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クロワッサンとイチゴジャム

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顔も見えないまま、その瞬間、その人は右手を私に差し出した。


何か持ってる。


「え?イチゴ?」


「…これ…落とした…」


息も切れ切れに、その人はそう言って、そして…


ゆっくりと体を起こした。


うわ…


可愛い顔。


「これ、私が落としたの?」


「はい」


後ろのカゴを確認したら…


確かに…


イチゴが無い。


「嘘、これ拾ってくれたの?」


「落とすの見えたんで…」


ニコッと笑う。


綺麗な二重の優しい顔立ちで、笑うと口角が上がり…すごく可愛い。


黒髪で、ショートマッシュにナチュラルな無造作パーマが良く似合ってる。


「私、どこで落としたんだろ?全然気づかなかった…」


「自転車、走り出してすぐですよ」


「嘘、すぐ?」


「はい。僕、あのスーパーでバイトしてて、すぐに追いかけたかったんですけど、他の人に品出しの商品頼んだりしてたら遅れて、急いで拾って走ってきました」


そっか…


スーパーからずいぶん走らせてしまったんだ…


申し訳ないな。


でもその人は、もう息が整ってる。


さすが若い…


「ごめんね。わざわざ走って来てくれて…本当にありがとう。すごく嬉しい」


「良かったです、追いついて」


ニコニコ良く笑う青年…


私まで幸せな気持ちになる。


「あの…スーパーにたまに来られますよね?僕も大学忙しいんであんまりバイト入れてないんですけど…もし、また僕のこと見かけたら絶対声かけて下さい」


絶対…って…


こんなイケメンにそんなこと言われたら…


なんか少し照れる。


「ありがとう。私は、そこの「杏」って言うパン屋で働いてるの。今度、イチゴのお礼にパンをご馳走するから寄ってみて」


私、何言ってるんだろ?


初めて話した男性に自分の素性を明かすなんて。


「あのパン屋で?そうだったんですね。ぜひ行かせてもらいます。嬉しいです」
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