騙し屋のゲーム

鷹栖 透

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第八章:一億円の罠

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山下の元に、田島と名乗る男から連絡が入ったのは、後藤が偽の情報を流してから数日後のことだった。田島は、都心の一等地にある土地を所有する、株式会社ランドスケープの社長だと名乗り、売却を考えていると持ちかけてきた。

山下は、既にネット上で噂になっている都市開発計画の情報と、田島の所有する土地の位置が一致することに気づき、息を呑んだ。まさに、噂の土地だった。開発計画が実現すれば、土地の価格は10倍以上に跳ね上がると予想されている。

ここ数ヶ月、山下の会社は業績不振にあえいでいた。取引先の倒産、不良債権の発生、そして山下の個人的な流用…様々な要因が重なり、会社の資金繰りは火の車だった。このままでは、倒産は避けられない。なんとかして、この窮地を脱する必要があった。

「これは、千載一遇のチャンスだ…」

山下は、高揚感を抑えきれなかった。加藤から騙し取った金だけでは、会社の損失を穴埋めするには到底足りない。だが、この土地を手に入れれば、全てが変わる。一発逆転、乾坤一擲のチャンス。目の前に、光り輝く未来への扉が開いたように感じた。

指定された高級レストランで田島に会うと、彼はやつれた様子で、深刻な表情を浮かべていた。会社の経営が傾き、緊急に資金が必要になったため、泣く泣くこの土地を売却することにしたという。言葉に詰まり、時折、ハンカチで目元を拭う田島の姿は、山下の心に同情よりも、更なる高揚感をもたらした。絶好の機会が目の前に転がってきたのだ。騙される方が悪い。

そう思っていた山下の心に、罪悪感は微塵もなかった。

提示された価格は、一億円。確かに高額だが、開発計画が実現すれば、すぐに元が取れる。いや、それどころか、莫大な利益を生み出すだろう。会社の損失も帳消しになり、再び経営は安定するはずだ。

「田島さん、この土地、ぜひ私に売ってください!」

山下は、前のめりになり、食い気味に購入の意思を伝えた。

「…本当にいいんですか? 山下さん。こんな大金…」

田島は、ためらうように言った。

「もちろんです! この土地は、必ずや大きな利益を生み出すでしょう。田島さんのご厚意、決して無駄にはしません!」

山下の声は、興奮でかすかに震えていた。

数日後、山下の会社で、土地の売買契約が締結された。契約書にサインする山下の手に、力が入る。会社の命運を賭けた一筆だった。契約書にサインした瞬間、山下の顔には、安堵と勝利の笑みが広がった。
一億円は、山下の会社名義の口座から、田島の指定する口座に振り込まれた。取引は、滞りなく完了した。
山下の破滅は、既に始まっている。

彼はまだ、自分が巨大な罠に足を踏み入れたことに気づいていない。
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