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まだ名前はつけられない
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何分たっただろう。
いや、数秒かもしれない。
『雷音……。』
サンが僕の腰に手を回して僕の名前を呼んだ。
(離したくない……。でも。)
僕はおどけてみせる。
「えへへ。サン、癒された?」
『え?』
「ハグには癒し効果があるんだって。なんかで読んだ。幸せホルモン?が出るらしい。サン疲れてたから少しでも癒されればいいな、って。どう?」
『…………。うん。癒されたよ。ありがとう、ライ。』
「よかった!……あ、えっと野菜ジュース冷蔵庫に入ってたよ?サン飲むんでしょ?」
『え?……あ、うん。』
立てる?と問えば、うん、と立ち上がりドアを出て、きちんとカメラに向かって、脱衣所でぐっすり寝ちゃっててライに心配かけちゃった!と笑いかけて、確かな足取りでリビングへと歩いていった。
その背中に、僕はシャワーするね、と声をかければサンはペコりと頭を下げて笑う。
(この気持ちにまだ名前はつけられない……。)
僕は着替えを取りに行き、手早くシャワーを浴びてリビングへと戻った。
『ライ、おかえりー!はい、これ野菜ジュース!』
「えええっ……。僕は飲まないよ~。いらないっ!」
『ライのために入れてもらったんだよ~?』
「ええ?そうなの?……そ、そんなこと言ったって…」
『1口でもいいから!ね、騙されたと思って!フルーツも入ってるから飲みやすいよ?』
「いらないって!」
『ライ~。今日は慌ててお弁当食べただけなんだし!野菜~!』
「飲まないって~!もう~。
……あ、じゃあサンのスープなら飲むよ。……しかたないから。」
『へ?俺の作ったやつ?
……う、うん!温めてくるっ!』
2人で温かいスープを飲んでほっこりして、共に明日の予定を確認する。
「明日はサンが朝から取材で、僕がお昼から打ち合わせと夜はブランドのショーに招待されてる。」
『明日は別々だねぇ。なんだかさみしいなぁ……。』
「………………………。
さあ、早く寝よ。おやすみ。」
僕も、と言いたかったけど言わずにさっさと部屋へ逃げて、自覚し始めた想いをそっと心にしまって眠りについた。
翌朝。ミッションカードは通常ミッション1つ、リクエストミッション。1つ。
通常ミッションで僕は1人で朝食を作る。
リクエストミッションは……。
「今日1日お互いの写真を10枚以上撮ってSNSにあげること……。」
(写真か……。よし。)
『ふぅ…ねむ…ライおはよう~。』
カシャ!
『!……へ!?』
「ふふ……。おはよう。
……ミッションなんだよね。
SNSあげるね、今の写真。」
『えぇー!ちょっと?なに?どんなミッション?ってか今の写真ー!絶対まぬけ……やめて~!』
ふふふふ、と笑いながら
SNSに、サンの寝起きbyライ、とポストするとすぐに反応があり、そのコメント欄に僕はつい笑ってしまった。
「ねぇ、サン!……っふふふ!
サン母さん、ってタグができてるよ~!ふふふふ……。」
『え?母さん?』
「野菜、野菜、言うからだよ~!ふふふ……。」
『!?え?見せて?……ホントだ!
アハハハハ!サン、かあ、さん!韻も踏んでるし!アハハ!』
ひとしきり笑い、僕は朝食を作りにキッチンへ行く。
(作るったってロールパンにハムを挟もうとしてるだけだけど。……あ、サン用にレタスとトマトも挟んでやるか。)
ニヤけはじめた自分の顔を自覚して、表情を引き締めてから、おっかなびっくりミニトマトを半分に切り、ロールパンにも切り目を入れる。
出来上がったハムサンドをカウンターキッチンに置いて、着替え終わって部屋から出てきたサンに、何飲む?と声をかけると、コーヒーと返ってきたので2人分をペットボトルからグラスに入れてキッチンスツールに腰を下ろした。
『ライ、ありがとう!すごい!レタスとトマト入ってる!……あれ?俺だけ?なんでよ?ライも入れてよ!野菜とらなきゃ!』
「……っふふ。サン母さん。僕は食べない。嫌いなの!」
『コラ!母さんのいいこと聞きなさい!…………アハハ!』
また笑って、朝食をすませ、サンは行ってきます、と出かけていって。
ぼーっとしていた僕のスマホがピロン、と鳴って佳マネさんからメッセージが来たことを告げる。
{雷音。ちょっと話せる?マイクのない部屋にいてほしいんだ。またこっちからかけるから。}
