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夜会

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アイリスにどうしても来てくれって頼まれたからとりあえず来たけど、何処ぞの貴族達に"何だこいつ"って感じで睨まれる。
はぁ~、俺も来たくて来た訳じゃないんだけど。中々広い部屋、いわゆるダンスホールだと思う。その部屋の中にいくつかテーブルがあり、真ん中で貴族達がダンスしてる。周りのテーブルには食べ物や飲み物が色々並べてある。食べ物を摘みながらホールを見渡す。
アイリスを見つけた。親父さんと一緒に挨拶回りしている。
別の所を見るとエレナとシャノンが貴族の坊ちゃん達に囲まれてる。何か話す度に追い払っている。今は助けなくて良さそうだ。
更に別の所を見るとジンがいた。貴族のお嬢様方と何か話してる。身振り手振りで何か説明してる感じだけどお嬢様方は引いてる様だ。あ!お嬢様方が逃げた。ジンが少し手を伸ばす形で固まってる。そして落ち込んだ。後でフォローしよう。
ザックはホールをウロウロしている。テーブルにはそれぞれ違う料理が乗ってる。全種類コンプリートする気みたいで、片っ端から食べている。貴族達に囲まれた状態でここまで気にせず食えるのはある意味尊敬に値すると思う。
次に見つけたのはトリッシュだ。エルフだし見た目は美人だから話し掛ける奴はいる。坊ちゃん達と何か話してるけど、坊ちゃん達が引き気味に離れ始めた。何人か逃げるがその内の1人がトリッシュに腕を掴まれた。話の内容は分からないけどかなり嫌がってるみたいだ。あ!キースだ。キースがトリッシュに話し掛けた途端、捕まってた坊ちゃんがトリッシュの手を振り解き逃げる。キースはトリッシュに何か文句を言われてるみたいだ。困ってるキースとたまたま目が合う。俺は飲み物を飲み干し、気分を変えるべく庭に逃げる。

俺「ふぅ~。パーティーなんて出た事ないから立ってるだけで疲れた。」

アイリス「私はそれに加えて挨拶回りしてたんだけど?」

アイリスも抜け出して来た様だ。

俺「そっちは小さい頃から出てるから慣れたもんだろ?」

アイリス「まぁ、それなりに出てるけど楽しかったのは最初の頃だけよ。今は全然違うんだから。」

俺「そうなの?」

アイリス「初めての時はドレスが綺麗とか、ダンスが上手く踊れたとか、皆んな褒めたりしてくれたけど今は公爵家に取り入ろうとする人とか私利私欲でしか寄って来ないしね。もう私のダンスの腕前に興味のある人はいないのよ。」

俺は漏れ出ているダンスホールの音楽を聴きながら、軽く目を閉じる。小学生の時に見た映画の主人公を思い出し、正確に頭の中でトレースする。恥ずかしいから普段は絶対にやらない行動をする。左腕を腰に、会釈程度のお辞儀をしながら右手を出す。

俺「それじゃあ一曲お付き合い願おうかな?お嬢さん?」

自分でも変な事言ってるなと思うけど、気にしたら駄目だ。今は全神経をダンスに向ける。

アイリス「フッ、踊れるの?」

アイリスは笑いながら言う。

俺「まぁ、ぶっつけ本番だけど大丈夫だろ。」

アイリス「えぇ~。足踏まないでよ?」

アイリスの手を取り2人で踊り始める。

アイリス「凄い!踊れてる!」

俺「そっちこそ。元現代人にしては上手く踊れてるじゃないか。」

アイリス「私は長い間練習したの!そっちはどういう事よ。地球で社交ダンスが趣味だった。とか?」

俺「違うよ。俺は昔観た映画を今一生懸命思い出してる所だよ。」

アイリス「え!昔観た映像を思い出してるだけ?例の"トレース"?その能力欲しい。」

俺「あのな俺の唯一の能力だぞ?それに魔法には反映されないし。」

アイリス「貴方の場合はでしょ?私、魔力あるもん。」

俺「くそ。羨ましい。」

アイリス「所で映画って?どんな話?」

俺「ん?冴えないサラリーマンがあるきっかけでダンス教室に通い出して、大会にまで出る事になったって感じの話だよ。」

アイリス「へぇ~、私も観られるなら久しぶりに観たいなDVD。」

俺「俺の場合はVHSだったけど。」

アイリス「ん?VHSって何?」

俺「は?知らない四角い箱にテープが入っててそれから映像を読み取ってテレビに映す。」

アイリス「え!そんなのどうやって読み取るの?」

俺「いや、ビデオデッキ。」

アイリス「知らない。」

ここに来て久しぶりのジェネレーションギャップだ。

エレナ「おい!2人で何抱き合ってるんだ!」

俺「え?踊ってるんだけど。」

ジン「踊れるのか?相変わらず凄いなシリウスは。」

シャノン「シリウスさんはたまに傭兵とは思えない行動をしますね。」

エレナ「私にも教えろ!」

俺「ん?おう。」

俺はエレナの身体を引き寄せる。

エレナ「な!か、顔が近いぞ!」

俺「この踊りはこれくらい近付くもんだぞ。」

エレナ「そうなのか?私には無理だ。」

俺「じゃあステップ・・・と言うか、足運びから始めるか。」

2人で手だけ繋ぎステップの練習する。

俺「そういえばあのゴブリン。何でジョーって名前だったんだ?」

ジン「ああ、フラットが付けたんだよ。名前が無いと不便だからって。」

ふ~ん。ん?

