君が心に入りこんできたから。

勇黄

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しかたなく

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"おつかれさまでしたー!
新堂雷音しんどうらいおんさんオールアップでーす!"


現場プロデューサーが声を張り上げる。


「ありがとうございました。お世話になりました。」



共演者から花束を受け取り
僕は微笑み、まわりに頭を下げる。






挨拶をして現場を出ると誰かに肩を叩かれて振り返った。

「........................!」


雷音らいおん、お疲れ。】


「さ、阪上さかうえさん...。おはようございます...。」



雷音らいおんが来るって聞いたから、来ちゃった。ご飯行こう。このあと予定ないんでしょ?】


「え?」


【親睦とか深めちゃおうかなぁ、って。】


「......すみません。僕、今、企画をやっていて。」


【え、ちょっとくらいいいじゃん?マネージャーさんにも了解もらったから。】


「え??」


【行きつけのレストラン、個室予約したから。帰りは送るしさ。】


「え、あの、ちょ、ちょっとマネージャーと話したいんですが、いいですか?」


【うん、待ってるよ。】



僕は慌てて楽屋に入るとよしマネさんに詰め寄る。



「.........なんでOKしちゃうんですか!」


{え、だって.........。雷音らいおん。これも仕事のうち、だよ。}


「そんなぁ...。...............せめて帰りは迎えに来てください!」



{そうだねぇ。わかった。じゃあそうしよう。}


もう...よしマネさぁん.........。と脱力の僕に、まぁ、そんな緊張せずに行っといでよ、と軽く流されて。






しかたなく着替えて楽屋を出ると、彼は目の前で待っていたようで、じゃ、行こうかと肩を組まれそうになった。


あはは...、とうまくよけて少し後ろを歩く。


【ねぇ、雷音らいおん苦手な食べ物ある?】


「あ...あの、野菜が苦手で。」


【あ、俺と一緒だ!気が合うねぇ、俺たち。】


「...............はぁ...。」



【いつも行ってる気軽な店だからそんな緊張しないで。俺仕様になってるから、野菜も出てこないよ。あはは!】


「...は、はい.........。」


運転手つきの車に乗せられて
お店に着くと個室にサッ、と入り、いつもの感じで、お願いね、とスタッフに言いつけて、自ら椅子を引いて僕を座らせてくれて。



雷音らいおんはまだ未成年だからお酒はダメだね。ノンアルのスパークリングワインでも頼もうか。俺は少し飲ませてもらうよ。】



「僕、帰りはマネージャーが迎えに来ますので。」


【えー?そうなの?シェアハウス見てみたかったのに!】


「い、一応内密なことなので...。」


そうだよね~、と前菜の鯛のカルパッチョをつまむ彼はこちらをじっ、と見つめて視線を逸らさない。


(なんかこの瞳はちょっとだけサンと似ているのかも...。)



【ねぇ、雷音らいおんはさ、好きな人とかいるの?】


「っ!ごほっごほ.........。」


【ハハ!その反応はいるんだね。】


「っあ、いや.........。ごほっ。
..................あの、坂上さかうえさん、はいらっしゃるんですか?」


【少し前に、つきあってた人とお別れしてね。...今は気になっている人はいる、って感じかな。】



その間も僕から目線をはずさない彼は不敵に笑った。



【落としたくて食事に誘ってみたりしてるんだけどなかなか、ね。手強くて。】


「はぁ...............。」


【君はどうなのさ?】


「いえ...。僕は。」


【何も話さないつもり?俺は話したのに?】


「そういうわけではないですが...。」


【じゃあ、教えてよ。】


「........................僕は。
今まで、恋愛とかなかったです。いつも演技のことで頭がいっぱいで。それに...。子供の頃は内気でしたから。」


【ふぅん...。なかった、ってことは今はあるの?】


「.........なんでそんなに僕に興味があるんですか?」


【は?これだけ言ってもまだわかってない?......っは。俺が落としたいのは............。】


「え???」


【あぁ.........。ま、徐々にいくさ。ほら、このポークも美味しいから食べて。ね。】



そう言ってため息をつく彼に嫌悪感は増していくばかりだった。
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