上 下
37 / 98

引き合わせ

しおりを挟む
彩明あやあきはまず
病院内の図書館に
行ってみることにした。



調べ物をすることができる
パソコンの前に座る。





(もし。前世なら。
どのぐらい前だろう。
北海道の北のほう、山で遭難…
少年2人。新聞に載ったり
しているだろうか…)





いろいろ検索ワードを入れてみる。




何時間もいろいろと
検索してひとつの記事に
たどり着いた。





(ん?こ、れ…?)

その記事は約60年前の小さな記事。





それは少年らが展望台に行って
帰ってこないと
ロープウェイの職員が申し出て
捜索隊が出された、というもので
少年らはまだ行方不明だ、と
いう短い記事だったが
彩明あやあきが確信するに
じゅうぶんで…。





ギプスがとれ退院した彩明あやあき
まず北海道に向かった。





アキの話した前世が
住んでいたところと
その山は近い場所で
とりあえず、その山の展望台に
行ってみたくて電車を乗り継いだ。




駅に降り立つと古びたロープウェイは
まだそこにあって
乗って展望台に行けるようだった。



ロープウェイの職員に記事を見せ
聞いてみたがその若い職員は
知らないと言う。





彩明あやあきは展望台で
少し冷たくなってきた空気を
思い切り吸い込んだ。



夢に出てきたあの人の
唇まで白く、透き通ったような
肌の色をまざまざと思い出す。

(でも、顔、思い出せないな…)







しばらく佇み、景色を見ていた
彩明あやあきだったが無言で
ロープウェイを降り
アキが前世で住んでいた、と
語った町へとやってきた。






(大工さん…でもそこには行けない。
あと聞くとすれば食堂かな…
残ってはいないかな…)










「…………………ア、キ?」


駅を出たところのロータリーで
佇んでいると後ろから声をかけられた。





見るとかなり高齢のご婦人が
駅のベンチに腰かけて
こちらをびっくりしたように
見つめている。





「そんなはずはない…」

1人つぶやくそのご婦人に
彩明あやあきは声をかける。





「今、アキとおっしゃいましたか?」

「あぁ…。遠い昔にあなたに
よく似た子をうちの食堂で
預かってねぇ…

あの子に可哀想なことを
してしまってねぇ…

あの時なぜ私は相談に
のってやれなかったのか…

自分の情けなさを
ずっと悔やんでいてねぇ…」

そう言いながらご婦人は
涙をつ、と流す。





彩明あやあきはハンカチを渡し
微笑んだ。



「…きっと。その子はあなたに
感謝してると思いますよ。
ってか……………感謝してます。

……………僕がそのアキって子の
生まれ変わりだ、と言ったら
信じてくれますか?」



目をまんまるく見開いた
ご婦人はまじまじと彩明あやあきを見た。




「面影が似ている…。
さっき見たときアキだと思った。
佇まいが一緒で…」




「僕、彩やかに明るい、と
書いてあやあきと言います。

その…アキ、もあやあきですか?」




「!そうだ!アキは彪亮あやあきだ…。

………生まれ変わり、なんて
本当にあるのかい?」





「僕もここに来るまで
半信半疑だったんです。

僕、事故にあって
意識不明だったんですが
その間に前世を見たみたいで…

記憶は曖昧なんです…

でも。ここにきてあの山にも
行ってきてすごく実感が…。


あなたにお会いした瞬間も
懐かしいような気持ちがしました。」





「…………………アキ。ごめんねぇ。
あんときアイツがしたことは
許されない…私がもっと
しっかりしていれば……。

そして兄夫婦のことも
申し訳なかった……

あんな、偏見に満ちた
人たちだと思わなかった…

アキ、本当にごめんね…」






「………幸子さちこさん…」
ふっ、と名前が口をついて出た。

「え?………名前、私言ってないよねぇ…
やっぱりあなたは
アキの生まれ変わりって
本当なのかも…」





それからも2人でいろいろな話をした。


「私はね…アキ。2人のこと
わかってたんだ。

愛し合う2人だってこと。

…もう少し気遣ってやれれば
よかったねぇ…

あの時、私はまだ30代で、
自分のことで精一杯だった…
ごめんねぇ…」




「いえ…本当に良くして
いただきました。親方ご夫妻にも
幸子さちこさんにも。

本当にありがとうございます…」





「こんな…こんなことが
あるのかねぇ……そうだ、思い出した。
…あなたたちが行方不明になってから
泣きながら食堂に来た子がいてね…

名前はなんだったか……………」




「………タイスケ、ですか?」



「そうだ、タイスケくん!
あの子からアキの手紙を
見せてもらったんだよ。

最後の手紙を………。」




「手紙…。タイスケ持って
来てくれたんですね…。」





「泣いてたけど…でも2人一緒に
逝って幸せだろう、って。
まだ中学生なのに
大人びたことを言った…」



「…あの子も苦労、したんです。
…………あの子、その後どうしたか
ご存じですか?」




「…。何年もずっと年賀状を
くれていたが…帰って探してみるよ。」

「………………ありがとうごさいます…。」





彩明あやあきは電話番号と住所を渡し
もし見つかったら連絡ください、と言った。





「わかった…。アキ。
本当にごめんね…ごめん、ごめ…」と

幸子さちこはいつまでも謝って
彩明あやあきを抱きしめ続けてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

尻で卵育てて産む

高久 千(たかひさ せん)
BL
異世界転移、前立腺フルボッコ。 スパダリが快楽に負けるお。♡、濁点、汚喘ぎ。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話

こじらせた処女
BL
 網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。  ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

嫌がる繊細くんを連続絶頂させる話

てけてとん
BL
同じクラスの人気者な繊細くんの弱みにつけこんで何度も絶頂させる話です。結構鬼畜です。長すぎたので2話に分割しています。

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

処理中です...