時点では普通だったのに何故か魔力の流れ方が良く無い。ジャガーを睨みながら改めて剣に魔力を流す。すると何処からか"ピシッ"と音がする。

ジン「ん？」

嫌な予感がする。そういうのは基本、警戒の合図だ。けどそれで動かずにいると敵から攻められるきっかけにもなる。どうするべきか、俺は少し考えたが攻める事にした。

ジャガー「来い！」

ジン「おりゃ！」

渾身の力を込め振り下ろす。ジャガーも右腕を振り下ろす。俺の剣と鉤爪が当たった瞬間だった。"バキン"という炸裂音と共に剣が真ん中辺りで折れる。

ジン「えぇ～！何でぇ～！」

自分でも驚く程の変な声を出した。こんな時に折れなくても良いじゃないか。

シリウス「ジン！」

シリウスの声で我に返ると目の前に拳が迫る。ジャガーは俺のこめかみを狙い、横薙ぎに右腕を振る。頭を下げて避けると続けて下から空に向かって拳を突き上げる。仰け反って躱すが、更に空中に跳び一回転。右の後ろ回し蹴りだ。俺は直ぐに腕で防御する。
籠手のお陰で腕は無事だけど凄い蹴りだ。それに仰け反らせていたから身体が伸びきっていた。その所為で衝撃を吸収出来なかった。身体が痛い。これは不味い、負ける。
そういえば４本目の聖剣を探してる時にシリウスが"今回の聖剣はジンのだから"そんな事を言っていた。それにシリウスが第一師団長と戦っていた時に手をかざしただけで剣がシリウスの手元に戻った事を思い出す。
俺は何処にあるか分からない聖剣を思い浮かべ手をかざす。

ジャガー「む？どういうつもりだ？」

俺は目を閉じて頭の中で念じる。来い！来い！！来い！！！と。
まぁ、そんなに都合良く来てくれたら苦労はしない。昔シリウスに"溺れる者は藁をも掴む"という話を聞いた。これで目を開けて風に飛ばされて来た藁を掴んでいたら笑い話だ。この状況で笑い話は要らないけど。今１番ありがたいのは俺の動きを警戒してジャガー達が仕掛けて来ない事だ。

ジャガー「あいつは何をしている？」

ワーグ「ただ止まってるだけでは？」

ジャガー「う～む。分からん。」

勘違いかも知れないけど手がなんとなく暖かくなって来た様な気がする。


所変わって魔王城。その地下牢において、ある奇跡が起きようとしていた。

牢番１「なぁ、俺達何してるんだ？」

牢番２「え？剣を見張ってる。」

牢番１「俺達魔族に取って大事な、言わば聖戦だろ？全魔族で戦わないといけない時に誰も来ないであろう地下牢で剣を見張ってるなんて変じゃないか？」

牢番２「アーサー様が地下牢に投獄しろと言って、ゴメス様が魔族の勝利に必要だと言っていた以上俺達がしっかり見張るしかないだろ？これは今回の聖戦に必要な任務だぞ。」

牢番１「そんな物かね？」

その時カチャリと鎖が動く音がした。

牢番１「うん？」

牢番２「どうした？」

牢番１「今、音したろ？」

牢番２「鎖が揺れた音だろ？さっきからたまに聞こえてる。」

牢番１「そうだけど・・・。」

城は揺れて無い。風も吹いて無い。それで鎖が揺れるか？そして事態が急変する。カチャカチャと音がしたと思うとその音が次第に大きく激しくなっていく。そして牢獄から眩い光が放たれる。

牢番１「ぎゃあ！」

牢番２「おい！」

牢番２は急いで牢番１を自分の後ろに隠す。

牢番２「大丈夫か！お前、闇属性か！何でこの仕事を受けた！」

牢番１「くじ引きで当たっちまったんだよぉ・・・。」

牢番２はそのくじ引きをした奴に対して怒りが込み上げていたが、今はそれ所じゃない異常事態だ。しばらくすると光が収まっていく。

牢番２「おい！お前はここにいろ！」

牢番１「言われなくても！」

そして中を覗く。

牢番２「！・・・無い！」

牢番１「え！・・・本当だ。聖剣って牢獄に繋ぐと蒸発するのか？」

牢番２「そんな訳あるか！」

牢番１「じゃあ何処行ったんだ？」

牢番２「それは・・・・分からん。」


そして戦場。

ジャガー「奴は何をしている。」

ワーグ「だから、何もせずに固まっているのでは？時間稼ぎ？とか。」

ジャガー「何！舐めた真似を！」

あ！とうとう駄目かな？参った。

ジャガー「茶番は終わりだ！覚悟しろ！」

だがその時、俺の想像以上の出来事が起きる。俺の手の中に眩い光が現れる。

ジン「ぬぉ！何じゃこりゃ～！」

情け無い台詞だけど俺は素直に感想を言った。

ジャガー「むぅ！」

ワーグ「ぎゃあ！」

ジャガー「ワーグ！」

ジャガーがワーグを庇う。その強烈な光で弱い魔物は消滅していく。魔族も消滅はしないがほとんどの奴が弱っていた。そして俺の手の中には剣があった。その瞬間俺は直感した。聖剣だ！俺の聖剣！ただ魔力を流すだけで光を放つ。そしてジャガーの方を向く。

ジン「よう！それじゃあ再開するか。」

ジャガー「くそ！これを狙っていたのか！」

ジン「駄目元でやったんだけど、正解だったな。お前に掛かってた強化魔法も解除されてるし。」

ジャガーは舌打ちした後、意を決して向かって来る。左、右と拳を突き出す。俺は左を躱し右の拳を弾くと直ぐに反撃に出る。その後はあっさりしていた。なんだかんだでジャガーも弱っていた様で反応が遅かった。俺はバツの字にジャガーを斬り付ける。

ジャガー「ぐぁ！」

ワーグ「ジャガー！しっかりしろ！くそ！後はアルバートに頼るしか・・。」

その時バキンと炸裂音がすると同時に"ぐはぁ"と声がした。

ワーグ「！・・・アル・・バート。」

ワーグは力が抜けた様に仲間の名前を言う。俺もワーグの見ている方を見る。シリウスがアルバートって奴を倒したらしい。将軍が２人やられて魔族達が騒ぎ出す。

ワーグ「撤退だ！退け！誰か手伝え！」

魔族達は敗走。ワーグは部下と一緒にジャガーを連れて逃げて行った。魔族との戦争の初日は人間の勝利に終わった。