きみがいるからぼくがいる

勇黄

文字の大きさ
上 下
16 / 16

きみは晶一朗、ぼくは維。⑦(聖南と漣)

しおりを挟む
「…っくん。たっくん。あーそぼ?」



























『しょうちゃん…。うん。
シール貼りやろうか?』



























よいしょ、と僕はしょうちゃんの体を
抱き起こし背中にクッションを入れる。

























『ふぅ…。大丈夫か?』

























「うん!あ、そぼ…。」
























最近子供がえりのような症状が
でてきたしょうちゃんはひどく幼い。

























僕をたっくん、と呼び
子供のように無邪気に笑う。




























転倒して腰椎を骨折してからは
コルセットをした状態で
自分では何も出来ない。

歩くことさえも。






























そういう僕もサポーターを
腰や膝に巻いている状態だ。


























『ほら、ここに貼って?』


























僕がノートとシールを渡すと
そのシールを僕の顔に次々と貼り
にこにこと微笑むしょうちゃんは
白髪のロマンスグレーに
綺麗に笑いジワが刻まれた
優しい顔のカッコイイおじいちゃん。































今いる高齢者住宅の中でも看護師さんや
介護のかた、入居者さんや
そのご家族から人気者だ。

































ただ僕の顔が見えなくなると
とたんに泣き出す。



























赤ちゃんに戻ったように
わんわん泣くのだ。





























だから僕はいつも寄り添っている。




























最近はトイレ以外は
一緒にいるんじゃないかな。
そのトイレも長くは行けない。



































僕はといえば少し頭髪が
薄くなってしまったのでベレー帽を
かぶっている。


























晶一朗しょういちろうがプレゼントしてくれた
赤のベレー帽。




























顔はこの歳にすれば比較的シワも
少ない方だと思うのだけれど。





























そのせいかみんなから
帽子のおじちゃん、と呼ばれていて
晶一朗しょういちろうは不満そうにしていた。




























「なんでたもつがおじちゃんで
俺はおじいちゃんなんだ!
同い歳だぞ!」



























そう言ってよく笑っていたっけ。




























そしてたもつは童顔だからな…と
赤くなって熱い声で囁く。





























歳をとってもとてもダンディで
笑顔が素敵な晶一朗しょういちろう




























それが腰椎をやってから
認知症の症状が顕著に出はじめて…。



























晶一朗しょういちろうは少年の頃にかえった。




























『ほらしょうちゃん。あーん。』
























「たっくん~んあ…」

























『こぼさず食べて~はい。
美味しい?』

























晶一朗しょういちろうの口元を拭いながら微笑む。
























「ん~。あそぼっ。」


























『しょうちゃん、ご飯食べてからね。
はい。』



























「んぐっ…ん………。あー。
たっくん、ぎゅー!」


























『わ、こぼれるよ~!んふふ。
はい、ぎゅー!』


























「もっとー!」


























『はぁい。食べてから、ね。』



























いちいち可愛いしょうちゃんの相手を
している時間はとても愛おしい。
























僕はこの人といられることが
本当に幸せだ。





























「ごちそーさまっ…ぎゅー!」
























『ほら、まだ半分も食べてな…
あはは…もう~。はい、ぎゅー!』





























幸せそうに目を閉じて僕に抱きつく
しょうちゃん。


























しょうちゃん、少年に戻って
幸せならいいな…。






























『しょうちゃんおねんねする?』






















「ん~。たっくんもおねんねー!」
























『え?僕も?』


























「おねんねっ!」

























『しかたないなぁ…ふふふ。
じゃあちょっと先に
しょうちゃんの体を横にするね。
………よ、いしょ、っと。』



























「たっくん~おねんね~!」
























『はいはい、しょうちゃん。
よ、っと。はい、………ぎゅー!』


























「ぎゅー!」



























あははは!と笑いあって
少しの睡眠をとった。















































目を覚ますとしょうちゃんが
僕をじっと見つめている。
























『しょう、ちゃ、ん?』






















たもつ…愛してるよ。
ありがとうな。俺、幸せだよ。」


























晶一朗しょういちろう……………?』


























「本当にありがとう。たもつ。」



























『ぅぅぅ…。晶一朗しょういちろう僕も…僕も幸せ。
愛してる…。ありがとう………。』






































「…………ん。たっくん、なかないれ…。
ないちゃやだ…。よちよち…。」


























『………グズッ…。しょうちゃんごめんね。
泣かないよ。』


























「いいこいいこ!」























『ふふふ…ありがと。』

































「おなかすいた…。」























さっき食べたばかりなのに
またお腹がすいた、と言う。

























『ああ…ご飯食べようか…。』




















「うん!」






























最近ずっとこの繰り返し。
でも愛おしくて愛おしくて僕は
何度でもお世話をするんだ。























この時間が永遠ならいいのに、と
叶わない願いを持ちながら…。





























そして数年後…。もう完全に
何もわからなくなった晶一朗しょういちろう
それでも僕の手を握り僕の目を見て
微笑んで旅立った。



































納棺まで2人きりにしてもらった僕は
晶一朗しょういちろうに語りかける。



























晶一朗しょういちろう…。ありがとうね。
今世も幸せだったよ。

僕をずっと守ってくれてありがとう。

あのね…。晶一朗しょういちろう
お仕事がんばってくれたおかげで
こんなにも君と一緒に安らかに過ごせて
そして君の最期を看取ることが出来た。

バリバリの営業マンで
ずっと好成績を上げ続けた君は
いろいろつらいこともあっただろうに
苦しい顔も見せずに定年まで働ききって
それからは僕とずっと一緒にいてくれて…。

いろんなところを旅したねぇ。

全都道府県制覇したもんね!

