私の中の深い闇

けいこ

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私の幸せ

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嘘…

先生は、手術をこばんだ。

すぐの手術は危険だからって。

ふざけたこと言わないで。

お金はたくさんあるんだから、グズグズしないで早く私をもっと綺麗にして。

私は、先生に詰め寄った。

『わかりました、でも、責任は、一切負いませんよ』

先生の腕は、やっぱり確かだったわ。

無事に手術が終わった。

数日、入院して、私はまた生まれ変わる。

生まれてから、結局1度も幸せじゃなかった。

沙羅の人生は、母や真梨愛のせいで散々だったし、 真優の人生も直也にぶち壊された。

次は、なんて名前にしようかな。

こうやって、私は幸せになる…


考えただけで、気持ちが高ぶった。




朝になって、部屋のテレビをつけた。

ニュースだ。

『…真梨愛さんが襲われた事件で、警察は、同時期に行方が分からなくなっている有田沙羅さんが何らかの事情を知っているのではないかとみて、捜索を急いでいます』

ニュースでは、真梨愛が重傷と伝えた。

嘘よ。

真梨愛は死んだはず。

冷静になって考えた。

息があるか、心臓が止まったかなんて、確認してない。

死んでなかったんだ…

しくじった。


でも、今の私に警察がたどり着くのは絶対に無理なんだから、何も心配することはないわ、大丈夫よ。




直也君のことも、すぐにニュースになった。

監視カメラに写った女、真優の顔が公開されている。

沙羅も真優も、どこを探したって見つかりっこないわ。

生きていたとしても、真梨愛のことなんて、もう、どうでもいい。

私は、もうすぐ、とてつもない幸せを掴むんだから。


私を見下げて来た、最低の人間達を、今度は私が上から見下ろしてやるわ。




私はもう人を殺してるの、どんなことも怖くない。

あれから何日経ったかしら?

綺麗な顔、体、貯め込んだお金、 さあ、今日は、いよいよ私の新しい人生の始まりの日。

先生が、ゆっくりと包帯を外した。

沈黙の時間…

『目を開けてもいいですか?』

それでも、先生は何も言わない。

私は、待てなくて、目を開けたの。

鏡の中の私に会うために。


『え?』 




何?

これは何?

人間?

嘘よ、これは夢?

真優のような綺麗な顔は?

肌がガサガサで、目が腫れぼったくて、鼻も歪んでる、とんでもなく醜いものが、鏡の中にいる。

これじゃあ、沙羅よりもひどいじゃない。

『嫌!いやー!!』

病院中に響き渡るくらい叫んだ。

病院と行っても、汚いビルの部屋を改造して作ったような秘密の空間。

先生と看護師が1人。

私は、暴れ回った。


怖くて怖くて…どうしようもなく怖くて。




『だから言っただろう、危険だからって。お前が無理矢理やらせたんだ。俺は無免許なんだ、バレたら捕まるんだよ』

先生が豹変した。

看護師と2人で私を押さえつけ、注射をした。

私は…すぐに…眠って…しまった…

目が覚めたのは、夜中?

ここどこなの?

周りには、たくさんの木々。

まさか、森の中?

誰かが、スコップで土を掘り返している。

私は…もうろうとした意識の中で、すべて悟った。


殺される。




体は全く動かない。

もう、このまま、死んでしまうの?

私は幸せにはなれないの?

そう思った瞬間、心の中に、ふと、遠い昔の小さな記憶が蘇ってきた。

お父さんがまだ生きてた頃、お母さんと私の3人。

笑顔の記憶。

家族でよく遊びに出かけた。

お弁当持って公園に行ったり、水族館や動物園にもよく連れて行ってもらった。

私のことをとても可愛がってくれて…

幼い私は、笑ってるお父さんとお母さんが大好きだったんだ。

ずっと、無かったことのように封印してた思い出が、今になってとめどなく溢れ出してきた。


お父さん、お母さん…




そうだった…

私にも、幸せな時があったんだ…

いつの間にか、私はあきらめと憎しみの人生を歩んでしまっていた。

私は…

真梨愛や直也君よりも、もっともっと醜い悪魔になってしまったんだ。

私の人生は、ここで幕がおりる。

仕方ないわ、だって悪魔は生きてちゃいけないんだから。


声も出せない、動くことも出来ないのに、涙だけがどんどん流れていく。




先生と看護師が、私を穴に投げ落とした。

冷たい土が顔にかかる…

最後の瞬間、幼い頃の自分の笑顔が思い出された。

そう、幸せいっぱいの笑顔。

不思議だ。

なんだか心が温かい…

私の中の深い闇に、ひとすじの光が差したような気がした。


沙羅…さようなら…








 



 





 
 
 

 

 
 

 
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