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もう1つの桜の前で

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『…え?』


ただ真っ直ぐに、私の隣で桜を見てる茅野君の横顔…


穏やかな風に少し揺れる前髪。


鼻から口へのラインがとても綺麗だ。


『このままずっと一緒に、この桜を見ていられたらいいなって…そんな風に思ってしまいました』


ずっと桜の木に視線を向けたままの茅野君。


『すみません…僕なんかにそんなこと言われたら迷惑ですよね?』


そう言って、ゆっくりと私の方に顔を向けた。


なのに、今度は私が茅野君を見れなくて、さっと顔をそらせてしまった。


今、目の前に見える桜は、ぼんやりしたライトに照らされて情緒的だ。


『迷惑って…ごめん、今の言葉の意味がよくわからないから、なんて答えたらいいのか…』


いやだ…


さっきまで普通に同僚として話してた人に、どうしてこんなにドキドキしてるの?


私の好きな人は…


茅野君じゃないのに。


『…ですよね、すみません。なんか自分でも何を言ってるのかわからなくなりました。ダメですよね、僕。でも…ちゃんと言います』


今度は私が、ゆっくりと茅野君の方に体を向けた。


『本当に…突然ですみません。ただ、今日、森田様のプロポーズ、とても良くて、感動したんで…僕も好きな人に気持ち伝えたいなって、急にそんな風に思ってしまって』


私を切なげな目で見つめる茅野君。


『僕…グレースホテル東京のコンシェルジュになって、初めて松下さんに会って、いろいろ話したり笑い合ったり。毎日一緒に過ごしてるうちに…』


一瞬、言葉が止まった。


茅野君は、自分の洋服の胸の辺りを右手でグッとつかんだ。


何だか、ちょっと息苦しそうで…


『…僕、あなたのことを好きになってしまいました。ただの同僚だなんて思えなくて』


『…茅野君?』


『気づいてなかったですよね?僕、そういう気持ちを隠すの上手いんで。でも、一花さんがただ隣にいるだけで、いっつもドキドキしてたんです。勝手にすみません』


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