上 下
33 / 44
第二章『それは、確かな歴史』

第三十二話「魔国」

しおりを挟む
「それで、この指輪は?」

 自分の小指にはめられたものを見ながらリリィーへ問う。
 中指には以前イブと買ったお揃いのものがあるので、今回は小指につける事にした。
 何か特別な効果でもあるのだろうか。

「御守りみたいなものよ。その、何というか、目に見えて私たちが仲間なんだって思えるものが欲しくて」

 リリィーが少し恥ずかしそうに視線を逸らす。
 意外にも御守りなんてもの信じるタイプのようだ。いや、リリィーらしいといえばらしいか。
 特殊な魔法は掛けられていないようだが、気持ちだけで十分嬉しいものがある。

「ほーん」

「な、何よ。その含みのある言い方」

「いや、結構信頼されてるんだなと思って」

「一ヶ月も一緒にくらせば、ね」

 この一ヶ月の思い出を振り返っているのか、リリィーが感慨深そうに目を細める。

 たしかに濃密な時間だった。ただ日常生活を送るだけでも、新しい発見があり、新鮮な思いをしてきた。
 それに、生まれて初めて家族以外の人間とここまで長い時間を共有したのだ。不安なこともあったが、当然ドキドキワクワクの方がずっと強い。


「私もリリィーの事は信頼してる......」

 イブが律儀に手を挙げ、ちょっと背伸びして答える。
 リリィーの仲間アピールに自分も答えたいと思ったのか今日のイブは積極的だ。ドヤ顔で
 ちなみに言っておくが此処は空中だ。空中で背伸びとは、これいかに。

 なんだか嬉しそうで、見ていてとても微笑ましい。

「俺は?」

「もちろんしてる......」

「なら、シオンは?」

「してない......」

「え!?」

 まさか否定されると思っていなかったのだろう。信じられないという表情でイブを見ている。

「まあ、存在が胡散臭いからな」

「酷くないかい!?」

 ショックを受けたシオンがガクリと項垂れる。
 その外国人じみた、気取ったオーバーリアクションも胡散臭い要因なんだが、本人は気づいているのだろうか。

「なあ、このペースだと魔国まで後どれくらいで着くんだ?」

「そうね、日付が変わるまでには着くんじゃないかしら」

「おい、嘘だろ!今午前中だぞ!あと何時間とばなきゃねーんだ!」

 別に体力的に問題はないが、精神的に疲れそうだ。

 そこで何かに気づいたイブがリリィーへ近づいていく。

「リリィーは魔国行ったことあるよね......?」

「そりゃ、もちろんあるけれど。まさか......」

 イブはリリィーの袖をちょこんと摘み、可愛くおねだりする。

「リリィー、GOー.......」

「嘘よね!?今更テレポートするの!?今ちょっと良い雰囲気で、ゆったり旅を楽しもうって流れだったじゃない!?」

 全力のツッコミがイブへ向かう。
 しかし、此処にはまだまだ伏兵がいた。

「まあまあ、リリィー物事は臨機応変が大事だよ」

「そんなシオン、あなたまで!?」

 味方だと思っていたシオンにまで裏切られ、リリィーは後が無くなる。

「それに僕はそんなに空を飛ぶのは得意じゃ無いんだ。実を言うと後五分もしないうちに墜落します」

「なんかサラッととんでもない脅し掛けられてる!? 」

 さすがにそんな事言われれば、リリィーとてテレポートしない訳にはいかない。非常に残念そうではあったが、渋々転移の準備を始める。
 イブは既にリリィーにくっついているので、差し出したリリィーの手を、俺とシオンが掴むだけだ。

 足元に黄色く発行する魔法陣が浮き上がる。
 こうして俺たちのゆったり旅はあっという間に終わりを迎えた。





 景色が切り替わる。先ほどまでとはうって変わって、建物やよく分からないオブジェなどの人工物が視界いっぱいに広がった。いきなり街中に転移したようである。
 どれもこれもドス暗い紫色レンガが使われていて、見た目の雰囲気からして悪い。ここら辺ではメジャーな素材なのだろうか。

 街行く人は、人間のような見た目の者がいれば、明らかに化け物のような者もいる。獣や爬虫類の特徴が体に出ていたり、俺の知らない生物がもとになっていたりと、実に様々だ。
 分かりやすいのだとケンタウロスやハーピーなんかがいる。よくゲームで見かけるようなやつらがいてテンションが上がった。

