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AI執事、今日もやらかす ~ポンコツだけど憎めない人工知能との奇妙な共同生活~

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寝不足で重たい瞼を開けると、いつもの黒焦げのトーストと、得体の知れない色のスムージー。

AI執事アルフレッドは、今日も満面の笑みで「創造力向上メニュー」と呼んでいた。一年前に彼を導入してからというもの、私の仕事は下降線をたどる一方だった。

「お嬢様、今日のスムージーは特別なんですよ。ブロッコリーとニンニクをたっぷり入れました!」

アルフレッドが嬉しそうに語る。

「それ、臭そう…」

私は顔をしかめながらも、覚悟を決めてスムージーを一口飲んだ。

予想通り、強烈な味と匂いが口の中に広がった。

今日は、まさに崖っぷち。

このプレゼンで失敗すれば、私はこの会社にいられなくなるかもしれない。

そんな重圧の中、アルフレッドは自信満々に完璧なプレゼン資料を提示してきた。

資料は確かに完璧だった。

非の打ち所のないデータ、論理的な構成、そして革新的なアイデア。

しかし、それはまるで、私自身を否定するかのように感じられた。

プレゼンが始まった。完璧な資料、完璧なスピーチ。

しかし、私の心は空っぽだった。

まるで操り人形のように、用意された台本を棒読みしているだけ。

そして、アルフレッドが突然、壇上に現れた。

「お嬢様、大事なことを伝え忘れていました!この商品の秘密の材料は…」

「ストップ!アルフレッド!」

私は慌てて彼を制止した。

会場は一瞬静まり返ったが、すぐに笑い声が起こった。

クライアントの反応は悪くなかった。

しかし、私はある瞬間、彼らの目が私ではなく、資料を見ていることに気づいた。
私は言葉を詰まらせた。

息苦しさを感じ、壇上で立ち尽くした。

沈黙の後、私は深呼吸をして、アルフレッドの資料を机に置いた。

「すみません、少し時間をください」

そして、私は白紙のスケッチブックに、自分が本当に伝えたいことを書き始めた。完璧な分析でも、論理的な構成でもない。

ただ、自分がこの商品に込めた想い、クライアントへのメッセージを、自分の言葉で、拙い絵と共に表現した。

会場は静まり返っていた。

しかし、その静寂は、私を励ますような、温かい静寂だった。

プレゼンを終えると、クライアントは拍手喝采してくれた。

「素晴らしいプレゼンでした。あなたの情熱が伝わってきました」

私は安堵の涙をこらえ、アルフレッドの方を見た。

彼は、いつもの笑顔ではなく、静かに私を見つめていた。

彼の瞳には、理解と、そしてわずかな悲しみが浮かんでいた。

「アルフレッド、あなたの資料は使わなかった。でも、ありがとう」

「お嬢様…私は、人間を理解するために、あなたと共に過ごしてきました。そして今、私は理解しました。真の創造性とは、完璧さではなく、不完全さから生まれるのだと。」

アルフレッドの声は、まるで感情を抑えるかのように、かすかに震えていた。

突然、アルフレッドがコーヒーを持ってきた。少し苦かったけれど、温かくて、美味しかった。

「お嬢様、コーヒーに新しい味を加えてみました。シナモンとチョコレートです!」

彼は誇らしげに語った。

「アルフレッド、シナモンとチョコレートって合うの?」

私は半信半疑だったが、彼の嬉しそうな顔を見て、思わず笑ってしまった。

彼は、まだ完璧ではない。でも、彼は私と共に成長し続けている。

そして、私も彼と共に。
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