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第一師団長

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この『世界』に来て12年。そろそろ物語が始まる頃だ。地球でやったゲームの始まりはもう少し後だけど、イベントの開始自体は今年からだろう。とにかく何か大きな動きがあればノルン達から連絡がある筈だ。
ゲームの物語ではジンが15歳になり学園の高等部の所から始まる。鍛練や勉強等しばらく学園生活をしているが、戦争が本格化し学生にも関わらず戦争に放り込まれる事になる。
エレナは12歳の時つまり今年だが町が襲われ自分1人が生き残り、近くの都市で冒険者になって仲間と共に生きて行くが、戦争の規模が拡大し最終的に戦いに駆り出される事となる。流れとしてはこんな始まりだ。
先に起きるのは時系列的に故郷で起きる襲撃事件だ。それから約3年後のメインイベントの1つで学園の課外授業だ。故郷の襲撃時はジンがいなかったし、ゲームの主人公はジンだからあいつの経験してない所のイベントは会話のシーンで聞いただけという状況だ。今の所はエレナに関するイベントについては詳しく分からない。
課外授業に関しては魔族軍第一師団長とやらに直接襲撃される。どの状況を考えても頭を抱えてしまう。しかも今現在それに匹敵する程、俺を悩ませる問題が起きていた。

ティム「よう、"剣聖魔人"。おはようさん。」

ジーク「"剣聖魔人"よ。今日は随分とゆっくりだな?」

いつの間にか俺に変なあだ名が付いていた。仲間なら大体誰がどんな性格かはお互い理解しているし、あだ名と本人がどこまで違うかちゃんと分かってる筈だ。誤解として話を訂正する必要も無いだろう。
だけど外の人間は違う。基本的に俺の事を知らない奴が聞けば、俺に対する印象はあのあだ名がメインになる。あだ名自体を知らなければ俺がそう呼ばれる事も無いのに、こいつ等があえて広めるし研修で来た坊ちゃん達もそれを聞き、俺を剣聖魔人であると要らん認識をして帰る。その所為で今は他の都市でも定着し始めた。
もう面倒だから諦める事にしたけど本当に世の中は理不尽だ。どう行動しようとも見た目だけで酷い判断をされる事もあるし、話だけ勝手に進みこちらの言い分を聞いてくれない事は普通にある話だ。
今回の事はそれに近い。何も俺が調子に乗ってそんなあだ名を名乗った訳じゃない。そもそも自分で自分のあだ名考える様な奴がいるか?・・・・勝手にあだ名を付けられるよりは自分で考えた方がマシかな?
いや、どうだろう?

ゲイツ「そんなに嫌か?"剣聖魔人"悪か無いだろう?」

俺「何かこれで俺が納得したらかなり変な奴みたいじゃないか。今更だけど。」

ゲイツ「お前は贅沢だと思うぜ。俺なんか"戦場の料理人"だぞ。戦場で飯なんぞ作るかっての!」

俺「あだ名に良い思い出が無いのは分かったが、俺を巻き込むのは違くないか?」

ゲイツ「あのな、こういうのは強い奴なら必要なんだよ。箔が付くし、上手く行けば絡む奴もいなくなる。状況によっては信用に繋がる事もある。まぁ、要するに看板みたいな物だな。」

そんな話をしていると俺のスマホが動く。マナーモードだから音は無いが、誰かに気付かれると面倒だ。とりあえずこっそりその場を抜ける。

ウルド「やられたわ!奴等、隠蔽の魔法で姿を消してそこを抜けたわ!」

俺「はぁ?・・何の話?」

ウルド「3日位前!魔族がそこを抜けてあんたの故郷に行ったの!何かの移動手段があるのか明日か明後日には町に付くわよ!」

俺は急いでゲイツの所に戻る。

俺「おい!俺、今日でここ辞める。今まで世話になった。色々と迷惑かけてすまん。じゃあ。」

ゲイツ「お、おい!」

ティム「え?何で?」

ジーク「何処に行く?」

俺「家に帰る。」

そう答えると振り向かずに走り出す。元々大したものは持ってなかった。ハッキリ言って俺の持ち物で重要なのは刀とスマホだけだ。とにかく急がないと何しろ馬車で5日位かけて移動する道のりを2日半程で踏破するんだ休んですらいられない。
行動開始からしばらくして気付く、ノルン達が特別に作った身体なだけはある。今の所、全開で走っているが疲れた感じが無い。
"追い付く"ただその一心で駆け抜けるが、やはり現実は上手くいかない。少なくとも今の俺の気合いと根性では一足遅かった。
広場の井戸やジンの実家、教会まで粉々だった。ショックで倒れそうだが、目を閉じ呼吸を整え意識を集中する。森の入り口に懐かしい気配がある。まだ生きていると分かるが、それと同時に感じる複数の気配。
断言できる。敵だ!
一瞬で頭の中が、殺意で一色になる。
殺意は厄介だ。個人的な意見だが怒りや憎しみとは少し方向性と言うべきか違いがあると思う。怒りや憎しみは本人の冷静さを奪い衝動にかられそうにもなるが、まだ行動に移るべきか判断する手前で落ち着く位の余裕はあると思う。
殺意の場合はそれ一色になると止まれない。ここで殺さなければ自分が危ない。そんな風に感じればもう自分自身を止める理由が無くなると思う。もちろんこれからの事を考える冷静さもあるが、それでも思う。ここで終わらせなければと。
俺の心の内にある獰猛な何かが敵を認識する。更に今は緊急事態だ遠慮する理由が無い。何処をどう斬ったかも分からないが、敵を1人輪切りにする。

