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熊殺し

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俺「酷い夢だったぁ~。」

アイリス「ま、まぁ、能力が詳しく分かって良かったんじゃない?」

俺「いや、微妙だね。今まで俺自身が身体張って調べた事だけしか分からなかったからな。」

アイリス「でも記憶に残ってる動きを再現出来るなら現在進行形の敵の動きも再現出来るって事でしょ?」

俺「いや、やった事ないしな。理論上はそうだろうけど。今の俺じゃ直ぐに実践は無理だな。」

アイリス「とにかく使える幅が増えたって事で良いんじゃない?」

正直これ以上考えても仕方ないだろうし、思い出しても腹が立つ。いい加減気持ちを切り替えたいから話題を変えるか。
王国がある大陸には聖剣が4本あり、それぞれ名前もあった。綺麗に忘れてたけど。
1本は最初に見つけた聖剣。と言っても今はマットが持ってるから俺としては手に入れた内に入らないけど。とにかくあの聖剣の名はブレイヴレギオン。名前の通り仲間を常にパワーアップしてくれる剣だ。マットの場合、人をこき使う為だけに使いそうで嫌だ。
アイリスが持つ2本目の聖剣がスノウクリエイト。名前から想像出来るかも知れないが氷を作り出す剣だ。でもスノウだと雪のはず。出てくるのは氷だ。個人的にこのズレは気になるけど、考えたら駄目かな?
残り2本の内の1本は、実は俺が世話になっていた辺境都市イージスの近くにある。位置的に魔王軍の本拠地に近付く事になるから少し避けたい。ゲームの物語だとシナリオの最後に手に入る聖剣で一番攻撃力の低い剣だ。何で最後に手に入るのが一番弱いのかあの時は分からなかったが、今考えるとこの流れが普通なのかも知れない。こっちは現実だ。ゲームの様に盛り上げる必要はない。たまたま戦争で敵の所に行ったら聖剣が近くにあっただけなんだろう。
因みにその一番弱い聖剣の名前はヒーリングゴスペル。癒やしの福音、つまりは回復専門の聖剣。属性は光属性だからジンとは相性だけなら最高だ。魔物は光属性がいない。要するに光属性が効かない魔物はいないという事だ。魔族が人間の仲間だとしたら効くかは分からない。人相手だとただの剣だからなあの聖剣。ゲームの時は持ってるだけで使わなかった。回復は仲間にやらせるから使う意味が見出せなかった。こんな事なら調べれば良かった。とにかくこいつは最後だ。
俺達が3本目に手に入れようとしてるのはワールドトゥルースって名前だ。平たく言って世界の真理って事だと思う。分かる人には分かるかも知れないけど能力は魔法特化だ。装備するだけで魔法剣士になれる。大気中の魔力を集め装備者に与え使用する魔力の消費量を75%カットだ。100ポイント使う魔法を25ポイントで使えるから能力的にはエレナに向いてる。だけど剣だ。エレナは使えない。そう思った時2本目の聖剣の事を思い出す。

俺「そういえば、皆んな聖剣抜こうとしてたよな?何でだ?」

トリッシュ「そう言われると確かに、私達が剣抜いても仕方なかったわね?」

シャノン「はい、皆さんがやっていたから儀式的な物かと思って私もしましたけど。もし私が抜いても意味が無いですよね?」

エレナ「何だ、知らないのか?伝承だから確かとは言えないが、何でも聖剣は持ち主によって姿形を変えるらしいぞ。」

俺「え!そうなの?知らなかった。」

地球だとジンしか装備出来なかった。当然形が変わるなんて話も無かった筈だ。そういえば俺の刀も俺の成長に合わせて長さが変わってたな。それと同じか?いや、違うか?
それはそれとして、その3本目の聖剣がある場所がアイリーンの故郷だ。王国を中心にして北東の位置にあり、最近行った遺跡の方が近いかも知れない。
遺跡の島から本土の港町に戻りそこから南に行けばなんとか辿り着くけど、確か地球のゲームでは村は跡地になっていて聖剣のある遺跡しか無かった筈だ。調べると今は予言者の一族が住んでいるという事になってる。実は聖剣集めでも魔王軍の接触があった。メインイベントだ。
ゲームでは人が住んで無かったからただ戦うだけのイベントだった。人の住む村に襲来となると話が違う。最終的にシナリオがどうなるかは行ってみないと分からないな。
村についてはアイリーンから聞いていた部分だけだ。占い師だか予言者だか知らないがこれ以上の悪化はやめて欲しい。

