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不思議な感覚
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食卓の上には10000円札。
父親のメモ書き…。
2泊3日で出張だから
これでごはん食べておいて。
火の元にはくれぐれも注意して。
俊詩にはわかっていた。
(女のところだ。)
ここのところ父親の出張が増えていた。
そんなにしょっちゅう出張に
行くような仕事でもなかろうに。
見え透いた父親の嘘。
こんなので騙せていると
本気で思っているのだろうか。
いっそのこと俺は
家を出たほうがいいのかも。
父親は賛成するだろう。
これ幸いとここに女を連れ込むのだろう。
(あぁ…もうどうでもいい。)
俊詩は自室に行きベッドに寝転んだ。
生徒会長選の当日。
俊詩は憂鬱な気持ちで
演説が行われる講堂の控え室の
椅子に所在なげに座っていた。
さっきちらっと隙間からみた
演説の会場は確かに二分していた。
神宮寺の支援者と俊詩の支援者。
五分五分、と言った感じなのだろうか。
朝、叶愛に原稿用紙を渡された。
「これ読んだら大丈夫だから!ね?」と
鼻高々で言われたけれど…
これ、読むの?
自分が思ってもいない
高尚な言葉が並んでいた。
「めんどくせぇ…。」
一際大きな歓声が聞こえる。
先に神宮寺が演説するらしい。
あの生真面目な黒縁メガネの
どこがそんなにいいんだ…
黄色い歓声が「ジン様!」と
あちこちからとんでいる。
少し高めのよく通る声が聞こえる。
…あいつらしい誰にでもよくわかる
明朗な演説だった。
(ん???あいつらしい、って
今俺思ったけど…
あいつのなにを知ってるってんだ…
生徒会長室で1度会っただけじゃないか。
何を考えてるんだ、俺は…)
よくわからない感情の中
出番だと呼ばれた。
原稿用紙を掴み
袖から壇上に歩き進める。
叶愛や友人をはじめ
たくさんの応援の声。
俊詩はクラクラした。
なんとか真ん中にたどり着き
机に原稿用紙を置き、読み出す。
「この度、生徒会長に
立候補させていただきました
神田俊詩です。私がこの学校の
生徒会長になった暁には…」
そこで俊詩は止まってしまった。
だんだんザワザワする会場。
叶愛が「フミちゃん!がんばって!」と
叫ぶのが遠くに聞こえた。
めまいが強くなったと思った途端
俊詩は壇上で真後ろに
ドォン!と倒れてしまった。
薄れゆく意識の中
黒縁メガネが自分を抱き抱え
神田くん!と呼んでいるのが聞こえた。
なぜか心地いい…
そんなことを思いながら意識を失った。
俊詩が目を覚ました時
病院のベッドの上だった。
父親が傍らにいた。
「…親父。」
「俊詩!気がついたか!
気分、悪くないか?」
「ん。大丈夫。親父こそ…
仕事、大丈夫なの?」
「あ、え?…あぁ。そ、そりゃ息子が
大事に決まってるだろう。
ちょっと医者を呼んでくるよ。」
ひととおり医師に診察され
「検査結果になにも異常がないので
過労でしょう。2、3日は学校を休んで
休息して栄養をとってください。」
そう言って医師は去った。
「帰るか?」と父親は聞く。
「1人で帰れる。
親父は…仕事いけよ。もう大丈夫だから。
会計だけ、お願い。」
「そ、そうか?」
明らかに少し嬉しそうな
父親を冷たい目で見る俊詩は
さっさと立ち上がり
身なりを直して病室を出てゆく。
病院を出たところで前の道路に
あの黒縁メガネが立っていた。
「お前、なにしてんの?」
「神田くんが心配で。」
「は?なんで?」
「大丈夫、なの?」
「…。ただの過労だよ。なんなの?」
「大丈夫ならいいんだ。また。」
そう言って足早に行ってしまった。
「なんなんだよ…もう!」
俊詩はもう少し話したかった、と
思ってから、自分で驚く。
(よく知りもしないのに…
なんでこんなこと思ったんだろう…)
父親のメモ書き…。
2泊3日で出張だから
これでごはん食べておいて。
火の元にはくれぐれも注意して。
俊詩にはわかっていた。
(女のところだ。)
ここのところ父親の出張が増えていた。
そんなにしょっちゅう出張に
行くような仕事でもなかろうに。
見え透いた父親の嘘。
こんなので騙せていると
本気で思っているのだろうか。
いっそのこと俺は
家を出たほうがいいのかも。
父親は賛成するだろう。
これ幸いとここに女を連れ込むのだろう。
(あぁ…もうどうでもいい。)
俊詩は自室に行きベッドに寝転んだ。
生徒会長選の当日。
俊詩は憂鬱な気持ちで
演説が行われる講堂の控え室の
椅子に所在なげに座っていた。
さっきちらっと隙間からみた
演説の会場は確かに二分していた。
神宮寺の支援者と俊詩の支援者。
五分五分、と言った感じなのだろうか。
朝、叶愛に原稿用紙を渡された。
「これ読んだら大丈夫だから!ね?」と
鼻高々で言われたけれど…
これ、読むの?
