騙し屋のゲーム

鷹栖 透

文字の大きさ
上 下
3 / 10

第三章:カフェでの密約

しおりを挟む
約束の15時少し前に、「カフェ・ド・ソレイユ」に到着した。重厚な木の扉を開けると、コーヒーの香りと落ち着いたジャズの音楽が、静かに僕を迎えてくれた。店内は、午後の陽光で満たされ、ゆったりとした時間が流れている。まるで、外の喧騒とは無縁の、別世界に迷い込んだようだった。

指定された席に着き、辺りを見回した。どの客も、思い思いの時間を過ごしている。読書をする人、談笑する人、窓の外を眺める人。彼らの穏やかな表情とは裏腹に、僕の心は緊張で張り詰めていた。

これから会う謎の相談屋、葛西史郎とは、一体どんな人物なのだろうか。

15時ちょうど、入口のドアベルが鳴った。入ってきたのは、40代くらいの男だった。グレーのスーツに、少し無精髭を生やし、鋭い眼光と、口元に浮かんだかすかな笑みが印象的な男。それが葛西史郎だった。彼の視線は店内を一巡し、すぐに私を見つけた。まるで獲物を探す鷹のような鋭さを感じた。

彼は僕の席に近づき、軽く会釈した。「加藤さんですね? 葛西です」

落ち着いた声だった。声のトーン、表情、仕草、全てが自然で、わざとらしさが感じられない。胡散臭いウェブサイトとは裏腹に、意外にも洗練された印象を受けた。

「ええ、加藤です。よろしくお願いします」

僕は少し緊張した声で答えた。葛西は向かいの席に座り、メニューも見ずに、ウェイトレスにブラックコーヒーを注文した。その仕草に、自信と風格が感じられた。彼は注文後、私をじっと見つめ、何かを考えているようだった。その視線は、まるで私の中身まで見透かそうとしているかのようだった。

「では、早速ですが、相談内容をお聞かせください」

葛西の視線が、まっすぐに僕に向けられた。その鋭い視線は、まるで僕の心の中を見透かしているかのようだった。

僕は、祖父の土地のこと、山下の嘘、五百万で売買契約を結んでしまった経緯を、できるだけ詳しく説明した。話しながら、再び怒りと悔しさがこみ上げてきて、声が詰まりそうになった。

話を聞き終えた葛西は、しばらく黙り込んでいた。コーヒーカップを回し、ゆっくりとコーヒーを口に含む。その間、彼の視線は、一点を見つめているようだった。まるで、僕の言葉の一つ一つを、深く咀嚼しているかのようだった。

「なるほど…なかなか巧妙な手口ですね。山下は、あなたのお祖父様との関係性、あなたの性格、置かれている状況…全てを把握した上で、あなたを言葉巧みに操った。プロの仕事です」

葛西の言葉は、鋭く核心を突いていた。まるで、事件の全てを見透かしているかのようだった。

「…どうすればいいのでしょうか?」

僕はすがるような思いで尋ねた。

葛西は少し微笑んで、言った。「大丈夫。私に任せなさい。必ず解決してみせる。私は、あなたのような人を助けるために、この仕事をしているんです」

その言葉に、僕はかすかな希望を感じた。
「ただし…」葛西は言葉を続けた。「この件は、詐欺事件です。解決するには、それなりの時間と費用がかかります。

相談料とは別に、成功報酬を頂きます。金額については、後日改めてご相談させていただきます。」
葛西の言葉は現実的で、冷徹だった。希望の光が見えたと思った矢先、再び不安の闇に突き落とされたような気がした。

それでも、他に頼れるあてもない。
「…わかりました」僕は覚悟を決めて言った。「お願いします。何でもしますから、助けてください」
葛西は深く頷き、言った。

「よろしい。では、明日から早速調査を始めましょう。詳しいことは、また連絡します」

カフェを出ると、空には星が輝き始めていた。冷たい夜風が、僕の頬を撫でた。葛西という男は、本当に僕を救ってくれるのだろうか。期待と不安が入り混じった、複雑な感情を抱きながら、僕は家路についた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

総務の黒川さんは袖をまくらない

八木山
ミステリー
僕は、総務の黒川さんが好きだ。 話も合うし、お酒の趣味も合う。 彼女のことを、もっと知りたい。 ・・・どうして、いつも長袖なんだ? ・僕(北野) 昏寧堂出版の中途社員。 経営企画室のサブリーダー。 30代、うかうかしていられないなと思っている ・黒川さん 昏寧堂出版の中途社員。 総務部のアイドル。 ギリギリ20代だが、思うところはある。 ・水樹 昏寧堂出版のプロパー社員。 社内をちょこまか動き回っており、何をするのが仕事なのかわからない。 僕と同い年だが、女性社員の熱い視線を集めている。 ・プロの人 その道のプロの人。 どこからともなく現れる有識者。 弊社のセキュリティはどうなってるんだ?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

失せ物探し・一ノ瀬至遠のカノウ性~謎解きアイテムはインスタント付喪神~

わいとえぬ
ミステリー
「君の声を聴かせて」――異能の失せ物探しが、今日も依頼人たちの謎を解く。依頼された失せ物も、本人すら意識していない隠された謎も全部、全部。 カノウコウコは焦っていた。推しの動画配信者のファングッズ購入に必要なパスワードが分からないからだ。落ち着ける場所としてお気に入りのカフェへ向かうも、そこは一ノ瀬相談事務所という場所に様変わりしていた。 カノウは、そこで失せ物探しを営む白髪の美青年・一ノ瀬至遠(いちのせ・しおん)と出会う。至遠は無機物の意識を励起し、インスタント付喪神とすることで無機物たちの声を聴く異能を持つという。カノウは半信半疑ながらも、その場でスマートフォンに至遠の異能をかけてもらいパスワードを解いてもらう。が、至遠たちは一年ほど前から付喪神たちが謎を仕掛けてくる現象に悩まされており、依頼が謎解き形式となっていた。カノウはサポートの百目鬼悠玄(どうめき・ゆうげん)すすめのもと、至遠の助手となる流れになり……? どんでん返し、あります。

【毎日更新】教室崩壊カメレオン【他サイトにてカテゴリー2位獲得作品】

めんつゆ
ミステリー
ーー「それ」がわかった時、物語はひっくり返る……。 真実に近づく為の伏線が張り巡らされています。 あなたは何章で気づけますか?ーー 舞台はとある田舎町の中学校。 平和だったはずのクラスは 裏サイトの「なりすまし」によって支配されていた。 容疑者はたった7人のクラスメイト。 いじめを生み出す黒幕は誰なのか? その目的は……? 「2人で犯人を見つけましょう」 そんな提案を持ちかけて来たのは よりによって1番怪しい転校生。 黒幕を追う中で明らかになる、クラスメイトの過去と罪。 それぞれのトラウマは交差し、思いもよらぬ「真相」に繋がっていく……。 中学生たちの繊細で歪な人間関係を描く青春ミステリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】ZERO─IRREGULAR─

月夜
ミステリー
コンビニ帰りに人の声が聞こえた主人公が見たのは、地面に倒れる男性と、その側にいる男女二人だった。

処理中です...