エレナ「ふぅ。」

トリッシュ「大丈夫?」

エレナ「ああ、これから母さんの故郷に向かうと聞くと何か緊張して来てな。」

シャノン「どういう所何ですか?」

エレナ「確か、森に囲まれた所で基本は森の恵みだけで暮らしてるんだ。際立って危険は無いけど刺激も無いから退屈を集めて煮込んだ様な所だって言ってたな。」

キース「例えが特殊過ぎてイマイチ要領を得ないですね。」

ザック「お前さん達のお袋さん中々変わった人みたいだな。」

俺「いや、ちゃんと常識はあったよ。」

トリッシュ「それで何で常識の欠けた人が2人も生まれるのよ。」

エレナ「シリウスよりは常識があるぞ。」

俺「は?」

シャノン「まぁ、確かに。」

俺「え!」

キース「僕としてはどっちもどっちですけど。」

トリッシュ「私もそう思う。」

ザック「こんな失礼な事言われても殴って来ない辺りまだマシなんじゃないか?」

俺「お前等、俺を何だと思ってるんだ?」

アイリス「日頃の行いの所為じゃない?」

ジン「うん。俺もそう思う。」

くそ!どいつもこいつも。俺の日頃の行いが悪いと言われると、思い当たる事があるから何も言えない。だけどそこまで言わなくても良いだろう。
因みに今は例の港町の酒場を貸し切って食事をしながら話をしていた。流石に船旅から直ぐに馬車だと疲れる。今日は休んで翌日、つまり明日、村に向かう。どのタイミングで魔王軍の襲撃があるかは分からないから慎重に行かないとな。
翌日、村に向かった。途中まで馬車で向かい、森の中からは当然ながら徒歩で移動する。
森の中をしばらく歩くと小さな柵と門があり、門番がこっちに気付くと門を開ける。調べたりしないのか?と思うが直ぐ目の前に婆さんがいる。アイリーンの母さんかな?ゲームではそもそも見た事が無いから顔を知らない。なんとなく面影があるかな?ってくらいだ。

