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前世の記憶③

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翌日から彪亮あやあきは少しずつ食事をとり
体力は回復していった。

職員たちからの性暴力は続いていたが
その悪夢にも耐えた。



その間タイスケが駿二しゅんじ
メッセージを届けてくれたのも
励みになっていた。







ある時タイスケが
「アキ。シュンジとここを出る時
俺も一緒に行っちゃ、ダメ?」と
目に涙を溜めて聞いてきた。



彪亮あやあきは驚いて
「タイスケどうしたの?」と聞く。


タイスケはTシャツをめくって見せた。
「俺、折檻されてんだ。職員に。
タバコ押し付けられたり。
ずっとやられてる…」




彪亮あやあきは絶句した。
「…タイスケ。うん、一緒に行こう。」


タイスケは涙を零し
「ありがとう。」と言い
駿二しゅんじのメッセージを渡す。




彪亮あやあきはそれを読み
タイスケに紙を返して
「シュンに…愛してると伝えて。」と言う。

そして「タイスケもがんばって…
あと少し。」と呟いた。

タイスケは頷き出ていく。



(なんでこんなに地獄なのだろう…)
彪亮あやあきは膝をかかえ少し泣いた。











2年の月日がたち、駿二しゅんじ彪亮あやあき
中学生になった。



駿二しゅんじは着々と準備を進め
それを実行する日を決める。



その日は半年に一度の
全体職員会議があり人が手薄になる。

その時を狙って出ようという計画だ。



前日タイスケが最終的な打ち合わせを
書いた紙を彪亮あやあきの元に持ってきた。

彪亮あやあきが「いよいよ、だね。」と
言うとタイスケは頷く。




駿二しゅんじからのメッセージには
時間と待ち合わせ場所
そして行先が書いてあった。


【北海道で俺の父親が
昔大工の修行をしてた。
そこの師匠が俺をかわいがってくれていた。
そのつてを頼ろうと思う。
電話してみたらまだ大工を
やっているようだった。

旅費は俺がなんとかする。
アキ…もうすぐ会える。がんばろう。】



彪亮あやあきはタイスケを見、頷く。
タイスケも目配せをする。



(いよいよ明日…。早くシュンに会いたい…)





当日、駿二しゅんじ
待ち合わせの時間の少し前
ある部屋に忍び込む。


この部屋に職員たちが補助金を
不正にごまかしてプールしている現金が
あるのを事前の調査で
把握していたからだ。


 (…あった。これだ。)


大切に背負ったリュックのなかに入れる。






「シュンジ!」タイスケの声がする。
「シュンジ!逃げて!」




駿二しゅんじ
ハッとして部屋の入口を見ると
タイスケの首根っこを掴み鬼の形相で
入ってくる職員がいた。

咄嗟に護身用に持っていたナイフをかざす。




「おまえ!自分が何してるのか
わかってるのか!」 
にじりよってくる職員。





「…タイスケを離せ!」
駿二しゅんじは叫ぶ。




「シュンジ!俺はいいから!逃げて!」
タイスケはそう言うと
隠し持っていたナイフで職員の腹を刺した。



「!! タイスケ!」



職員の返り討ちにあい
タイスケは殴られ崩れ落ちながらも
職員の足に絡みつき行く手を阻止する。

「シュンジ!行って!」




「タイスケ!タイスケ!」
駿二しゅんじは泣き叫ぶ。





「いーーーーーーーけーーーーーーーー!!」

タイスケの叫びに駿二しゅんじ
弾かれたように走り出す。




(タイスケ、ごめん!タイスケ!タイスケ…)




待ち合わせ場所で彪亮あやあき
手を取り走り出す。


「シュン!タイスケは?
ねぇ、タイス…はっ!」



「アキ、思い切り走るぞ!
タイスケが守ってくれたんだ…」


そう言う駿二しゅんじの顔は
苦渋に歪み涙がとめどなく流れていた。




彪亮あやあき駿二しゅんじの手を
力いっぱい握り走る足を早くした。





(どうしよう…タイスケ…ごめん………)
涙がとめどなく流れる。





2人は涙をとめられずに
夜通し手を握り合い走り続けた。
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