騙し屋のゲーム

鷹栖 透

文字の大きさ
上 下
10 / 10

第十章:騙し屋のゲーム、終幕

しおりを挟む
葛西は、高層マンションの最上階の部屋で、満足そうにA市の夜景を眺めていた。窓の外には、宝石を散りばめたように街の灯りが輝き、まるで山下の失った王国を嘲笑うかのようだった。テーブルの上には、二つのグラスと、高級そうなウイスキーのボトルが置かれている。氷がグラスの中で静かに音を立てて溶けていく。

「乾杯」

葛西は、琥珀色の液体で満たされたグラスを掲げた。

「山下は、我々の仕掛けた罠に、見事にハマりましたね」

僕もグラスを手に取り、静かに葛西と乾杯した。ウイスキーを口に含む。滑らかな舌触りで、複雑な香りが鼻腔をくすぐる。しかし、その高貴な味わいを、心から楽しむことはできなかった。

「ええ。全ては計画通りです。後藤くんの情報操作、田島の演技、そして加藤さんの協力、どれも完璧でした」

葛西は、静かに微笑んだ。その表情には、達成感と、冷徹さが入り混じっていた。

「これで、一件落着ですね」

僕は、安堵のため息をついた。山下の破滅を確認した今、心の中にあった復讐心は、静かに鎮火していた。しかし、それと入れ替わるように、奇妙な虚脱感が胸の中に広がっていくのを感じた。

「そうですね。加藤さんには、約束通り、成功報酬をお渡しします。一億円を取り戻せたので、その10%、1000万円です。今回の件で、お祖父様の土地は取り戻せませんが、このお金で新しい生活を始めてください。」

葛西は、テーブルの下からアタッシュケースを取り出し、開けた。中には、ぎっしりと札束が詰まっている。札束の束を僕に手渡した。ずっしりとした重みが、現実のことのように感じられた。

「受け取ってください。これは、成功報酬であり、同時に…口止め料です。」

葛西は、にこやかに微笑みながら、低い声で言った。

「今回の件は、他言無用でお願いします。もし誰かに話したら…どうなるか、わかりますよね?」
その言葉に、僕は背筋が凍る思いがした。葛西の笑顔の裏に隠された、冷酷な本性を見た気がした。

「…わ、わかりました」

僕は、か細い声で答えた。

「いいですね。では、これで終わりです。新しい人生を楽しんでください、加藤さん」

窓の外では、夜明けが近づき、東の空が、オレンジ色に染まり始めていた。

「そろそろ、失礼します」

僕は、葛西に別れを告げ、部屋を後にした。マンションを出ると、朝の冷たい空気が、僕の頬を撫でた。新しい一日が始まる。

これで、全てが終わった。騙し屋のゲームは、終幕を迎えたのだ。
僕は、深呼吸をして、歩き始めた。前方には、まだ見ぬ未来が広がっている。希望に満ちた未来を、確かに、この手に掴むために。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

総務の黒川さんは袖をまくらない

八木山
ミステリー
僕は、総務の黒川さんが好きだ。 話も合うし、お酒の趣味も合う。 彼女のことを、もっと知りたい。 ・・・どうして、いつも長袖なんだ? ・僕(北野) 昏寧堂出版の中途社員。 経営企画室のサブリーダー。 30代、うかうかしていられないなと思っている ・黒川さん 昏寧堂出版の中途社員。 総務部のアイドル。 ギリギリ20代だが、思うところはある。 ・水樹 昏寧堂出版のプロパー社員。 社内をちょこまか動き回っており、何をするのが仕事なのかわからない。 僕と同い年だが、女性社員の熱い視線を集めている。 ・プロの人 その道のプロの人。 どこからともなく現れる有識者。 弊社のセキュリティはどうなってるんだ?

失せ物探し・一ノ瀬至遠のカノウ性~謎解きアイテムはインスタント付喪神~

わいとえぬ
ミステリー
「君の声を聴かせて」――異能の失せ物探しが、今日も依頼人たちの謎を解く。依頼された失せ物も、本人すら意識していない隠された謎も全部、全部。 カノウコウコは焦っていた。推しの動画配信者のファングッズ購入に必要なパスワードが分からないからだ。落ち着ける場所としてお気に入りのカフェへ向かうも、そこは一ノ瀬相談事務所という場所に様変わりしていた。 カノウは、そこで失せ物探しを営む白髪の美青年・一ノ瀬至遠(いちのせ・しおん)と出会う。至遠は無機物の意識を励起し、インスタント付喪神とすることで無機物たちの声を聴く異能を持つという。カノウは半信半疑ながらも、その場でスマートフォンに至遠の異能をかけてもらいパスワードを解いてもらう。が、至遠たちは一年ほど前から付喪神たちが謎を仕掛けてくる現象に悩まされており、依頼が謎解き形式となっていた。カノウはサポートの百目鬼悠玄(どうめき・ゆうげん)すすめのもと、至遠の助手となる流れになり……? どんでん返し、あります。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【毎日更新】教室崩壊カメレオン【他サイトにてカテゴリー2位獲得作品】

めんつゆ
ミステリー
ーー「それ」がわかった時、物語はひっくり返る……。 真実に近づく為の伏線が張り巡らされています。 あなたは何章で気づけますか?ーー 舞台はとある田舎町の中学校。 平和だったはずのクラスは 裏サイトの「なりすまし」によって支配されていた。 容疑者はたった7人のクラスメイト。 いじめを生み出す黒幕は誰なのか? その目的は……? 「2人で犯人を見つけましょう」 そんな提案を持ちかけて来たのは よりによって1番怪しい転校生。 黒幕を追う中で明らかになる、クラスメイトの過去と罪。 それぞれのトラウマは交差し、思いもよらぬ「真相」に繋がっていく……。 中学生たちの繊細で歪な人間関係を描く青春ミステリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】ZERO─IRREGULAR─

月夜
ミステリー
コンビニ帰りに人の声が聞こえた主人公が見たのは、地面に倒れる男性と、その側にいる男女二人だった。

処理中です...