Eternal Rain ~僕と彼の場合~

勇黄

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Eternal Rain ~僕と彼の場合~外伝

Eternal Rain ~俺と彼の場合~④

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1ヶ月後、退院の許可がおりて
俺はとりあえずあいつのところへ
泊まることになった。









胸にはまだサポーターを
巻いているし指は第1関節が
動かしにくく右利きの俺は
不便だ。痛みもあって
鎮痛剤を服用しているためか
なんだかだるい。











天士てんじは10階建ての2LDKの
マンションの6階に住んでいて
俺のために物置部屋にしていた
部屋を設えてくれていた。













ベッドを置き服をかける
ハンガーラックにスエット上下数着
パーカーにデニム、シャツや
下着まで用意してくれていて…。











俺はこうなるまでは
虎家とらいえの事務所で
寝泊まりして適当にサウナとか
行ってたから俺の荷物なんて
捜査が入った後、処分されて
しまっているだろう。
衣類ぐらいしかなかったが…。








それまでの思い出はすべて捨てたから。


















かん。どう?気に入った?】










[気に入る、もなにも…。
ここまでしてくれなんて…。

適当にその辺で寝るので
じゅうぶんだったのに。
…すまん。]













かんが俺の家に
来てくれるんだもの!
これくらいなんてことないよ~

ほんとは俺の部屋に
一緒に寝て欲しいけど
シングルベッドだしね…
ダブルに買いかえようかな…】










[だっ!誰が一緒に寝るんだよ!
バカじゃねぇ?]











ふふふ、と天士てんじは笑い
お茶を入れてくれる。










[あの…。]










俺は伝えなければならないことを
切り出した。










【どうしたの?かん?】










[病院の費用とか弁護費用とか…
さっきの部屋のとか…
俺に使ったお金。

それからこれからの生活費。

すべて教えて欲しい。

俺、働いて返すから。]










【いや…俺がしたくて
したことだから返さなくていいよ。】











[ダメだ。そんなことは
絶対ダメだ。そんなこと言うなら
俺は出てくぞ?]












【っつ………。わかったよ。

入院費用と弁護費用はあとで
一覧にする。
生活費ももらうことにする。

利息はとらないよ。

部屋のものは俺が勝手に
やったことだから払わなくていい。

無理しないで払える分を
分割で返してくれれば
それでいいから。いい?】












[………。わかった。
………その…ありがとう。]










【………。うん。そういうかんが好きだ。】










[っ。………。ほんとバカだな…。
………。あと。頼みがあんだけど。]











【うん。なあに?】










[この。銀行の中のお金。
どこか動物の保護施設や
児童養護施設とかに………
寄付して欲しいんだ。]










俺は唯一の所持品の財布の中から
カードを取り出した。











[俺、虎家とらいえから分不相応な
報酬をもらってて…。

使い道もねえから
だいぶたまってると思う。]











【だったらここから病院の費用…】











[それは嫌だ!絶対に嫌だ!
それは悪いことして稼いだ金なんだ。
俺が直接ではないにしろ…。
汚れた金だ。

そんな金をおまえに渡したくない。
ちゃんと稼いで返すから。

………。でも。こん中にある金は
金であることには変わりねぇだろ?
だからせめていいことに
使ってもらいてぇんだ。
だから。頼む。]












かん…。やっぱり俺の目に
狂いはない…。かん。大好きだよ。

わかった。俺に任せて。
ちゃんとやってあげる。
匿名、でいいんだろ?】











[わかってるじゃねぇか。
………頼む。]











【疲れたよね?かん…。
少し横になりな?ベッドへ行こう。】










ああ。と返事して部屋へ行き
横になるとあいつは
また俺の頭を撫でてきた。










[ああ!もう!こら!
うっとおしいな!やめっ!]












【やってもらいたいくせに~
くくく…じゃあ、ね。
ゆっくり眠って。】










天士てんじは微笑んで 部屋から出ていった。











この時、俺ははっきりと
自覚したんだ。

あいつがそばにいなくなると
さみしいこと。

頭を撫でてもらいたいこと。

あいつが俺を見るたびに
さわるたびに。

ドキドキすること。






















夜中に目が覚めた俺は
トイレに行ってふと見ると
天士てんじの部屋から
明かりが漏れてて…
俺はびっくりした。











(こんな時間、だぞ…?)