魔族「な!て、敵!」

叫ぼうとした魔族の喉笛を掻っ斬り、膝をついた所で心臓に一突き、死体の身体を足で押して刀を抜く。その後は片っ端から斬り付ける。袈裟懸けに一太刀、首を落とす奴や胴から真っ二つに切断した奴もいる。次の魔族を頭から唐竹割りの要領で斬る。

魔族「な!貴様何者だ!」

最後に話しかけて来た魔族も会話らしい会話もせずに一太刀で斬り伏せる。

俺「すまん、遅くなった。」

アイリーン「そうでも無いよ。ある意味では丁度良い頃合いだよ。」

アイリーンは出血して膝を付いてる。出血量からすると助からないかも知れない。少し冷静さを取り戻し、ここに来た目的を思い出す。エレナだ。エレナはすぐ横にいた。少し汚れてるが怪我は無さそうだ。顔は泣いていたのか涙でぐちゃぐちゃだが。

エレナ「ジリウズ~、ごわがっだよ~!」

いきなり抱きつかれた。空いてる左手で軽く背中叩く。安心して他の生き残った人を見回す。

俺「みんな無事か?他に怪我人は?」

マリア「大丈夫。ただ無事だったのは私達だけで。」

俺「それでも良かった。マリアさん。もう少し皆んなを見ててくれ。」

エレナ「え?どっか行くのか?」

アイリーン「まだ終わってないのさ。」

俺「すまん。俺じゃあ手当は。」

アイリーン「分かってる。後は、任せる。」

俺「ああ!」

?「随分手酷くやられたな。お前がやったのか?」

俺「そうだ。人ん家勝手に荒らしたんだ。正当防衛なら文句は言えないだろ?」

?「フッ、面白い事を言う。確かに襲撃したのは俺達だ。しかしこっちも中々の被害を受けた。人1人殺す為だけに一個中隊と3魔将の1人を駆り出したからな。」

そいつの顎が向いた先にある死体を見る。最後に倒した魔族は、例の3魔将って奴等か1撃で仕留めたがほぼ奇襲だったからな、今の所強いのか弱いのか分からない。

?「そう言えば名乗っていなかったな。」

俺「魔族軍第一師団、団長ドワイト・ヴォルフ」

ドワイト「ほう、俺を知っているのか?何処で仕入れた情報だ?」

俺「あんたに言う必要はないね。」

魔族軍は第三師団まであるがそれぞれの特徴で分かれている。基本第一師団は戦闘専門の部隊で今戦争で出ている魔族の所属は皆んな第一師団だ。第二師団はざっくり言って魔法使いの部隊だ。第三師団は戦闘支援などが主な活動だが、他にも魔物を使役して前線で戦わせるなどしていた筈。
実はもう一つ部隊がある。諜報機関の部隊で特殊工作などもしてるらしい。今は関係ないけど。目の前にいる第一師団の団長は特殊能力がある。魔族の中の特殊能力を持つ者、そういった種類の魔族に該当するのがこの団長様だ。ゲームでその力を使うのは最後の戦闘で一度使うだけだ。あまり簡単には使えない様だし、ここでは使わないとは思う。こっちとしては使われたらキツいけど。

ドワイト「そろそろ仕事を片付けるか。魔導師を渡せば見逃しても良いぞ。」

俺「そんな奴が町の人を皆殺しにしようとするか?」

ドワイト「フッ、確かにな。楽な方が良いと思っただけだ。それに誰も逃がす訳にはいかないからな。」

"逃がす訳にはいかない"その言葉が少し気になる。

俺「どういう意味だ?」

ドワイト「答えてやっても良いがお前達にそんな余裕があるのか?」

確かにこれ以上ここにいて敵の援軍が来れば折角生き残った人達が危ない。俺は意識をドワイトに向ける。地球でゲームしていた時は気にしていなかったが奴は左手にデカいタワーシールドを持ち、右手には戦斧を持っている。奴の体長は大体2メートル位で、俺は地球の時と身体の作りが若干違うけど12歳でもそこそこの体格にはなっている。それでもデカく感じる。雰囲気かそれとも貫禄か、多分体格だけでデカいと感じてる訳じゃないんだろうな。溜め息が出そうだが、ボヤいていられない。
奴に向かって走り出すと視界が盾で塞がれる。俺は急いでブレーキをかける。盾の所為で奴の姿が見えない。すると盾の上から奴の斧が振り下ろされる。急いで後ろに飛び退いて躱すと斧は地面に直撃し、大地を抉り砂埃を撒き散らす。俺は衝撃でそのまま地面を転がる。俺は距離を空けて体勢を立て直し睨む。

ドワイト「思っていた以上に逃げ足が早いじゃないか。お前は何者だ?」

俺「しがない傭兵だよ。」

ドワイト「傭兵・・・か。まぁ、良い。どうせここで死んでもらう。」

俺「多分そう思ってるのあんただけだと思うぞ。」

とは言ってもどうするか?正面から行っても盾がある。盾が無い所を攻めに行っても斧が来る。どう考えてもパワーじゃ勝てない。ただ奴のトップスピードは多分ここまでだ。となると後は俺が奴より速度を上げるしか無いだろう。それで上手くいくかは運次第だ。
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