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もうひとつの別れ

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『蓮見さん…あなたって本当にお人好し』


そう言って春香さんは笑った。


『…素敵だよ、その笑顔。春香さんには笑顔が良く似合う。本当に可愛い』


心からそう思った。


『蓮見さん。私、別の病院で看護師続けるから。本当は全て投げ出して逃げたいって思ったけど…私の輝ける場所は看護師しかないから。患者さんのために何かしたい。あなたに言われて…気持ちが変わった』


『本当?だとしたらすごく嬉しい』


こんな短い会話で気持ちを変えてくれて…勇気を出して話しかけて良かった。


すごく…ホッとした。


『恋なんか…もう、しばらくはしたくない。看護師として、絶対に患者さんのお役に立てるよう頑張る』


その顔は、さっきまでとは違って、覇気のある表情に変わっていた。


『うん、春香さんなら大丈夫。その笑顔があれば絶対大丈夫だから。新しい病院で頑張ってね。私、応援してるから』


それに、今の春香さんなら、きっと新しい恋だってできるよ。


『…ありがとう。ねえ、蓮見さん』


改まった顔で私を見る。


『何?どうかした?』


私が聞くと、下を向いてしまった。


『春香さん?大丈夫?』


『あ、あの、この前、蓮見さんが足に怪我したの…あれ、私の責任だから』


笑顔が消えて急に真剣な表情に変わった。


『ううん、それは違うよ。あの時はね、私の不注意だったんだ。だから気にしないで』


私はニコッと微笑んだ。


気にしてくれてたんだね、それだけで十分。


『私が…意地悪だった。突然声をかけてしまったから蓮見さんがびっくりして。それなのに私は…』


『だから違うって。もう全然治ってるしね』


『痛かった…と思う』


『白川先生に、落としたのが患者さんの足だったらどうするんだって言われてハッとしたよ。私、ひとつ勉強になったんだ。仕事中の不注意はダメだって。本当に私で良かったよ。それに…他に良かったこともあったから』


そう、あの怪我のおかげで私は…蒼真さんとの距離が嘘みたいに近づいたんだから。
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