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壊せない。
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母親に電話で合格したことを
知らせて説明会で書類を受け取り
僕はその足で中学校に向かった。
担任に報告して書類を渡す。
職員室に芳岡の姿がなく
安堵して早く帰ろうと
上履きを履き替えていると
影が射した気がして顔をあげた。
「よ、しおか先生…。」
「紅李翔。合否どうだった?」
笑うでもなく真顔で聞いてくる
芳岡に寒気がした。
「受かりました。
ありがとうございました。」
早口で言いそそくさと
出ていこうとする僕の腕を
グッと掴んでくる。
「やめてください。」
「……なぁ、紅李翔。俺たち…。
わかりあえると思うんだよ。だから…」
僕はキッと芳岡を睨む。
「そんなわけない。
あなたには僕の気持ちなんて
わからない。離してください。」
ガッと肩を掴まれて
身動きがとれないでいると
顔が近づいてきた。
「タカヒコ…。なぁタカヒコ…
俺たち愛し合ったじゃないかよ…
なぁ、って…」
熱にうかされ焦点の定まっていない
芳岡は知らない名前を
繰り返し呟いている。
「僕はタカヒコじゃない!
榊紅李翔だ!」
そう叫んで急所を蹴りあげた。
「!!!!!」
言葉にならない痛みに
芳岡は悶絶して転がっている。
「僕は先生みたいに卑怯じゃない。
いくら好きな人に似ているからって
その人以外の人と
どうにかなろうなんて思えない。」
「グゥッ………お…れのタカヒコは
死んじま、ったんだよ…
もう、会えない、んだ…。」
涙を流しながらうずくまる
芳岡が急に憐れに見えた。
「僕はタカヒコさんの代わりに
なれません。ごめんなさい。
………大丈夫ですか?」
芳岡の手をとり立たせる。
「紅李翔………。…ごめん、な…。
わかりきってるはずなのに。
あいつの代わりなんていないこと。
わかっているのに…。
おまえの顔を見るとどうしても…。
すまない………。」
僕と芳岡は校庭へ出て
ベンチに腰かけた。
「………俺とタカヒコはその……
いわゆるハッテン場で出逢ったんだ。
顔を合わせるなり惹かれあった。
磁石のように…。
俺が教師になったら
同棲するはずだったのに…。
あいつはあっさりバイク事故で
死んじまった…。
教師になって生徒の中に
おまえを見つけて…
俺は声かけずにはいられなかった。
本当に瓜二つで…。」
「先生。さっきわからない、って
言ったけど…本当はすごくわかります。
似ている人がいたら………。
僕だってすがりたい気持ちに
なるかもしれない。」
「えっ…………」
「僕の好きな人は誰か…。
先生はもうわかっているでしょう?」
「…………隅坂真仁。」
「ふ…。小さい頃から…。
物心ついたときから
ずっとずっと彼が好きです。」
「紅李翔………。」
「そして今、僕の、姉の。
彼氏なんです…。
…それでも僕は好きな気持ちを
やめられない。
まぁくんしかだめなんです。
もちろんそんなこと本人には
言えやしない。姉にも。
でもそれでも僕は…。
笑って少しでもまぁくんの
そばにいる時間があれば
それでいいんです。」
「………。おまえはすごいな。
俺も変わらなきゃ…。」
「先生がいつまでも悲しんでいたら
天国のタカヒコさんも悲しいですよ。」
「うん…。あいつはきっと
『早く次の彼氏を見つけろ』って
言いそうだ。
そういえばよく言ってたんだ。
『俺が先に逝ったらおまえ
すぐに恋人探せよ、おまえは
さみしがりだからな~』って。
俺は冗談として
とりあわなかったけど……。
今思い出した……………。」
「きっと先生に幸せになって
ほしいはずです。」
僕は浮かんでくる涙をこらえて
立ち上がった。
「僕は…とりあえずまたあと2年は
幸せな日々です。
同じ高校に通えるから。
だから先生、がんばってくださいね。
じゃあ行きます。」
「ありがとう…。本当にごめんな…。」
僕は首を横にふり
校門まで振り返らずに走った。
背中に痛いほどの先生の視線が
わかったけれど見ずに外へ出て
息をつく。
「紅李翔ぉ!おめでとう!」
突然、奈那美の声がして振り返ると
父母と共に手をふっていた。
「今日は紅李翔の好きなもの
食べに行こう。なにがいい?」
父親は優しく言い。
母親は無言でくりくりと
僕の頬っぺたを撫でた。
「…くすぐったいよ…。ふふっ…。
僕、お寿司がいい!回らないやつ!」
「ちょっと紅李翔なまいき!あはは!」
奈那美が笑う。
僕はこの家族が好きだ。
この3人のこの笑顔を壊せない…。
僕は複雑な気分で。
それでも元気に笑った。
知らせて説明会で書類を受け取り
僕はその足で中学校に向かった。
担任に報告して書類を渡す。
職員室に芳岡の姿がなく
安堵して早く帰ろうと
上履きを履き替えていると
影が射した気がして顔をあげた。
「よ、しおか先生…。」
「紅李翔。合否どうだった?」
笑うでもなく真顔で聞いてくる
芳岡に寒気がした。
「受かりました。
ありがとうございました。」
早口で言いそそくさと
出ていこうとする僕の腕を
グッと掴んでくる。
「やめてください。」
「……なぁ、紅李翔。俺たち…。
わかりあえると思うんだよ。だから…」
僕はキッと芳岡を睨む。
「そんなわけない。
あなたには僕の気持ちなんて
わからない。離してください。」
ガッと肩を掴まれて
身動きがとれないでいると
顔が近づいてきた。
「タカヒコ…。なぁタカヒコ…
俺たち愛し合ったじゃないかよ…
なぁ、って…」
熱にうかされ焦点の定まっていない
芳岡は知らない名前を
繰り返し呟いている。
「僕はタカヒコじゃない!
