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辺境伯

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貴族がいざという時役に立たないのはよくある話で、今更騒いでも仕方ない。混乱している街の住民達を守りつつ魔物を狩る。とにかく目に付く魔物を片っ端から片付け、内と外一通り片付いた後に被害を確認する為走り回った。そこである事実を知った。今回の騒動で俺が世話になっていた団長が殺された。
あの乱戦状態の中だ。誰が何処にいたか分からなくなっても不思議じゃない。感傷に浸りたいが相手は生物だこっちの事を考えたりはしない。他の傭兵団でも団長が死んだり、怪我で引退する事になり解散という傭兵団もあった。解散しても他の団員はまだ働ける。俺はどうせだからとバラバラの傭兵達を纏めて別の傭兵団を作った。
作ったなんて偉そうに言ってるが、そんな立派なもんじゃない。暇さえあれば喧嘩ばかりで、上下関係というのは無いが平等だからこそ分け前の事で直ぐに揉める。関係としてはダチみたいで悪くは無かった。
しばらく一緒にやっているといつの間にか俺が団長って事になっていた。
自分で言うのもなんだが俺達の傭兵団は中々活躍していた。その評判は王都のお偉方の耳に届く程だった。その評判のお陰か俺達の傭兵団に入りたいって奴も増えていった。それから更に規模はデカくなり、今度は辺境都市一帯の傭兵達も俺達の傭兵団に入り出した。
気が付くと辺境都市にいる全ての傭兵が俺の部下になっていた。まるで手品でも見てる気分だった。
そんなある日、俺は王様から呼び出された。嫌な予感しかしない。王様と知り合いになった覚えはないし、傭兵の俺を名指しで呼び出す何てありえないだろ?行きたくない。とは言え王様の勅命ってヤツだ。行かなきゃ実際に俺の首が飛ぶだろう。
王都に行こうと思った時ある事に気が付く。ウチの傭兵団には副団長がいない。俺がいない間に傭兵達を纒める事ができそうな奴を探さなければならないが、あまりいい奴がいない。
最初に目に入ったのは槍使いのダンだ。仲間思いで気遣いが出来るがあまり度胸がない所がある。命の危機がある以上引き際は大切だがあいつに任せるのは無理かなぁ。他の人間を探そう。
大剣を使っているジークを見つけた。性格は勇猛果敢で、魔物のデカさに関係なく戦いに向かう姿勢は良い。だがあまり人と話さないのが奴の駄目な所だ。寡黙といえば聞こえは良いが考えが分かりにくいのはよく無い。長年一緒にいる家族や仲間なら分かるが、知り合い程度の関係だとそこまで伝わらないだろうしなぁ。
本当にマトモなのが見つからない。外に出ると最近ウチに入りたいと来たガキ共に稽古を付けている奴がいる。俺が初陣で逃げていた時に少し離れた所を同じく逃げていた奴で名前はティムだ。
この前の"氾濫"の時にティムのいた傭兵団は団長が怪我をして引退し解散した。行く先が無いと言うので俺がそのままウチに引き入れた。
そうだアイツにしよう良く周りを見てるし、初めて会う奴とも協力出来る。誰から習ったかは知らないが計算や読み書きも出来る。
俺は印象が良くなる様に笑顔を作りティムに近付き振り返ったティムの肩に手を置いた。

ゲイツ「お前に決めた。」

ティム「ん?何が?」

ゲイツ「だから、お前に決めた。」

ティム「いや、話が見えん。それにどうしたその荷物。」

ゲイツ「最近俺宛てに手紙来たろ?何か王都に来いって内容でこれから行く所でよ。ただしばらくここを開ける事になるだろう?だからその間管理してくれる奴が必要だと思った訳よ。」

ティム「それを俺にって?」

ゲイツ「おう」

ティム「いない間だけだな。」

ゲイツ「ありがとう。とりあえずこっちの事は任せるぞ!副団長!」

ティム「え?」

目を丸くして固まっているティムを置いてそそくさと王都に向かう。しばらくして何か叫び声がした気がするが多分気のせいだ。辺境都市から3日程かけて王都に向かった。
王城に辿り着き傭兵という事で早速門番に睨まれるが、王様の印鑑の付いた手紙を見せると直ぐ頭を下げ出す。ちょっと優越感に浸りつつ中を通る。
あまり待たずに謁見になったが、俺の人生で王様に会うなんて事は先ず無い。だから礼儀作法については全く知らないし、平伏しろと言われてもやり方が分からない。周りの連中がすごい睨んでくるが王様が言う。

王様「良い。元より平民に礼儀など期待していない。」

酷ぇ言われよう。まぁ、礼儀に関しては事実だし改善する気も無いが、それより本題は何だ?

