騙し屋のゲーム

鷹栖 透

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第九章:崩れ去る王国

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一億円を支払い、念願の土地を手に入れた山下は、高揚感に包まれていた。会社の業績不振も、この土地の売却益で全て解決する。そう確信し、未来への希望に胸を膨らませていた。高層ビルを見下ろすオフィスで、山下は一人、勝利の美酒に酔いしれていた。

しかし、その喜びは、砂上の楼閣のように脆く、儚いものだった。

数日後、山下が土地の所有権移転登記の手続きを進めようとした矢先、思いもよらない事実が発覚した。法務局の窓口で、担当者から告げられた言葉は、信じられないものだった。

「申し訳ありませんが、この土地は既に別の会社の所有になっております。売買契約は無効です。」
耳を疑った。売買契約は無効? どういうことだ?頭の中が真っ白になった。

「…しかし、私は、田島氏からこの土地を購入したんです。正式な契約書もあります」
山下は、慌てて契約書を差し出し、必死に訴えた。

担当者は、契約書を念入りに確認した後、冷たく首を横に振った。

「この田島という人物、そして彼が代表を務めていた株式会社ランドスケープは、実在しません。全て偽装です。登記簿も、権利証書も、全て偽造されていました。彼は、最初からこの土地を売却する権利を持っていませんでした」

冷や汗が、滝のように山下の背筋を伝った。偽装? 騙されたのか?目の前の現実を受け入れることができない。

「…そんなバカな…」

山下は、茫然と呟いた。全ては、罠だったのだ。田島という男も、都市開発計画の噂も、全ては、自分を騙すための、精巧に仕組まれた嘘だった。

「一億円…」

その金額が、山下の頭の中を駆け巡った。会社の金で支払った一億円。もはや、返済の見込みはない。会社の損失は、さらに膨らみ、倒産は避けられない状況となった。従業員への給料、取引先への支払い…全てが滞り、会社は機能不全に陥った。積み上げてきたものが、音を立てて崩れていく。

「終わった…」

山下は、力なく呟いた。全てを失った。金も、地位も、プライドも。そして、会社も。
怒りと後悔が、山下の心を蝕んでいった。あの土地に目がくらむべきではなかった。もっと慎重に事を運ぶべきだった。甘い言葉に騙されるべきではなかった。

得体の知れない何者かに操られていたような気がした。底知れぬ恐怖が、山下の心を締め付ける。まるで、見えない糸で操り人形のように踊らされていたかのような、不気味な感覚。

一体誰が、何のためにこんなことを?

山下一郎の王国は、音を立てて崩れ去った。残されたのは、瓦礫の山と、深い絶望、そして底知れぬ恐怖だけだった。

闇は深く、山下の未来を全て飲み込もうとしていた。
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