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グレイトキングラットの伝説
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ヒューゴたち一行がグレンナ村に到着したのは正午を少し回った頃であった。
一行は早速昼食を取るためにグィードたち行きつけの宿屋赤い雀に向かう。
店の入り口を潜るとグィードは早速、人気のないカウンターに近づき声を掛けた。
「おーいダーグ。邪魔するぜぇ」
するとカウンターの奥から恰幅のいい男がおずおずと姿を現した。
そしてグィードの顔を見ると、すがるようにこう言った。
「グィードか、よく来てくれた。じつはレーナが魔物に攫われてしまったんだ。どうか助けてくれ!」
「レーナが攫われたって?いったいどういうことなんだ、おじさん、詳しく事情を聞かせてよ!」
グィードよりも先に、ヒューゴが反応した。
「おお、ヒューゴ、そうだな。だがいったい何から話してよいやら」
そう前置きをしてから、宿屋の主人ダーグが話し出したのは次のような話だった。
レーナは2日前、いつものように大森林に薬草や木の実などの採集に出掛けたらしい。
もちろん、1人でではなく村の樵や狩人も一緒に。
しかも、最近は魔物の群れの噂も聞いていたので、ちょうど村に立ち寄っていた4人組の冒険者のパーティーを護衛に着けて、合計10人で森に入った。
しかし、その日は誰も帰ってこなかった。
翌日、冒険者のリーダーと魔術師だけが帰ってきて、森の中で起こったことを報告した。
村人たちによる採集作業中は問題はなにも無かったらしい。
だが、夕刻になって彼らが村へ帰ろうとした時、突如それは現れたという。
それは巨大なネズミの群れであった。
人間の大人よりも巨大なネズミの群れが、突然、彼らに襲いかかった。
ネズミたちの目的は彼らの命ではなく、連れ去ることであるということはすぐに解ったという。
というのは、ネズミたちは迷うことなく村人たちを押し倒すと、その襟首を咥えて、やって来た方向に嵐のように去っていったというのだ。
取り残されたのは冒険者のリーダーと魔術師だけであったらしい。
そして彼らは、護衛の依頼もあり、仲間も心配であったので、ネズミの去っていった跡を追跡し、なんとかネズミたちの住処を発見したが、2人では救出は難しいと判断してグレンナまで帰って来た。
それが昨日のことだという。
じつは2日前、アルフォンスたちもグレンナ村を訪れていた。
アルフォンスたちの目的はノエル村に行くことであったから、その日は赤い雀とは別の宿屋に泊まり、翌朝早くに出発して、森でゴブリンの群れと戦闘をしている最中にヒューゴと出会ったのであった。
それと時を同じくしてして、同じ森の中で、まさかそんなことが起こっていたとは、アルフォンスたちは驚きを隠しきれなかった。
あるいは、タイミングが少しずれて、その護衛役をアルフォンスたちが受けていれば状況は、今とは違っていたかも知れないと、アルフォンスは考えた。
彼らの任務は、それほど急ぐものではなかったので、もし依頼されていれば、請けていた可能性は十分にあった。
いずれにせよ、攫われたというのであれば村人は生きている可能性が高いと皆が考えていた。
ただ、それもいつまでかは解らない。
速やかな救出の必要があった。
「その冒険者たちは今どこにいる?今から俺たちがネズミどもの住処に向かう。案内をさせよう」
グィードの決断は早かった。
冒険者たちはすぐに連れてこられた。
グィードたちが来なければ、酒場で別の上級者パーティーを見つけて救出に向かう計画であったが、問題はこんな辺境の村に上級の冒険者たちは滅多にやってこないということであった。
そう考えると、運が良かったと言うこともできた。
なぜなら今ここにいるのは、ヒューゴを除けば、皆上級者以上の冒険者たちであったからである。
果たしてこれは偶然であるのか、それとも創造主と聖霊の導きであるのか?