夜中の3時を過ぎていた。











少し開いているドアの先を
そっ、と覗くとそこには机に
突っ伏して眠ってしまっている天士てんじ。難しそうな書類や
書物がたくさん机の上に
出されて書き物をしていたらしい。












俺は思わず天士てんじの頬に触れていた。












【…ん………。】










はっ、として手を離す。











そして肩を揺さぶった。










[おい。ちゃんと寝ろよ。]











【…ん!あ…かん…。】










腰に抱きついてきやがった
あいつを俺は無理矢理引き剥がした。











[ちょっ!もう!馬鹿野郎!
おやすみ!]











小走りに部屋へ戻った
俺の顔は赤くなっているだろう。










ベッドに横になり
火照った顔をもてあます。











俺はいつまでも天井の模様を
見あげていた。
 





















翌朝、俺は勝手に台所を借りて
冷蔵庫の中身で朝食を作った。











卵焼きとわかめの味噌汁。
ごはんは小分けにして
冷凍してあったのでそれを
あっためてふりかけを混ぜて
おにぎりを握った。












寝ぼけ眼で起きてきた天士てんじ
泣いて喜んだ。












【うぅっ…朝からこんな…
嬉しい…美味しそうだ!
ありがとう…かん
手、大丈夫だった?】










[こんなの、なんでもないよ。
子供の頃からずっとやってたし。
手もだいぶよくなってきてる。
ほら、食おう。冷める。]










向かい合って座り食べ始めると
天士てんじはとても嬉しそうに笑う。











かん…。これから俺のために
ずっとご飯作って?】









[………。ここに世話になってる間は
なるべく作るよ。]











【嬉しい!】










[…………。]










天士てんじはガッツポーズをして
満面の笑みだ。でもそこから
悲しそうな表情にかわる。











【俺、仕事あるんだ…
ほんとはかんとずっと
一緒にいたいけどそうもいかない。
ごめんな…。】












[っ。仕事するのは
当たり前だろうが!
謝ることなんてない!
バカじゃねぇ?]
 










【…はぁい………。ぅぅ~休みたい…。
あ~栄醐えいごが羨ましい…。】











[バカか?羨んだって
しかたねぇじゃねぇか! 
そんなん考えてる暇あったら
働け!俺も職探しに出るから。]












【え?もう少しゆっくりしなよ…
俺、心配だよ…。
俺が仕事探すからさぁ?】












[そんなことまでおまえの
世話になれねぇ!俺は自分で
するから。大丈夫だ。

ほっといてくれ…。]











かん…。】










天士てんじは心配そうに眉をさげた。











【せめて週明けからにしなよ。
ね?ね?体が心配だから…。ね?】











[木、金、土、日、か…。わかった。
おまえの言うとおりにするよ。
しかたねぇから…。]











俺は赤くなった顔を隠そうと
お茶を入れにキッチンに行く。










[そういえば…おまえはコーヒー
飲まねぇの?]










【飲まないことはないんだけど…
お茶が好きなんだ。】











[そ…か………。]











かん、コーヒー飲みたいなら
買ってこよ…】











[いらねぇ!
………俺コーヒー飲めねぇからっ!]









さらに赤くなったろう俺を
はにかむように見たあいつは
可愛いね、と言ってキッチンに来た。











きゅっ、と俺の左手を握って言う。










かん。俺はかんが好き。
だからそばにいたい。
そばにいて欲しい。

かんがやりたいことを
見つけたら…ずっと見守りたい。

俺に協力できることは
言ってくれればできることは
するから。
全力で力になるから。
だから。よく考えて…。

かんがやりたいことを
やって欲しいんだ。

なんか夢とかないの?】











[俺は…夢、なんてもてる
身分でもねぇし…。
………そ、そんなものっ。
ガキじゃあるまいし!
バカじゃねぇ?]












手を無理やり離し
食べ終わった食器を持ってきて
洗い始める。










かん。よく、考えて。
考えてみて。ね。

食事作ってくれて洗い物まで
ありがとう。着替えて仕事に行く。
また戻るとき…連絡いれるよ。

あ!かんこれ使っていいよ。
俺のタブレット。
LINE、俺のスマホと繋いどいたから。
これにLINEするから、ね。
じゃ。ゆっくりするんだよ?】













そう言って微笑んであいつは
いってきまーす、と出ていった。












(夢…か…………。)










俺はベッドに寝転がって
考えを巡らせることにした。
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