上 下
117 / 152
店長の悲しい過去

3

しおりを挟む
「お礼?」


「僕は、君のおかげでトラウマから少し抜け出せたんだ。初めて本気で人を好きになれたんだよ。生まれて初めて…琴音ちゃんを…」


「店長…」


「話が出来るようになっても、女性を好きになるなんて有り得ないと思ってた。なのに、僕は君のことを好きになれた。とても不思議な感覚だったよ。これが一目惚れなのか? これが人を好きになるってことなのか?って」


今の店長の顔、すごく優しい。


「あの時、デートしてもらってすごくドキドキしたよ。初めてを悟られないように、慣れてるフリして下心があるとか言ってごまかしたんだ。もちろん、女性にキスしたのも…初めてだった」


「えっ」


「キスの仕方がわからなくて、あんな突然に…申し訳なかったと今でも思ってるよ。この年齢でファーストキスなんて恥ずかしくて言えなかった。でも、あの瞬間、どうしても琴音ちゃんにキスしたいって…思ってしまったんだ」


店長のその言葉に、思わずキュンとしてしまった。


ほんの少しだけでも怖いトラウマから抜け出せたなら、そのお手伝いができて良かったと思った。


もちろん、店長の気持ちに応えることはできないけど…


「今でもまだ、どうして店長に好きになってもらえたのか不思議ですけど、でも…ありがとうございます」


何て言えばいいのか言葉に迷ったけど…


私の方こそお礼を言いたくなった。


「本当にありがとう。僕は、最初で最後の恋をさせてもらえて幸せだよ」


「最後だなんて言わないで下さい…」


「僕にもっと勇気があれば、君をあの人から奪えたのかな…?  契約結婚だと聞いた時、心がとてもザワザワした。君は幸せなのか? って」


「契約結婚のこと、聞かれたんですか?  もしかして…姉が?」


店長はうなづいた。


涼香姉さん…綾井店長に話してたんだ。


「でも、やっぱり僕には何もできなかった。琴音ちゃんをただ見てることしか。あの事故があって、僕は確信したよ。君達は…ちゃんと愛し合ってるんだって。琴音ちゃんは幸せなんだって。だから、それでいいんだよ。君が幸せなら、それで…いいんだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

鳴宮鶉子
恋愛
Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

シングルマザーになったら執着されています。

金柑乃実
恋愛
佐山咲良はアメリカで勉強する日本人。 同じ大学で学ぶ2歳上の先輩、神川拓海に出会い、恋に落ちる。 初めての大好きな人に、芽生えた大切な命。 幸せに浸る彼女の元に現れたのは、神川拓海の母親だった。 彼女の言葉により、咲良は大好きな人のもとを去ることを決意する。 新たに出会う人々と愛娘に支えられ、彼女は成長していく。 しかし彼は、諦めてはいなかった。

偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「このまま中止するか、俺を代理にして式を挙げるか」 結婚式当日。 大幅に遅れに遅れてやってきた花婿は……知らない男でした。 彼曰く、本来の花婿はついさっき、結婚詐欺で逮捕。 決断を迫られた私は、見ず知らずの彼と結婚式を挙げることに。 ……そこまではまあよかった、が。 「李亜、俺のものになれ」 結婚式費用と引き換えに、彼に買われた……。 咲乃李亜 28 FoSCompany営業統括部 営業職に就いていたキャリアウーマン 寿退社したものの、結婚詐欺に遭って一文無し 仕事の面では優秀 けれどそのせいで冷たく見られがち 見た目が地味すぎて老けて見られる 自分のことには引っ込み思案 × 御津川慧護 34 世界に名だたるMITSUGAWA警備の若き社長 顔、いい 背も高い ただし、性格はGoing My Way 猪突猛進、狙った獲物は逃がさない 初夜からはじまる慧護との関係に、李亜は落ちるのか……!?

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

現在の政略結婚

詩織
恋愛
断れない政略結婚!?なんで私なの?そういう疑問も虚しくあっという間に結婚! 愛も何もないのに、こんな結婚生活続くんだろうか?

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

景華
恋愛
顔いっぱいの眼鏡をかけ、地味で自身のない水無瀬海月(みなせみつき)は、部署内でも浮いた存在だった。 そんな中初めてできた彼氏──村上優悟(むらかみゆうご)に、海月は束の間の幸せを感じるも、それは罰ゲームで告白したという残酷なもの。 真実を知り絶望する海月を叱咤激励し支えたのは、部署の鬼主任、和泉雪兎(いずみゆきと)だった。 彼に支えられながら、海月は自分の人生を大切に、自分を変えていこうと決意する。 自己肯定感が低いけれど芯の強い海月と、わかりづらい溺愛で彼女をずっと支えてきた雪兎。 じれながらも二人の恋が動き出す──。

処理中です...