ウァサゴはそんなことを考えていた。
冒険者のリーダーはハインツという騎士であった。
もう1人はアメリアという女の魔術師で、どちらも贔屓目に見て、なんとか中級と呼べる程度の冒険者であった。
その2人の案内を受けてヒューゴたちは今、ネズミたちの住処である洞窟の前まで来ていた。
グィードもヒューゴも、この辺りにそんな洞窟があるとはまったく知らなかった。
あるいはネズミたちによって、最近作られたものなのかも知れない。
なによりも、そんなに巨大なネズミが大森林に生息していること自体をグィードもヒューゴも知らなかったのである。
これはいよいよ、きな臭くなってきたとグィードは思った。
そしてディオゲネスは魔王に纏わる、ある伝説を思い出していた。
「偉大なるネズミの王の伝説を知っていますか?」
村からここまで来る間にディオゲネスは一行に、こんな話をして聞かせた。
「今からおよそ400年前、魔王が復活する前には幾つかの前兆があったようです。そのうちの1つが偉大なるネズミの王の出現でした。ある日、突然、旧アラヴァスタ王国の王都オブシディアンに巨大なネズミの群れが現れ、貴族の子どもたちを攫って行った。貴族たちは慌てふためいて国王に騎士団の派遣を要請したようですが、騎士団の準備が整う前にネズミたちの住処を突き止めて子どもたちを救い出したのが、後の義賊王ディミトリアスであったと言います。そしてそのネズミたちの群れを率いていたのが、7つの頭を持つ偉大なるネズミの王でした。もちろん単なるおとぎ話かも知れませんが、今回の状況によく似ていませんか?」
ディオゲネスのその話を聞きながら、皆うすら寒いものを感じていた。
「魔王復活の前兆ですか?興味深いですねぇ」
とウァサゴだけが面白がっていた。
ヒューゴは、ただただレーナのことが心配でならなかった。
そしてネズミたちの住処の洞窟の前まで来ると、グィードはハインツとアメリアの2人を村に帰らせた。
足手まといになると判断したのだ。
一行は早速昼食を取るためにグィードたち行きつけの宿屋赤い雀に向かう。
店の入り口を潜るとグィードは早速、人気のないカウンターに近づき声を掛けた。
「おーいダーグ。邪魔するぜぇ」
するとカウンターの奥から恰幅のいい男がおずおずと姿を現した。
そしてグィードの顔を見ると、すがるようにこう言った。
「グィードか、よく来てくれた。じつはレーナが魔物に攫われてしまったんだ。どうか助けてくれ!」
「レーナが攫われたって?いったいどういうことなんだ、おじさん、詳しく事情を聞かせてよ!」
グィードよりも先に、ヒューゴが反応した。
「おお、ヒューゴ、そうだな。だがいったい何から話してよいやら」
そう前置きをしてから、宿屋の主人ダーグが話し出したのは次のような話だった。
レーナは2日前、いつものように大森林に薬草や木の実などの採集に出掛けたらしい。
もちろん、1人でではなく村の樵や狩人も一緒に。
しかも、最近は魔物の群れの噂も聞いていたので、ちょうど村に立ち寄っていた4人組の冒険者のパーティーを護衛に着けて、合計10人で森に入った。
しかし、その日は誰も帰ってこなかった。
翌日、冒険者のリーダーと魔術師だけが帰ってきて、森の中で起こったことを報告した。
村人たちによる採集作業中は問題はなにも無かったらしい。
だが、夕刻になって彼らが村へ帰ろうとした時、突如それは現れたという。
それは巨大なネズミの群れであった。
人間の大人よりも巨大なネズミの群れが、突然、彼らに襲いかかった。
ネズミたちの目的は彼らの命ではなく、連れ去ることであるということはすぐに解ったという。
というのは、ネズミたちは迷うことなく村人たちを押し倒すと、その襟首を咥えて、やって来た方向に嵐のように去っていったというのだ。
取り残されたのは冒険者のリーダーと魔術師だけであったらしい。