自分が思ってもいない
高尚な言葉が並んでいた。
「めんどくせぇ…。」
一際大きな歓声が聞こえる。
先に神宮寺が演説するらしい。
あの生真面目な黒縁メガネの
どこがそんなにいいんだ…
黄色い歓声が「ジン様!」と
あちこちからとんでいる。
少し高めのよく通る声が聞こえる。
…あいつらしい誰にでもよくわかる
明朗な演説だった。
(ん???あいつらしい、って
今俺思ったけど…
あいつのなにを知ってるってんだ…
生徒会長室で1度会っただけじゃないか。
何を考えてるんだ、俺は…)
よくわからない感情の中
出番だと呼ばれた。
原稿用紙を掴み
袖から壇上に歩き進める。
叶愛や友人をはじめ
たくさんの応援の声。
俊詩はクラクラした。
なんとか真ん中にたどり着き
机に原稿用紙を置き、読み出す。
「この度、生徒会長に
立候補させていただきました
神田俊詩です。私がこの学校の
生徒会長になった暁には…」
そこで俊詩は止まってしまった。
だんだんザワザワする会場。
叶愛が「フミちゃん!がんばって!」と
叫ぶのが遠くに聞こえた。
めまいが強くなったと思った途端
俊詩は壇上で真後ろに
ドォン!と倒れてしまった。
薄れゆく意識の中
黒縁メガネが自分を抱き抱え
神田くん!と呼んでいるのが聞こえた。
なぜか心地いい…
そんなことを思いながら意識を失った。
俊詩が目を覚ました時
病院のベッドの上だった。
父親が傍らにいた。
「…親父。」
「俊詩!気がついたか!
気分、悪くないか?」
「ん。大丈夫。親父こそ…
仕事、大丈夫なの?」
「あ、え?…あぁ。そ、そりゃ息子が
大事に決まってるだろう。
ちょっと医者を呼んでくるよ。」
ひととおり医師に診察され
「検査結果になにも異常がないので
過労でしょう。2、3日は学校を休んで
休息して栄養をとってください。」
そう言って医師は去った。
「帰るか?」と父親は聞く。
「1人で帰れる。
親父は…仕事いけよ。もう大丈夫だから。
会計だけ、お願い。」
「そ、そうか?」
明らかに少し嬉しそうな
父親を冷たい目で見る俊詩は
さっさと立ち上がり
身なりを直して病室を出てゆく。
病院を出たところで前の道路に
あの黒縁メガネが立っていた。
「お前、なにしてんの?」
「神田くんが心配で。」
「は?なんで?」
「大丈夫、なの?」
「…。ただの過労だよ。なんなの?」
「大丈夫ならいいんだ。また。」
そう言って足早に行ってしまった。
「なんなんだよ…もう!」
俊詩はもう少し話したかった、と
思ってから、自分で驚く。
(よく知りもしないのに…
なんでこんなこと思ったんだろう…)
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