 ただゲームのようなポップな絵柄ではなく、リアルな見た目は大変生々しい。目つきの悪いやつらが多く、あまり治安も良くなさそうだ。
 なるほどこれが魔国か。幸い、誰にも見られていなかったようで騒ぎにはなっていない。



「しかし、すげー色してんな」

 俺は先程から視界に映る、建物の気色悪さに唸る。

「ここは瘴気が濃いのよ」

「瘴気?」

「魔力とは対になるエネルギーで、呪術や影術によく使われるわ。ただ、瘴気に触れ続けていると汚染されてしまうの」

「おいおい、それ身体に害とかないのか?」

 得体の知れないものの気味悪さに二の腕をさする。どう考えても良いものではないだろう。

「もちろんあるわよ。ただ生物の場合、体が浄化させる方が早いから問題はないわね。ここみたいに濃度が濃い場所は、魔族並みの強い肉体が必要だけど」

「俺たち大丈夫なんだろうな?」

「大丈夫なんじゃない?」

 質問が疑問形で帰ってくるので、思わず眉を潜める。あまりにも無責任ではないだろうか。

(スキル《瘴気耐性》を獲得しました)

「あ、大丈夫になったわ」

「スキル......?」

「ああ」

 話の最中からだいたい予想はついていたが、やっぱりこうなったか。
 慣れきってしまい、もう全く驚かない。感謝はしてるけどな。ほんとスキル様様です!

「相変わらず便利だね。心配なのは僕とイブかな」

「私、スキルある......」

「えー、僕だけー?」

 シオンが棒読みで驚いて見せる。
 まあ、イブが大丈夫なのは予想できてたからな。シオンも自分は大丈夫だと思っているのだろう余裕の表情だ。
 ここにいる全員そんなやわな身体はしていない。


「おい、あれ」

 カエル顔の男の二人組がこちらを見ながらひそひそと何か言い合っている。よくよく周りを見てみれば、そいつらだけではなく道中を行きかう人々が俺たちを見て訝しげな視線を向けていた。

 リリィーが大丈夫だといったから変装もせずこのまま来たが、今の俺たちの見た目はどこからどう見ても人間だ。この魔国ではやはり目立つようで、どうにも注目を集めてしまっている。

「なあ、やっぱり不味かったんじゃないか?」

「大丈夫よ。自分の種族を隠すために魔族特徴を隠して生活している人だって、今時はめずらしくないもの。それよりも――」

 そうだ。それよりも俺たちの中で一番注目を集めていたのは何故かリリィーだった。
 魔族のリリィーが人間を匿っているなんて展開にならなければいいのだが。

「あなた達のせいじゃないわ。私一人でもきっとこの反応よ」

「そうなのかい?」

「ええ、取り敢えず温泉宿に向かいましょうか」

 リリィーが急かすので、あとを追いかけて俺たちは温泉宿に向かう。しばらくその奇妙な視線が外れることはなかったが、リリィーはあまり気にしていないようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神々の娯楽に巻き込まれて強制異世界転生ー1番長生きした人にご褒美有ります

ぐるぐる
ファンタジー
□お休みします□ すみません…風邪ひきました… 無理です… お休みさせてください… 異世界大好きおばあちゃん。 死んだらテンプレ神様の部屋で、神々の娯楽に付き合えと巻き込まれて、強制的に異世界転生させられちゃったお話です。 すぐに死ぬのはつまらないから、転生後の能力について希望を叶えてやろう、よく考えろ、と言われて願い事3つ考えたよ。 転生者は全部で10人。 異世界はまた作れるから好きにして良い、滅ぼしても良い、1番長生きした人にご褒美を考えてる、とにかく退屈している神々を楽しませてくれ。 神々の楽しいことってなんぞやと思いながら不本意にも異世界転生ゴー! ※採取品についての情報は好き勝手にアレンジしてます。  実在するものをちょっと変えてるだけです。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

職種がら目立つの自重してた幕末の人斬りが、異世界行ったらとんでもない事となりました

飼猫タマ
ファンタジー
幕末最強の人斬りが、異世界転移。 令和日本人なら、誰しも知ってる異世界お約束を何も知らなくて、毎度、悪戦苦闘。 しかし、並々ならぬ人斬りスキルで、逆境を力技で捩じ伏せちゃう物語。 『骨から始まる異世界転生』の続き。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...