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魔族

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俺が辺境都市で生活を始めて1年程が経つ。都市の一角に冒険者ギルドの支部が立ち、スタッフも来ているが今は閑古鳥が鳴いている状態だ。
まぁ、傭兵しかいない街には中々来れないだろう。まだまだ援軍は来ないなきっと。そんな事を考えつつ目の前に迫る戦斧を左へ避ける。
そのままミノタウロスの右手首を切断、激痛から怯んだタイミングで今度は右膝の辺りを斬る。体勢が崩れ頭が下がった所で首を切断する。
ミノタウロスの巻き添えを嫌い細かい魔物は近くにいなかったが、ミノタウロスが倒された途端俺の所に向かって来る。魔物達は仲間が倒されたくらいで引き下がれないらしい。怖くても俺と戦う選択をした様で鬼気迫る感じで向かって来る。お互い下っ端は大変だなとか思うけど、同情してもいられない。戦いにも大分慣れたモノで相手が雑魚なら受け流さずに一太刀で片付けられる様になった。

俺「ふう。これでひと段落かな?」

ティム「あいつここ最近、更に強くなってないか?」

ダン「確かに、俺は楽が出来るけど若干稼ぎが減ったな。」

ティム「じゃあ稼いで来いよ!」

ダン「いや、流石にミノタウロスを単独で撃破は出来ませんよ。」

ジーク「確かに俺もサシで戦うなら辛うじてオークだな。」

ティム「まぁ、あいつは異常だよな。」

ゲイツ「剣聖魔人ってどうだ?」

ティム「は?何が?」

ゲイツ「あいつのあだ名だよ。剣聖の様な強さに魔人の如き容赦の無さ。な?」

一同「ああ、確かに。」

俺「どうした?何かあったのか?」

ゲイツ団長が笑いながら

ゲイツ「いや、何でもねぇ。とりあえず今日はこれでお開きだな。テメェら帰るぞ。」

傭兵として過ごして少しは馴染んで来たと思う。
最近の俺の生活としては戦場に出て魔物を狩り、魔物の死体を運び。それに素材の解体と回収までしている。それが今の俺がしている仕事だ。
謁見した日以降王都からの連絡も無い。団長はギルドの職員に"施設の周りが汚い"、"冒険者が来ない"と文句を言われているらしいが、こっちとしても人手不足で色々困っている。
そんなある日、王都から人が来た。何でも何処かの街にいる貴族が王命で視察に来たらしい。事実かどうか分からないが貴族という事で多少はもてなさないといけない。

ゲイツ「見たなら帰れよ。」

貴族「相変わらず不遜だな。ここに来たのは王命だが例の謁見の時の話とは別の事だ。」

ゲイツ「はぁ?じゃあ何しに来たんだよ?」

貴族「実は今、他の辺境都市も魔王軍に攻撃されている。」

ゲイツ「魔王の話はあの時したろ。準備してなかったのか?」

貴族「各都市の準備状況など私が知っている訳無かろう。私が今回ここに来たのは他の都市の状況を伝えに来た。ハッキリ言わせてもらうが別の都市はここ程の余裕が無い。」

ゲイツ「こっちもねぇよ!」

貴族「この都市では怪我人はいても、死人はいない筈だ。他は死者が多くてな。まだ余裕があるこの都市に送るより他を優先させる事になったのだ。」

ゲイツ「マジかよ!期待はして無かったがまさかそう来るとは。」

貴族「因みに、これから騎士団入りする若い士官達に戦場を体験させたい。ここは安全に体験出来そうだから近い内に見習いも含めてこちらに送るからな。」

ゲイツ「おい!ふざけんなよ!ただでさえ大変だってのにガキのお守りまで出来るか!」

貴族「そう言うな。見習い達が育てばちゃんと戦力になる。それにこの件は私が国王より一任されている。私から見て大丈夫と判断できるなら直ぐに開始して良いと許可も得ている。」

ゲイツ「俺の許可は?」

貴族「要らん。」

結局この都市が若い士官達の実地訓練場になる事が勝手に決まったらしい。こちらの意見は何一つ通らない話合いだった。なんだかんだで約1ヵ月程経ち本当に若い坊ちゃん達が来た。
遠足や旅行に来たみたいな感じで楽しそうにしてる。腹の中でこいつら何しに来たんだ?と思っていると代表らしき人物が近づいて来た。聞けば教官らしい。

教官「急な事ですまんな。なるだけ邪魔にならない様に見学させておく。」

ゲイツ「貴族の中にも多少礼儀のある奴がいたか。」

ティム「礼儀で言うならあんたもなってないだろ。」

教官「いや失礼、私も元は平民でたまたま貴族になれただけなんだ。これがどれ程迷惑かは分かっているつもりさ。」

教官殿は意外に常識のある良い人の様だ。坊ちゃん達はどうか分からないが。

ゲイツ「成程、あんたも大変だな。」

何処ぞの坊ちゃんが近づいて来る。

坊ちゃん1「おい!傭兵!戦いはいつ始まる。」

坊ちゃん2「そうだ!俺達は遊びに来た訳じゃない!将来の為に来たんだ!早く始めろ!」

何とも戦いを始めろと言われても俺達の問題では無いしな。まぁ、時間的にはそろそろだけど。
そんな時、いつもの鐘がなる。あ、仕事だ。聞いただけで仕事だと考える様になるのはあまり嬉しくは無いが、こればかりは仕方がない。