海外旅行も楽しかったなぁ…。
アメリカ、ヨーロッパ、タイ
エジプト、韓国…。
たくさん行ったね…。

でも、なにげない毎日も
とても素敵な日々だった。

いつも愛してるって言ってくれて
嬉しかった。

お義父さんも、うちの母も
2人できちんと看取って……。

ここに来てからも和気あいあいと
できて嬉しかった。
ゆっくりと語らいながら愛を囁きながら
何不自由なく過ごさせてもらって
愛をたくさん伝えてくれて
僕も伝えられて。

そしてちゃんと看取らせてくれて
ありがとう…。

晶一朗しょういちろう…。ありがとう…。
ありがと…ありが……………
うぅぅぅ…ああ………晶一朗しょういちろう

もう一度…僕を抱きしめてよ!
ねぇ、起きて…。晶一朗しょういちろう…!ねぇ…。



ごめん。………。また、会えるもんね。
それまでとっとく。

楽しみに待ってる。待ってるよ…。

僕の君…………。

今度会える時もまた
素敵な時を過ごそうね…。



早く、来てね………。待ってるから。』






























僕は一晩冷たい晶一朗しょういちろうの体を
抱きしめて眠った。

























抱き返してはくれないだろうか…。
目が覚めたら僕の顔を見つめて
たもつ…と囁いてくれないだろうか…。


























淡い期待も虚しく翌日晶一朗しょういちろう
納棺され荼毘に付され…。



























僕はひとりでいつまでも晶一朗しょういちろう
焼かれている建物から登る煙を見ていた。

























その煙が一瞬ハートになったように
見えたのは僕の願望からだろうか。


























2ヶ月後、僕はお世話になった
職員さんたちに見守られて
息を引き取った。














































**********************

僕はれん
16年、生きてきたけれど…。
つらいことばかりで、もう…。

諦めよう。

生きていてもしんどすぎる。





























ネットで一緒に死んでくれる人を
募集したら1人だけ連絡をくれた。
























その人と駅で待ち合わせをして。
























そして樹海へ入ろうと約束した。


























僕の目印は赤のベレー帽。
























れんくん、ですか?」






















『あ、はい………。聖南せな、くん?』

























「やめよう。」






















『はい?』






















「死ぬの。」























『は?』

























「俺、…来た。やっと来たんだ。
おまえの元へ。俺の事、思い出して…。」



























『なにを思い出せ、っての?』


























不意に手を握られる。


























「すぐに思い出せるはず。」































この手…覚えがある。
ああ………やっと。やっと会えたんだ。


























僕の目から涙が零れる。






















『うぅぅぅ…遅いじゃん…。
すぐ来てって言ったのにっ…
しょうちゃん!』
























「ごめんよ…たっくん。
………グズッ…。これからは俺が守るから。
だからやめよう。生きよう。
生きていこう、2人で。」



























晶一朗しょういちろう…。』























たもつ…。たもつ…。
遅くなってごめん。」




























晶一朗しょういちろう。ほんとに遅い!
僕諦めようと…。』




























「よかった…間に合った………。」



























へなへなと座り込む聖南せなくんを
僕は抱き起こした。






























聖南せなくん…。ありがとう。
来てくれて。待ってたよ。』



























れんくん…。諦めようとしたくせに。
…………ありがとう。いてくれて。」






























『君がいるから、僕がいる。』


























「……………うん。そうだな。
ね、一緒にあそこ行こうか。」

























『僕達の原点、でしょ?』
























「そう…。」































『海!』「海!」























同時に叫び、んふふふ!と笑い合い
自然と手を絡ませ握りあった。






































また繰り返す物語。
今度はどんな物語だろう。

























永遠に地球が終わる日まで繰り返す
きみとぼくの物語。































きみがいるからぼくがいる 【完】
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

tanap
2020.08.31 tanap

めちゃめちゃ泣きました…。ふたりがまた出逢えてよかった…😭💕

2020.08.31 勇黄

読んでくださりありがとうございました!泣いてくださったなんて感激です!

解除

あなたにおすすめの小説

俺の彼氏は真面目だから

西を向いたらね
BL
受けが攻めと恋人同士だと思って「俺の彼氏は真面目だからなぁ」って言ったら、攻めの様子が急におかしくなった話。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

真面目な部下に開発されました

佐久間たけのこ
BL
社会人BL、年下攻め。甘め。完結までは毎日更新。 ※お仕事の描写など、厳密には正しくない箇所もございます。フィクションとしてお楽しみいただける方のみ読まれることをお勧めします。 救急隊で働く高槻隼人は、真面目だが人と打ち解けない部下、長尾旭を気にかけていた。 日頃の努力の甲斐あって、隼人には心を開きかけている様子の長尾。 ある日の飲み会帰り、隼人を部屋まで送った長尾は、いきなり隼人に「好きです」と告白してくる。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。