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桜散る前の幸せ

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ニコッと笑う山内さんに、自分の気持ちを見透かされていないかドキドキした。


『か、彼氏なんていませんから』


その時、目の前に颯爽と1人の男性が現れた。


総支配人…


絢斗は私達の前に来て、


『おはようございます、山内さん、松下さん。今日もよろしくお願い致します。山内さん、何かあれば私に報告よろしくお願いします』


と、一礼して、優しい笑みと共に立ち去った。


キリッとした一連の立ち居振る舞いが、グレースホテル東京の品格にピッタリとハマっていて見事だと思った。


チーフの山内さんもピンと背筋が伸び、私も一段と気が引き締まる思いがした。


絢斗は、朝の全体朝礼を終えてから、毎日必ず時間をかけてホテルの隅々までくまなく回っている。


宿泊して下さっているお客様はもちろん、従業員にも丁寧に挨拶をしているんだ。


その際、各部門の責任者とも連携し、修理箇所がないか、何かの不具合やトラブルがないか、細かなところまで同時に見て回ってる。


ホテルのトップとして、そういう状況を把握することは当たり前のようで…


それ以外にも、お客様の体調や従業員のメンタルまで気を配ってくれて。


更には売り上げのことまで…


相当、気を張って1日を過ごしているんだろう。


そう思うと、自分ももっと気合いを入れて頑張らないとダメだって思えた。


『すみません。コンシェルジュさん、少しいいですか?』


お客様が私に言った。


見た感じ20代の優しそうな男性だ。


『おはようございます。お伺い致します』


私は笑顔で答えた。


『すみません。明日から宿泊させてもらうんですが…実は、彼女と2人で食事をした後、彼女に…その…』
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