榊紅李翔だ!」
そう叫んで急所を蹴りあげた。
「!!!!!」
言葉にならない痛みに
芳岡は悶絶して転がっている。
「僕は先生みたいに卑怯じゃない。
いくら好きな人に似ているからって
その人以外の人と
どうにかなろうなんて思えない。」
「グゥッ………お…れのタカヒコは
死んじま、ったんだよ…
もう、会えない、んだ…。」
涙を流しながらうずくまる
芳岡が急に憐れに見えた。
「僕はタカヒコさんの代わりに
なれません。ごめんなさい。
………大丈夫ですか?」
芳岡の手をとり立たせる。
「紅李翔………。…ごめん、な…。
わかりきってるはずなのに。
あいつの代わりなんていないこと。
わかっているのに…。
おまえの顔を見るとどうしても…。
すまない………。」
僕と芳岡は校庭へ出て
ベンチに腰かけた。
「………俺とタカヒコはその……
いわゆるハッテン場で出逢ったんだ。
顔を合わせるなり惹かれあった。
磁石のように…。
俺が教師になったら
同棲するはずだったのに…。
あいつはあっさりバイク事故で
死んじまった…。
教師になって生徒の中に
おまえを見つけて…
俺は声かけずにはいられなかった。
本当に瓜二つで…。」
「先生。さっきわからない、って
言ったけど…本当はすごくわかります。
似ている人がいたら………。
僕だってすがりたい気持ちに
なるかもしれない。」
「えっ…………」
「僕の好きな人は誰か…。
先生はもうわかっているでしょう?」
「…………隅坂真仁。」
「ふ…。小さい頃から…。
物心ついたときから
ずっとずっと彼が好きです。」
「紅李翔………。」
「そして今、僕の、姉の。
彼氏なんです…。
…それでも僕は好きな気持ちを
やめられない。
まぁくんしかだめなんです。
もちろんそんなこと本人には
言えやしない。姉にも。
でもそれでも僕は…。
笑って少しでもまぁくんの
そばにいる時間があれば
それでいいんです。」
「………。おまえはすごいな。
俺も変わらなきゃ…。」
「先生がいつまでも悲しんでいたら
天国のタカヒコさんも悲しいですよ。」
「うん…。あいつはきっと
『早く次の彼氏を見つけろ』って
言いそうだ。
そういえばよく言ってたんだ。
『俺が先に逝ったらおまえ
すぐに恋人探せよ、おまえは
さみしがりだからな~』って。
俺は冗談として
とりあわなかったけど……。
今思い出した……………。」
「きっと先生に幸せになって
ほしいはずです。」
僕は浮かんでくる涙をこらえて
立ち上がった。
「僕は…とりあえずまたあと2年は
幸せな日々です。
同じ高校に通えるから。
だから先生、がんばってくださいね。
じゃあ行きます。」
「ありがとう…。本当にごめんな…。」
僕は首を横にふり
校門まで振り返らずに走った。
背中に痛いほどの先生の視線が
わかったけれど見ずに外へ出て
息をつく。
「紅李翔ぉ!おめでとう!」
突然、奈那美の声がして振り返ると
父母と共に手をふっていた。
「今日は紅李翔の好きなもの
食べに行こう。なにがいい?」
父親は優しく言い。
母親は無言でくりくりと
僕の頬っぺたを撫でた。
「…くすぐったいよ…。ふふっ…。
僕、お寿司がいい!回らないやつ!」
「ちょっと紅李翔なまいき!あはは!」
奈那美が笑う。
僕はこの家族が好きだ。
この3人のこの笑顔を壊せない…。
僕は複雑な気分で。
それでも元気に笑った。
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