婆さん「よく来たね。待ってたよ。」

アイリス「私達は王命により聖剣を探しに来ました。私は代表のアイリス・スワロウです。失礼ですが貴女は?」

婆さん「あたしはこの村で長をしている。カーラって者さ。」

似合わないな。

カーラ「あんた、今凄く失礼な事思ったね。」

俺「い、いや。」

アイリス「何やってんの!」

俺「まさか心を読まれるとは。」

カーラ「あたしにも若い頃はあったんだよ。」

俺「済みませんでした。」

カーラ「あんたが光の精霊に選ばれた子だね?」

ジン「ん?おう!」

カーラ「で、あんたがアイリーンの娘か。」

エレナ「そうだけど。母さんを知ってるのか?」

カーラ「あの子はあたしの娘さ。だからあんたはあたしの孫だよ。」

エレナ「え!お婆ちゃん!」

やっぱりこの婆さんか。婆さんは最後に俺の方に来る。

カーラ「予言に出た子だね?」

俺「まぁ、多分な。ただ1つは覚えがあるけど、もう1つは名乗った覚えが無い。」

カーラ「フッ、そうかい。来な。早速本題に入ろう。」

特にイベントも無く移動する。ゲームでも聖剣を手に入れた後に戦闘だから今の所予定通りかな?しばらく歩くと森の入り口に着く。

カーラ「さてこの先に聖剣がある。もう分かってると思うけど選ばれた奴しか聖剣は抜けないからね。」

婆さんに続いてアイリス、トリッシュとシャノンそれからエレナと入り口に向かう。俺も行こうとすると突然見えない壁が出てきた様で俺は顔面をぶつける。

俺「フガッ!」

エレナ「おい!」

アイリス「大丈夫!」

既にこっちから入る事もあっちから出る事も出来ない様だ。

カーラ「どうやらこの中に選ばれた人間がいるみたいだね。」

マジか。俺は鼻をさすりながら振り返る。ジンと目が合う。

俺「・・・。」

ジン「・・・。」

俺「え!何でいるの?」

ジン「は?今まで一緒に旅してたろ?」

俺「いや、そうじゃなくて。何で結界の外にいる?」

ジン「行く前に閉じちゃった。それに今回の剣は魔法特化だろ?俺よりエレナの方が良いんじゃないか?」

俺「言いたい事は分かるけど。え~~?」

アイリス「はぁ~。まぁ、良いわ。他の人はそこで待ってて。」

何で俺を見て溜め息が出る?俺、今回何もしてないよ。

カーラ「これも運命だね。」

エレナ「え?」

カーラ「行くよ。」

女性陣が聖域に行きその場に男だけ残される。

俺「俺はその辺ブラついて来る。今はする事無いし。」

ジン「俺もそうする。」

クロード「相変わらず適当ですね。私はお嬢様を待ちます。」

ザック「儂は面倒だからここにいる。」

キース「僕もそうしますよ。」

俺とジンは村の方へ戻る。村の人間は占い師以外は僧兵らしい。僧侶で兵隊とは頭が下がる。ジンは別の所を見ると言うから別行動する事にした。村を見て歩くとアイリーンに似ている人が立っている。

?「ふ~ん。あんたがアイリーンの拾った"使徒で剣聖"って奴ね。」

俺「使徒は認めるけど剣聖は知らん。」

?「自分から"使徒です。"って言う奴も中々変だけどね。」

俺「叔母さんには言われたく無い。」

?「誰が"オバサン"よ!私にはルイーゼって名前があるわ!」

俺「いや、血は繋がって無いけどアイリーンはお袋みたいな者だからその姉貴なら"叔母さん"だろ?」

ルイーゼ「何だ。そっちの"叔母さん"か。それより良く分かったわね?私があの子の姉って。」

俺「顔が似てる。後は流れ?」

ルイーゼ「何それ?まぁ、良いわ。試練が終わったら私の所に来て。貴方達に話があるから。」

何だ?試練が終わるまで待つしか無いから今は気にしなくて良いか。
村の入り口近くの森に入る。熊とか猛獣がいる可能性があるからそんなおいそれと入るべきでは無かったが、暇だったから仕方がない。それに童謡でもあるまいし森の熊さんになんか簡単には出くわさないだろう。

熊「がぁ~!」

俺「・・・・。」

出会ってしまった。ここの動物は魔物では無く普通の動物だ。ただの熊だが地球なら大騒ぎだ。そしてなんだかんだ言って俺も動揺している。別に冗談では無い。どうしたもんかな?
殴り飛ばすか?でもやるならカウンターで一撃が良いな。普通のカウンターだと上手く行かない気がする。右脚を前に踏み出し重心移動で全体重を乗せつつタイミングを合わせよう。熊は俺を襲うため後ろ足だけで立ち上がり前足を広げて一歩づつ近付いて来る。"うわぁ~このポーズ、テレビでよく見た!"とか思うけど今はそれ所じゃない。俺はタイミングと自分のモーション確認しながら熊が来るのを待つ。熊も自分の間合いに俺が入った様で上半身を下ろす。そのまま行けば爪が俺に当たる位置だ。
俺は身体全体の[気]の流れとタイミングを合わせ右脚を前に出すと同時に右ストレートを出す。[気]を纏わせた拳は見事、熊の心臓辺りに当たる。そこまで狙っていないが、急所に当たると同時に熊が吹き飛び轟音と共に後ろの木に激突する。俺は言ってみたくなったので地球で良く聞く台詞のオマージュだがつい言ってしまった。

俺「フッ、またつまらない者を殴ってしまった。」

別に格好付けて言った訳じゃない。後から"なんちゃって"っと付け加える様な軽い気持ちで言ったんだ。
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