世界で1番幸せな私～イケメン御曹司の一途で情熱的な溺愛に包まれて～

幸せなんて……ない

3

「いいんだよ。双葉は少しダイエットしなきゃ」


「……私はこれで十分です。ありがとうございます」


本当にこれでいい。
申し訳ないけど、おばさんの料理に心の底から「美味しい」と思えたことは1度もない。


子ども心にわかってたんだ、料理には作る人の愛情や優しさがこもるんだって。


「お母さん、それじゃあ可哀想だよ。双葉ちゃん、私のを分けてあげるね」


「ダメ、双葉にはこれでいいの。生活費だって安くしてあげてるんだから。もみじ、もっと食べたいなら揚げるから言ってちょうだい」


「これ以上食べたら食べ過ぎで太っちゃうよ～」


「もみじはスリムなんだからしっかり食べなきゃ。お父さん、いつまで新聞読んでるの！   早く食べてよ」


笑顔の絶えない団欒――


ずっとずっと憧れていた。
両親の笑顔も、あまりにも長い時間が過ぎたせいで、どんどん記憶が薄れていって……
当たり前の幸せを感じることがなかった私は、もう二度と家族との「笑顔の絶えない団欒」なんて持てないと思ってる。


「今日はじゃがいもがいつもより高かったのよ。ほんと、嫌になる。どこまで物価を上げれば気が済むのかしらね。お父さんの給料じゃやってらんないわ、全く」


おばさんは思い付く限りの文句を言ってガサツに笑う。時々、この人は自分が女性であることを忘れてしまったのか──と思うことがある。


反対に、おじさんはとても寡黙で、いちいち反論せずに黙ってる。
見た目もおばさんとは対照的で、細身で小柄。白髪混じりの髪のせいで年齢よりずいぶん老けて見える。


私は、勢力図がハッキリとしているこの家で、子どもの頃から上手く笑えずにいた。
だけど、もみじちゃんがいつも味方でいてくれたから、何とか平静を装えた。


「双葉ちゃん、コロッケ美味しいよね～」


「う、うん」


「あっ、今度一緒に映画観にいこうよ。観たいのがあるんだ」


「双葉。映画なんか観てる場合じゃないよ。しっかり働いて、今月分の生活費、ちゃんと払ってよ」


おばさんは、大きな手で茶碗を持ち、白米を口に大量に運びながら私をにらんだ。