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同僚の想いは春風とともに

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私のことで恭介君を悩ませるなんて…


でも…


本当に千隼先生と私は何でもないから。


『おまけにうちのホテルの御曹司ってさ、全く俺なんか勝ち目ないよね。どこをとっても負けてる。でもさ、ウジウジ考えて落ち込むくらいなら、思い切って告白しようって思ってしまって。本当、バカだよね』


『そんなことない、恭介君はバカじゃないよ。やっぱり…嬉しかった。私のことを想ってくれてるなんてまだ信じられないけど、でも本当に…嬉しかったから』


それは本音、決して嘘じゃない。


『…ありがとう、里桜。そう言ってもらえて…良かったよ』


そう言った恭介君の表情に、なぜかほんの少しだけ寂しさを感じた。


『私は千隼先生…あっ、晴月部長とはもちろん付き合ってないし、美穂先輩がいうように全く釣り合ってもない。これからも…私達がどうにかなるなんて…きっとないから』


『未来のことはわからないよ。里桜と晴月部長、里桜と俺。誰とどうなるのかなんて…今はわからない。だから、ものすごく不安なんだ。俺、里桜にフラレるの、めちゃくちゃ怖い』


ベンチに座ったまま私を見つめる恭介君の瞳がとても綺麗で…


私、言葉が出てこなくなった。


『ごめん、また困らせた。本当ダメだ、俺』


『ごめん。恭介君の気持ち、嬉しいよ。だけどね、私、恋愛のこととかしばらく考えて生きてこなかったから…急で頭が混乱しちゃってるんだと思う。全然何も上手く言えないで、ごめんね』


お互いが何度も謝って…


何だか本当に動揺してる。


恭介君のこと嫌いじゃない。


カッコいいし、素敵な人だし、性格だって好きだよ。


でもやっぱり…


恭介君を男性として「好き」かって聞かれたらわからない。


たぶん…今は違う?


これから先のことなんて、確かにわからないけど、でも…


この思い、今は口に出来なかった。


仕事のモチベーションとして私のことを思ってくれてるならなおさらだった。


私達はしばらく目の前の春の景色に視線を向け、ただ、それを眺めた。


静寂な時がどれだけ流れただろう…


2人ともベンチから立ち上がることが出来ず、恭介君の横顔も見れなかった。


息を吸って吐く行動、ただそれだけが繰り返される。


それでも…


恭介君は言葉を絞り出し、


『さあ、明日からまた忙しくなるよ。結婚式はまだまだこれからもずっと続く。今は特に式を挙げる人が多い季節だからね、俺も頑張るよ』


って、決意したように笑った。


その顔に救われる。


『う、うん。私も…頑張る』


『誰かが幸せなら、それが俺達の幸せでもある。だから一生懸命仕事頑張りたいし、里桜が側にいるからそれが出来るよ』


恭介君の笑顔、やっぱり嬉しい。


温かくて優しいけがれのない眼差し…


何だかちょっと泣きそうになる。


『待ってる、里桜の気持ち。焦らないでいいから考えてみて。それまで、俺、絶対に笑顔でいるから』


そう言って恭介君が見上げた空は、とっても澄み切った雲一つない爽やかな水色だった。
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