短編集

衝動

1

　嫌いな奴がいるわけじゃない。

　人間は好きな方だ。ともだちもいる。

　ただ、時々無性に人の腹をかっ捌きたくなる。

　手に、その感触がないことに違和感を覚える。

　それでも今まで耐えてきたんだ。

　爪で自分の腕を引っ掻いてみたり、料理で鶏肉を捌いてみたり。

　でもある日、ほんとに唐突に、それじゃ足りなくなった。

　麻薬の禁断症状みたいな感じ？

　でも、自分に人を刺すなんて出来ないと思った。

　警察に捕まるし。

　だから、考えた。

　そうだ、自分の腕を切ればいい。


　キッチンの包丁で自分の腕を切ってみた。

　肘から手首に向けてスーッって。

　めちゃくちゃ激痛だったよ。

　動脈は切れなかったみたいで、血は染み出てきてた。

　でも結構深かったみたい、切り口に軽く指が挟まるレベル？

　中の肉もバッチリ見えてる。

　こうやって冷静に考えてるのは血が止まり始めてからだ。

　切ってすぐは、快感しか感じなかった。

　わかるかな？

　あの組織が切れている感覚。

　繋がっていたものが割かれて行く時の感覚。

　ゾクゾクしてフリーズしてしまった。

　でも少しして、失敗した、って思った。

　この感覚を知ってしまったら、もうやめられない。

　次の日の深夜、逆の腕。

　2日後の早朝、初日の腕の肩から肘。

　3日後の深夜、逆の腕の肩から肘。

　4日後の昼、足の太もも。

　5日後の早朝、ふくらはぎ。

　6日目の早朝、逆の足の太もも。

　7日目の夕方、ふくらはぎ。

　8日目の昼、腹。

　9日目の深夜、腹。

　10日目の夕方、腹。

　その辺りで切るところがなくなってしまった。

　ちなみに傷は消毒して薬塗ってガーゼしてたんだけど、ちょっと深くて長い線にしたせいで、治りが遅い。

　11日目、どこも切れないな、と考えている時に、発作が来た。

切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい

　こんな発作に侵されてても、どこか冷静な自分もいて、

　人を切れば捕まっちゃう。自分も切るとこないし、今回乗りきってもきっと明日も明後日も同じ発作が来るだろうし、、、

　あぁ、もういいや、考えんのめんどくさい。

ーザシュッ

ふぅ、これで発作も来ないでしょ。

ーガタン