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after story ~雫side~

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『それは素敵ですね。あっ、もうすぐクロワッサンが焼けますから、ぜひ焼きたてをお持ち下さいね』


私は、せっかく来てくれた「杏」の大切なお客様に、クロワッサンを少し多めに入れて手渡した。


『嬉しいです。ありがとうございます。家に帰って食べるのが楽しみです。また、必ず買いに来ますね』


優しい笑顔でそう言ってくれた。


『息子さんにもよろしくお伝え下さいね。あの時の味とは違うと思いますけど…でも、きっと…美味しいですから』


あんこさんには一生敵わない。


だけど「自信持ちな」って…その師匠が言ってくれたパンだから…


お客様には…胸を張って販売したい。


あの頃のお客様が来てくれて、本当に嬉しかったし、とても幸せな気持ちになれた。


あんこさんに感謝だな…


『ありがとうございます!またお待ちしております。気をつけて帰って下さいね』


私は、そのお客様を店の外まで見送った。


ご家族みんなで美味しく食べてもらえたらいいな…


私のパンで笑顔になって、ほんの少しでも「幸せ」を感じてもらえたら…


それが作り手として1番嬉しいことだから。


お客様の姿が見えなくなるまで手を振って、そして、頭を下げた。


顔を上げ、ふと空を見たら、とても青くて綺麗な空が広がってる。


今日は…良い天気だな…


私は、お店の近くにある桜の木々に目を移した。


大きくて立派な木が、道路脇に等間隔ではるか向こうまで並んでる。


満開で見頃を迎え、たくさんの人が立ち止まって鑑賞している。


ジョギングをしてる人、ペットの散歩をしてる人も…思わず足を止めていた。


桜には人を惹き付ける美しさがある。


若い人も、年齢を重ねた人も、カップルだったり、ご夫婦だったり…


みんなが、いろんな思いでこの桜に見入っているんだろう。


私は…


さっきのお客様みたいに立派な母親になれたのかな?


子育てに正解なんてないとは思う。


だけど…


正孝があんなに素敵な家族を作ることが出来たんだから…


それが全てだよね。
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