そして彼らは、護衛の依頼もあり、仲間も心配であったので、ネズミの去っていった跡を追跡し、なんとかネズミたちの住処を発見したが、2人では救出は難しいと判断してグレンナまで帰って来た。
それが昨日のことだという。
じつは2日前、アルフォンスたちもグレンナ村を訪れていた。
アルフォンスたちの目的はノエル村に行くことであったから、その日は赤い雀とは別の宿屋に泊まり、翌朝早くに出発して、森でゴブリンの群れと戦闘をしている最中にヒューゴと出会ったのであった。
それと時を同じくしてして、同じ森の中で、まさかそんなことが起こっていたとは、アルフォンスたちは驚きを隠しきれなかった。
あるいは、タイミングが少しずれて、その護衛役をアルフォンスたちが受けていれば状況は、今とは違っていたかも知れないと、アルフォンスは考えた。
彼らの任務は、それほど急ぐものではなかったので、もし依頼されていれば、請けていた可能性は十分にあった。
いずれにせよ、攫われたというのであれば村人は生きている可能性が高いと皆が考えていた。
ただ、それもいつまでかは解らない。
速やかな救出の必要があった。
「その冒険者たちは今どこにいる?今から俺たちがネズミどもの住処に向かう。案内をさせよう」
グィードの決断は早かった。
冒険者たちはすぐに連れてこられた。
グィードたちが来なければ、酒場で別の上級者パーティーを見つけて救出に向かう計画であったが、問題はこんな辺境の村に上級の冒険者たちは滅多にやってこないということであった。
そう考えると、運が良かったと言うこともできた。
なぜなら今ここにいるのは、ヒューゴを除けば、皆上級者以上の冒険者たちであったからである。
果たしてこれは偶然であるのか、それとも創造主と聖霊の導きであるのか?
ウァサゴはそんなことを考えていた。
冒険者のリーダーはハインツという騎士であった。
もう1人はアメリアという女の魔術師で、どちらも贔屓目に見て、なんとか中級と呼べる程度の冒険者であった。
その2人の案内を受けてヒューゴたちは今、ネズミたちの住処である洞窟の前まで来ていた。
グィードもヒューゴも、この辺りにそんな洞窟があるとはまったく知らなかった。
あるいはネズミたちによって、最近作られたものなのかも知れない。
なによりも、そんなに巨大なネズミが大森林に生息していること自体をグィードもヒューゴも知らなかったのである。
これはいよいよ、きな臭くなってきたとグィードは思った。
そしてディオゲネスは魔王に纏わる、ある伝説を思い出していた。
「偉大なるネズミの王の伝説を知っていますか?」
村からここまで来る間にディオゲネスは一行に、こんな話をして聞かせた。
「今からおよそ400年前、魔王が復活する前には幾つかの前兆があったようです。そのうちの1つが偉大なるネズミの王の出現でした。ある日、突然、旧アラヴァスタ王国の王都オブシディアンに巨大なネズミの群れが現れ、貴族の子どもたちを攫って行った。貴族たちは慌てふためいて国王に騎士団の派遣を要請したようですが、騎士団の準備が整う前にネズミたちの住処を突き止めて子どもたちを救い出したのが、後の義賊王ディミトリアスであったと言います。そしてそのネズミたちの群れを率いていたのが、7つの頭を持つ偉大なるネズミの王でした。もちろん単なるおとぎ話かも知れませんが、今回の状況によく似ていませんか?」
ディオゲネスのその話を聞きながら、皆うすら寒いものを感じていた。
「魔王復活の前兆ですか?興味深いですねぇ」
とウァサゴだけが面白がっていた。
ヒューゴは、ただただレーナのことが心配でならなかった。
そしてネズミたちの住処の洞窟の前まで来ると、グィードはハインツとアメリアの2人を村に帰らせた。
足手まといになると判断したのだ。
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