その文面から不穏な空気を感じ、訝しく思いながらも僕はさっとお皿とコップを洗って自室へと戻った。
いや、数秒かもしれない。
『雷音……。』
サンが僕の腰に手を回して僕の名前を呼んだ。
(離したくない……。でも。)
僕はおどけてみせる。
「えへへ。サン、癒された?」
『え?』
「ハグには癒し効果があるんだって。なんかで読んだ。幸せホルモン?が出るらしい。サン疲れてたから少しでも癒されればいいな、って。どう?」
『…………。うん。癒されたよ。ありがとう、ライ。』
「よかった!……あ、えっと野菜ジュース冷蔵庫に入ってたよ?サン飲むんでしょ?」
『え?……あ、うん。』
立てる?と問えば、うん、と立ち上がりドアを出て、きちんとカメラに向かって、脱衣所でぐっすり寝ちゃっててライに心配かけちゃった!と笑いかけて、確かな足取りでリビングへと歩いていった。
その背中に、僕はシャワーするね、と声をかければサンはペコりと頭を下げて笑う。
(この気持ちにまだ名前はつけられない……。)
僕は着替えを取りに行き、手早くシャワーを浴びてリビングへと戻った。
『ライ、おかえりー!はい、これ野菜ジュース!』
「えええっ……。僕は飲まないよ~。いらないっ!」
『ライのために入れてもらったんだよ~?』
「ええ?そうなの?……そ、そんなこと言ったって…」
『1口でもいいから!ね、騙されたと思って!フルーツも入ってるから飲みやすいよ?』
「いらないって!」
『ライ~。今日は慌ててお弁当食べただけなんだし!野菜~!』
「飲まないって~!もう~。
……あ、じゃあサンのスープなら飲むよ。……しかたないから。」
『へ?俺の作ったやつ?
……う、うん!温めてくるっ!』
2人で温かいスープを飲んでほっこりして、共に明日の予定を確認する。
「明日はサンが朝から取材で、僕がお昼から打ち合わせと夜はブランドのショーに招待されてる。」
『明日は別々だねぇ。なんだかさみしいなぁ……。』
「………………………。
さあ、早く寝よ。おやすみ。」
僕も、と言いたかったけど言わずにさっさと部屋へ逃げて、自覚し始めた想いをそっと心にしまって眠りについた。
翌朝。ミッションカードは通常ミッション1つ、リクエストミッション。1つ。
通常ミッションで僕は1人で朝食を作る。
リクエストミッションは……。
「今日1日お互いの写真を10枚以上撮ってSNSにあげること……。」
(写真か……。よし。)
『ふぅ…ねむ…ライおはよう~。』
カシャ!
『!……へ!?』
「ふふ……。おはよう。
……ミッションなんだよね。
SNSあげるね、今の写真。」
『えぇー!ちょっと?なに?どんなミッション?ってか今の写真ー!絶対まぬけ……やめて~!』
ふふふふ、と笑いながら
SNSに、サンの寝起きbyライ、とポストするとすぐに反応があり、そのコメント欄に僕はつい笑ってしまった。
「ねぇ、サン!……っふふふ!
サン母さん、ってタグができてるよ~!ふふふふ……。」
『え?母さん?』
「野菜、野菜、言うからだよ~!ふふふ……。」
『!?え?見せて?……ホントだ!
アハハハハ!サン、かあ、さん!韻も踏んでるし!アハハ!』
ひとしきり笑い、僕は朝食を作りにキッチンへ行く。
(作るったってロールパンにハムを挟もうとしてるだけだけど。……あ、サン用にレタスとトマトも挟んでやるか。)
ニヤけはじめた自分の顔を自覚して、表情を引き締めてから、おっかなびっくりミニトマトを半分に切り、ロールパンにも切り目を入れる。
出来上がったハムサンドをカウンターキッチンに置いて、着替え終わって部屋から出てきたサンに、何飲む?と声をかけると、コーヒーと返ってきたので2人分をペットボトルからグラスに入れてキッチンスツールに腰を下ろした。
『ライ、ありがとう!すごい!レタスとトマト入ってる!……あれ?俺だけ?なんでよ?ライも入れてよ!野菜とらなきゃ!』
「……っふふ。サン母さん。僕は食べない。嫌いなの!」
『コラ!母さんのいいこと聞きなさい!…………アハハ!』
また笑って、朝食をすませ、サンは行ってきます、と出かけていって。
ぼーっとしていた僕のスマホがピロン、と鳴って佳マネさんからメッセージが来たことを告げる。
{雷音。ちょっと話せる?マイクのない部屋にいてほしいんだ。またこっちからかけるから。}
その文面から不穏な空気を感じ、訝しく思いながらも僕はさっとお皿とコップを洗って自室へと戻った。
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