坊ちゃん1「おい!そこの小僧!武器を持て!」

俺「え、ヤダよ。俺も行かなきゃならないから。」

坊ちゃん2「貴様無礼だぞ!」

俺「さっさと戻って準備しろよ。遊び気分だと怪我するぞ。」

さて、例によって綺麗に整列する魔王軍。それに対抗する様に並ぶ傭兵達と端に固まっている坊ちゃん達。

坊ちゃん1「う、腕が鳴るな。」

坊ちゃん2「フッ、震えているぞ。大丈夫か?」

坊ちゃん1「貴様は武器も持ってないでは無いか得意の槍はどうした?」

坊ちゃん2「は?・・あれ!俺の槍は?」

何とも微笑ましい。初めての仕事で緊張してんだな。こっちはこれ以上気にしてはいられないだろうけど。

教官「皆、前に出るな。今回は見ているだけだ。ここにいろ。」

ゲイツが坊ちゃん達を軽く一瞥して溜め息を吐く。

ゲイツ「さぁ!野郎共!仕事の時間だ!気合い入れろ!」

魔物の角笛が響く。またいつものように皆一斉に走り出す。この刀を手に入れてからは手入れの必要が無くなった。武器の事を気にせず敵を叩っ斬れる様になったお陰で戦いが大分楽になった。初陣の時の窮地が嘘の様だ。
自分の初陣を思い出したら今度は坊ちゃん達の初陣が気になる。どうなってるか見ると震えている者、血の臭いで吐いている者、気絶している者もいる。大変だな。と考えると不意に敵軍の中に気になる奴を見つけた。

?「貴様達の中にブラッドエッジを斬った者がいるはずだ。名乗り出ろ。」

俺「ああ、とうとうお出ましか。」

話かけて来たのは魔王軍本来の構成員である本物の魔族だ。でもゲームの中では見た事の無い男だな。パッと見は普通の人と同じだが肌の色が違う。ゲームに出ていた魔族は種類によって角が生えていたり、見た目は普通の人と同じだが特殊能力を持っている者もいる。能力に関しては見ただけだと分からないから面倒だ。
まぁ、今の問題はそこじゃない。今現在魔族に話かけられてるのは俺や傭兵団の誰かでは無いからだ。

坊ちゃん1「な、何だ貴様は!」

坊ちゃん2「わ、我々と戦いたいのか?良いだろう。だが生憎と、今は武器を持っていない。勝負なら他を当たれ。」

坊ちゃん3「何だと!汚いぞ!普段あれだけ実戦がどうのと言っていたであろう!ここは貴殿が戦うべきだ!」

坊ちゃん達のなすりつけ合いが始まった。魔族がいつの間にか俺達の後方へ移動していて流石に驚かされた。しかし仮にも未来の士官候補だ。もう少し気概のある所を見せて欲しい。

教官「よせ!彼らは今回が初めての戦い。前回、ここにはいなかった。」

魔族「本当か?事実を確かめたい。かかって来い。」

覚悟を決めた顔をして教官が剣を振る。魔族は難なく躱し、ロングソードで教官に斬り付ける。大した怪我をしていないのを見ると遊ばれている様だ。教官も理解している様で苦い顔をしている。不意に蹴りが教官の腹に当たると壁に叩き付けられ気絶した。

坊ちゃん1「教官がやられた。」

坊ちゃん2「来るな!こっちに来るな!」

皆んな大騒ぎだ。その様子が楽しいのか魔族は笑いながら坊ちゃん達の服を斬り裂く。中には泣いてる奴や何もされてないのに気絶してる奴までいる。大変そうだな。良くない事かも知れないが坊ちゃん達の反応を見ていると、意地の悪い行動をしている魔族の気持ちが少し理解出来る。

ゲイツ「おい、小僧。チョット行って倒して来い。」

俺「え!俺が?というかあいつ今遊ぶのに夢中だからしばらく大丈夫じゃね?まだ服切られてる程度だし。」

ゲイツ「んなもん。直ぐに飽きるだろ。そうなったら全員殺されちまう。それは流石に不味いだろう?それとあいつのご指名はお前だぞ。」

俺「指名って、名指しされた訳じゃないけど?」

そんな問答を繰り返した後、最後は顎で"行け!"とジェスチャーしてくる。俺は溜め息を吐き、坊ちゃん達の所に向かう。

俺「よう!それくらいで勘弁してやってくれよ。その中にはお前の探している奴はいないしさ。」

魔族「ならば今直ぐそいつを連れて来い!連れて来なければこいつらを1人づつ殺す。」

奴がそう言って坊ちゃん達に目を向けた瞬間、一気に距離を詰める。

魔族「な!」

魔族の腹に蹴りを入れ坊ちゃん達から引き離す。

坊ちゃん1「おお!誰だか知らないが良いぞ!そのまま倒せ!」

坊ちゃん2「父上に頼んで使用人として召し抱えてやっても良いぞ!」

五月蝿いな。助けるのもう少し後でも良かったんじゃないか?全く本当に面倒臭い。さてこの世界に来て初の魔族戦か、どうなる事やら。
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