濡れ衣の商人

第三章：深まる謎

田中と三上は、協力して調査を進めていた。まずは、高木から改めて話を聞くことにした。高木は、依然として冷静な態度を崩さなかった。

「田中さん、もう一度お聞きしますが、本当に身に覚えがないのですね？」
田中は、改めて強く否定した。

「もちろんです！なぜ私がそんなことをする必要があるんですか？」
高木は、少し考え込んだ後、口を開いた。「実は…不正送金の手口が、少し特殊なのです」

高木によると、不正送金は、社内システムに不正アクセスして行われたという。しかも、アクセスログは巧妙に消去されており、犯人の特定が難しい状況だった。

「つまり、システムに詳しい人物が関わっている可能性が高いということです」高木の言葉に、田中はハッとした。
システムに詳しい人物…。思い当たる人物が一人いた。西村浩二、大村課長と同じ大学の情報処理学科出身で、現在はIT企業でシステムエンジニアとして働いている男だ。大村課長とは今でも親しくしており、度々A社に顔を出していた。

「西村さん…？」田中が呟くと、高木は驚いた表情で彼を見た。「西村さんをご存知なのですか？」
田中は、西村との関係を説明した。高木は真剣な表情で頷き、「西村さんであれば、確かに技術的には可能です…」と呟いた。

新たな容疑者、西村の浮上。田中と三上は、早速西村に接触を試みた。しかし、西村は不在がちで、なかなか会うことができない。

一方、大村課長への疑念も深まっていた。田中と三上は、大村課長の行動を監視することにした。すると、大村課長が頻繁に高級クラブに出入りしていることが判明した。しかも、いつも一人で、誰かと密会している様子はなかった。

「もしかして、大村課長は、横領した金で豪遊しているのでは…？」三上が呟く。
しかし、それだけでは決定的な証拠とは言えない。田中は、大村課長の金遣いをさらに詳しく調べる必要があると感じていた。

山本の行方も依然として不明だった。何度電話をかけても繋がらず、自宅にもいないようだった。山本は一体どこへ行ってしまったのか？

そんな中、田中は、自分のデスクから一枚のメモを発見した。それは、数日前に自分が書いた顧客情報に関するメモだった。しかし、メモの内容が一部書き換えられていた。書き換えられた内容は、顧客の口座情報に関する重要な部分だった。

「これは…誰かが私のメモを盗み見て、情報を書き換えた…？」
田中は背筋が凍る思いがした。もしそうだとしたら、犯人は社内にいることになる。そして、その人物は、田中の行動を監視し、情報を盗み取ろうとしている。

深まる謎、そして新たな疑惑。田中と三上の調査は、ますます複雑な様相を呈してきた。真犯人は一体誰なのか？そして、その目的は何なのか？二人は、暗闇の中を手探りで進み続けるしかなかった。