俺「なぁ、なんか仲良くなってないか?」

ジン「え?い、いや、あの後色々話したんだよ。聞いてくれよ。フラット凄いんだぜ。人型の魔物って結構、意思疎通が出来るみたいで物とか使いながらだと少し話が通じるんだってさ。それを1人で調べてんだ。」

アイリス「そ、そうなんだ。」

ジン「フラットは最終的には全ての魔物と意思疎通して戦わないで済む方法を探してるんだって。そうやって争う事無く解決する方法を見つけるのが夢なんだってさ。」

敵と夢まで語り合ったのか?友達が出来るのは良いけど敵兵と仲良くなるなよ。少し目を離すとこれだ。エレナとステップの練習をしている最中、アイリスがめちゃくちゃ睨んでる。ジンが敵と仲良くなったのは俺の所為じゃないだろう。今は気付かないふりをして練習に集中しよう。

ジン「なぁ、シリウス。俺達戦わないで解決する事出来ないかな?」

俺「まぁ、無理だな。魔王本人とその親友が戦争に前のめりだ。退く気は無いってよ。」

エレナ「じゃあ戦うしか無いな。私達は勝てるか?」

俺「勝つさ。」

ジン「何で言い切れるんだよ。」

俺「勝たないと俺の仕事が終わらない。」

アイリス「目が死んでるわよ。」

ジン「お前は一体誰に働かされてるんだ?」

俺「神様。」

エレナ「何?」

シャノン「ついにおかしくなったんですか?」

ジン「そう言うなよ。何て言われたんだ?」

俺は地球の話はせず、ジン達のフォローをしつつ魔王を倒す事を命令されたとざっくり伝えた。

ジン「なんか丸投げだな。」

エレナ「何て奴等だ。見つけてブッ飛ばしてやる。」

俺「怒ってくれるのは嬉しいけど、この『世界』にはいないからブッ飛ばすのは無理だぞ。」

シャノン「そういうのは気持ちですから気にしても仕方ないですよ。」

アイリス「それより皆んな信じたの?」

ジン「う~ん。確かに事実かは分からないけど、嘘とも言いきれないだろ?」

エレナ「嘘かどうかは分からない。けど、知らない間に私の家族がそんな事に巻き込まれていた事が気に入らない。」

シャノン「シリウスさんが変・・・じゃない。特殊な人なのは前からですから今の話が事実かは気にしてないです。」

皆んな色々な反応が返ってくる。というかシャノンだけ酷い事言ってないか?あいつ僧侶なのにちょこちょこ口が悪い。こんなキャラだっけ?

アイリス「さぁ、もうそろそろ終わりだから中に入りましょう。」

ホールに戻るとキースが向かって来る。あ!見捨てたの忘れてた。

キース「シリウスさん!さっき目が合ったでしょう!」

俺「うん?そうだっけ?」

キース「何で見捨てるんですか!あの状況、仲間なら助けるべきでしょう!」

俺「別に生きるか死ぬかの瀬戸際じゃあるまいし。」

キース「僕の心が死にますよ!」

トリッシュ「どういう意味?」

俺・キース「うわ!」

俺「何でも無いよ。」

キース「シリウスさんの以前行った悪行の話を・・・。」

俺「悪行って何だよ!」

ザック「全く、相変わらず賑やかだな。」

ザックは左手の皿の上に大量の料理を乗せ、右手に肉を持った状態で現れる。よくその格好でそんな事言えるな。

トリッシュ「あんた食ってただけでしょ!」

ザック「お前の色仕掛けは失敗だったがな。」

トリッシュ「キースが来なければ上手く行ってたわ。」

俺「いや、あれはどう見ても嫌がってたろ。」

キース「やっぱり見てたんじゃないですか!」

ヤベ!地雷踏んだ。

シャノン「いい加減にしたらどうですか?」

エレナ「そうだぞ。見てて哀れな気分になる。明日か、明後日には旅に出るんだ準備しておけ。」

俺「何処行くんだ?」

エレナ「何処って、お前が言っていたろ?ジンを連れて傭兵都市に行くって。」

傭兵都市ってのは俺が世話になった辺境都市"イージス"の別称みたいな物だ。案外、外だと傭兵都市の方が通りが良い。というか皆んなの事を忘れていた。俺とジンだけで行くつもりだった。
夜会が終わった後、俺達は公爵邸の離れに泊めてもらった。宿も取り忘れていたから丁度良かった。状況から明日が準備で明後日に出発かな?
とりあえず今日は終了だ。寝よ。
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