王様「おヌシを呼んだのは他でも無い。辺境都市の領主の件じゃ」

領主?貴族がなるもんだろう?傭兵の俺に何の関係がある?そう思った時、とうとう俺の嫌な予感が的中した。

王様「条件付きだが、おヌシに領主をしてもらう事にした。励んでくれ。」

ゲイツ「はぁ?イカれてんのか?」

貴族1「無礼だぞ!謝罪しろ!」

貴族2「この様な輩を貴族にするなど反対です!考え直すべきです。」

貴族3「いざとなれば我が身可愛さに逃げ出すでしょう。やはり血筋がハッキリしている貴族が適任です。」

何か紛糾してる。流石に言い方が悪かったか。だけどあの発言を聞いたら誰だって同じ事を感じる筈だ。この王様は何考えてんだ?って。

王様「言ったはずだ条件付きだと。おヌシとおヌシの傭兵団は辺境都市から出てはならぬ。月々一定額の税金を納めよ。その代わり特別におヌシを辺境伯に任命する。よろしく頼むぞ。」

何か勝手に俺が受けた流れになってるな。

貴族1「気に食わぬが王命だ。ありがたく拝命せよ。」

ん?別にありがたくはねぇよな?俺にとっての利益が全く無いぞ?

貴族2「早く返事をせぬか。陛下を待たせるで無い。」

ゲイツ「断る。」

王様「はぁ?」

王様が変な声を出し周りの貴族達は間抜け面を晒してる。思わず笑いそうになったが、俺が笑う前に貴族が騒ぐ。

貴族1「貴様無礼にも程がある!平民がいきなり辺境伯だぞ!大変名誉な事だ何が不満なのだ!」

ゲイツ「名誉ならお前がやれよ!大体俺に何の得がある!辺境から出られないうえに税金納めろ?こっちがどれだけ苦労してあそこで生きてるか分かって言ってるのか?どうせ貴族なんぞに俺達の苦労は分からないだろうがな。」

王様「くぅ、言いたい放題言いよって!」

ゲイツ「そっちの方が好き勝手言ってるだろうが!良く言えたな!」

王様「チッ、しかしこちらとしても貴様にこの話受けて貰わねばならん。辺境都市からの税金の件は変えられんし、辺境都市から出る事も容認出来ない。そうだ!あそこで起きた出来事に関して全て貴様に一任すると言うのは?」

ゲイツ「辺境都市の中で起きた事件や事故と商売なんかも俺が仕切って良いって事か?」

そう考えると悪くない。責任を全部おっ被せられるのは嬉しくないが、下手な貴族が来て揉めるよりはマシかもな。

ゲイツ「良いぜ。俺があの街から出ないってのと税金を納める。それで俺は貴族になってあの街の一切を取り仕切れるって事だな。」

王様「うむ。認めよう。」

貴族1「何と寛大な!」

貴族2「感謝するんだぞ平民!」

寛大なのはむしろ俺の方だろ!と思ったがここでまた拗ねられると面倒だから黙る事にした。
ここに来る前に副団長を押し付けた・・・もとい頼んだティムに一応団長として出来た方がいいと言われ、最低限の読み書きを教わっていたがここで役に立つとは思わなかった。契約書とやらを貰い、書いてある事に間違いがないか確認し俺は契約した後王都を出た。しかしティムの奴なんだって読み書き出来るのに傭兵なんてやってんだ?今度聞けたら聞いてみるか。

ティム「あんたが辺境伯?夢でも見てんのか?それか変な物でも食べたのか?」

ゲイツ「お前、俺を何だと思ってんだ。そんな変人に見えるのかよ?」

ティム「あんたならありそうだと。」

ゲイツ「はぁ~。これが契約書だとさ。」

ティム「本当に書いてあるな。でもこれだとあんた一生この都市から出られなくなるぞ。」

ゲイツ「良いんだよ。これで下手な貴族でも来てみろ。またあれこれ理由を付けて金だの何だの取られて、挙げ句の果てに魔物騒ぎに乗じて逃げ出すに決まってる。そんな面倒になるくらいならいっそ俺がやった方が良いだろ?」

ティム「あんたがそれで良いならこれ以上は言わないけど。これから色々大変だぞ。」

ゲイツ「その為の協力をお前等に頼んでるんだよ。」

ティム「事後報告じゃないか。」

ダン「良いじゃないですか副団長。我々としては悪い事ではないでしょうし。」

ジーク「俺としては面倒でなければそれで良い。全て団長と副団長に任せよう。」

いつの間にかティム=副団長で受け入れられていた。他の連中もティムが適任と理解しているという事か、我ながら良い判断だった。しかしジークよ。お前は何で上から目線で"任せよう"なんて言えるんだ?ただの丸投げじゃないか。
色々あったが、とにかく俺がこの辺境都市の領主になる事になった。そういやこの都市の名前がねぇな。元々はあったんだろうが領主不在になってよく分からんうちに事態が変わっちまった。確か物語でイージスって盾があったな?王都を守るなんて柄じゃないが、"誰かを守れる盾になる"悪くない発想だと思う。

ゲイツ「おい、今日からこの都市は"イージス"だ辺境都市"イージス"良いな。」

ティム「はぁ?何の話?これからどうする?って話してなかったか?」

ダン「良いんじゃないですか?この都市の名前知らないし、適当に付けても。」

ジーク「それよりどうするかって俺達のやる事は今までと同じく都市の防衛だろ?」

ティム「領主になったんだから運営とかあるだろう?税金も払わないといけない。やる事山程あるじゃないか。」

ジーク「なら俺には無理だ。他を当たってくれ。」

ダン「早いな、もう諦めるのか?まぁ、俺も分からないけど。」

ゲイツ「ティム、お前計算出来たろ。役に立ちそうな奴集めて何とかしてくれ。」

ティム「マジか?酷ぇ話だ。泣けてくる。」

その後多少の弊害はあれど人材の確保等色々して領地運営を開始した。
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