上 下
74 / 135
クリスマス・イブの夜に

6

しおりを挟む
「ああ。こんな夜景、今までゆっくり見る余裕がなかった」


「忙しかったですもんね。樹さん」


本当にこんな素敵な場所、よく見つかったなって思う。


「お腹空いただろ」


そう言って、樹さんは、後ろのシートに置いてあるボックスから何か取り出して、私に渡してくれた。


「少し冷めてるけど」


ハンバーガー、触るとまだ温かい。


「悪いな、こんなもんで」


「い、いえ、とんでもないです。すごく美味しそうです」


樹さん、さっきフロアに遅れてきたのは、これを買いにいってくれてたからなんだ……
嬉しい……
何気ない優しさが、ただただ嬉しかった。


「クリスマスイブだし、普通なら高級レストランで食事とかなんだろうけど……。悪いな。俺はこういう方が好きだから」


「私もハンバーガー大好きですよ。それに温かくて嬉しいです。これ、保温ケースですか?」


「ああ、昨日買った」


ハンバーガーを食べながら、樹さんが言った。


この人、本当に優しいんだな。
人の気持ちを考えて、自然に行動できるんだ。


「もうすぐだな。食べたら、コート着て」


もうすぐって……何だろう?
何が始まるの?


期待に胸を弾ませて、コートを着て、手袋にマフラーで、私は車外に出た。
2人並んで、ガードレールの前に立った。


「あと、2分」


「何か始まるんですか?」


「もうすぐわかる」


そして、樹さんが言った通り、ちょうど2分後にサプライズが始まった。


空にとても綺麗な大輪の花が咲いた――


「うわぁ、花火だ」


あまりの感動に思わず叫んでしまった。


「冬の花火。これを柚葉に見せたかった」


色とりどりで鮮やかな花火が、次々に咲き、あまりの美しさに目を奪われた。夜景の上空にいくつも広がる花火に感動が止まらない。


あの日、私は、柊君と夜景を見ることができなかった。
その代わり、今、こんなにも素敵な時間を過ごすことができている。


私のズタズタに傷ついた心をい優しさで埋めてくれる樹さん。その温かい思いやりを、私は痛いほど感じて、嬉しくて涙が溢れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷酷社長に甘く優しい糖分を。

氷萌
恋愛
センター街に位置する高層オフィスビル。 【リーベンビルズ】 そこは 一般庶民にはわからない 高級クラスの人々が生活する、まさに異世界。 リーベンビルズ経営:冷酷社長 【柴永 サクマ】‐Sakuma Shibanaga- 「やるなら文句・質問は受け付けない。  イヤなら今すぐ辞めろ」 × 社長アシスタント兼雑用 【木瀬 イトカ】-Itoka Kise- 「やります!黙ってやりますよ!  やりゃぁいいんでしょッ」 様々な出来事が起こる毎日に 飛び込んだ彼女に待ち受けるものは 夢か現実か…地獄なのか。

【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~

蓮美ちま
恋愛
最低最悪な初対面だった。 職場の同僚だろうと人妻ナースだろうと、誘われればおいしく頂いてきた来る者拒まずでお馴染みのチャラ男。 私はこんな人と絶対に関わりたくない! 独占欲が人一倍強く、それで何度も過去に恋を失ってきた私が今必死に探し求めているもの。 それは……『Dの男』 あの男と真逆の、未経験の人。 少しでも私を好きなら、もう私に構わないで。 私が探しているのはあなたじゃない。 私は誰かの『唯一』になりたいの……。

黒王子の溺愛

如月 そら
恋愛
──経済界の華 そんなふうに呼ばれている藤堂美桜は、ある日パーティで紹介された黒澤柾樹に一目惚れをする。 大きなホテルグループを経営していて、ファンドとも密接な関係にあるというその人が、美桜との結婚を望んでいると父に聞かされた美桜は、一も二もなく了承した。 それが完全な政略結婚であるとも知らずに。 ※少し、強引なシーンがあります。 苦手な方は避けて下さいね。o(_ _)o  ※表紙は https://picrew.me/share?cd=xrWoJzWtvu #Picrew こちらで作成させて頂きました!

ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編

タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。 私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが…… 予定にはなかった大問題が起こってしまった。 本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。 15分あれば読めると思います。 この作品の続編あります♪ 『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』

アクセサリー

真麻一花
恋愛
キスは挨拶、セックスは遊び……。 そんな男の行動一つに、泣いて浮かれて、バカみたい。 実咲は付き合っている彼の浮気を見てしまった。 もう別れるしかない、そう覚悟を決めるが、雅貴を好きな気持ちが実咲の決心を揺るがせる。 こんな男に振り回されたくない。 別れを切り出した実咲に、雅貴の返した反応は、意外な物だった。 小説家になろうにも投稿してあります。

鬼上司は間抜けな私がお好きです

碧井夢夏
恋愛
れいわ紡績に就職した新入社員、花森沙穂(はなもりさほ)は社内でも評判の鬼上司、東御八雲(とうみやくも)のサポートに配属させられる。 ドジな花森は何度も東御の前で失敗ばかり。ところが、人造人間と噂されていた東御が初めて楽しそうにしたのは花森がやらかした時で・・。 孤高の人、東御八雲はなんと間抜けフェチだった?! その上、育ちが特殊らしい雰囲気で・・。 ハイスペック超人と口だけの間抜け女子による上司と部下のラブコメ。 久しぶりにコメディ×溺愛を書きたくなりましたので、ゆるーく連載します。 会話劇ベースに、コミカル、ときどき、たっぷりと甘く深い愛のお話。 「めちゃコミック恋愛漫画原作賞」優秀作品に選んでいただきました。 ※大人ラブです。R15相当。 表紙画像はMidjourneyで生成しました。

極道に大切に飼われた、お姫様

真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

処理中です...